商品詳細高橋英樹さんに聞く(後)


"時代劇のエース"高橋英樹さんに時間を割いていただき、私の好きな70年代ドラマについてお話ししていただいた。(草野直樹)

■撮影現場は相当劣悪な環境

草野 今まで、いちばん影響を受けた俳優さんは?

高橋 いちばん影響を受けたのは尾上松禄ですよね。芸の上でも父親で、いちばん影響を受けましたねえ。日活時代というのは、仲間意識で楽しく、(石原)裕次郎さん、(小林)旭さん、(宍戸)錠さん、(二谷)英明さんはじめ、仲間と楽しく仕事をさせてもらったという、そのベースはありがたいんですよね。そのベースがあったからこそ今が成立している訳なんですけど、それに加えて、やらなければいけない、努力しなければならない、ということを暗に与えてくれた人です。

草野 「遠山の金さん」の頃だったと思うのですが、テレビ番組で、番組関係者とゴルフ大会をされるというのを拝見したことがあったのですが、やはり一緒に仕事をされるみなさんとのチームワークとかコミュニケーションを大切にされているということでしょうか。

高橋 はい。撮影というのは早朝から深夜に及び、今日の東京は暑いですが、京都はもっと暑いですから。寒さについても強烈です。そういうところで泥まみれになって......。決して綺麗に仕事をしている訳じゃないですよね。絵に映ると綺麗ですが、現場は相当劣悪な環境です。

ひとつのものを作り上げる中で何が一番大切かというと、ぼくは子供時代のどろんこ遊びをいつも思い浮かべるんですよ。どろんこ遊びってみんながドロの中で作り上げていくからおもしろいんで、外にいて遠くから眺めていてもちっともおもしろくない。みんなで作るということが大事なんであって、のべつ焼き肉大会、チャンコ鍋大会、と、○○大会をやっています。

京都には未だにぼく専用の大きな鍋があります。それで自分で作るんですよ、カツラしたままで、自分で仕入れからやって。「今日は無礼講だっ」て。ビール並べてグァーッと飲んでみんなで同じものを食べて。それで「撮影がんばろう!」って。そういうことをのべつやってましたね。そういうことが大事なんじゃないですかね。

草野 最近は、フィルムドラマの衰退が一部のドラマファンに残念がられているのですが、いかがお考えですか。

高橋 ぼくらは、こと時代劇に関してはフィルムの方がいいと思っています。映像というのは、映っていいところといけないところがありまして、ビデオは深度が深いものですから、うつしたくないところも綺麗にピントが合ってしまう、ということがあります。

35ミリのフィルムをビデオに焼き付けたものはいいんです。ただ、16ミリをビデオに焼き付けると、解像度の問題か何かで色味などもよくないんですね。このへん、技術的に研究すれば何とかなる問題だったと思うんですが、いかんせん、値段がビデオテープの方が安いですよね。だから、どうしてもビデオテープの方に移行してしまう。テレビの視聴者の皆さんは、ビデオのものを見続けていますから、フイルムものが出てくると何か昔の作品を見るような違和感があって、ますますビデオ化していったということでしょうね。

でもぼくは、やはり時代劇はフィルムの方がいいんじゃなかろうかと思います。研究を十分行わずに、「こんなもんじゃないの」で終わってしまったところは否めないんじゃないのかなあ。それがビデオ技術に取って代わられてしまったと。デジタルの小さなカメラで撮ってフィルムに焼き付け、それをビデオで起こすというような試みとか、もっと研究をすべきだと思いますね。
聞いたところでは、「インディージョーンズ」でトロッコが地下道を行くシーンは、日本のコンパクトサイズのカメラのコマ連写でずっと撮ってつなげていたそうですね。これならどこからでも撮れるので、広大なセットを作らなくてもいいわけです。日本の技術を向こうはうまく使っているわけですよね。

翻って日本では、「映画っていうのはこんなもんだ」という固定観念から離れず、角度が悪くても「カメラは入れませんから」と頑なになって撮っているところがあります。そんなとき、ちっぽけなカメラで撮ったっていいわけじゃないですか。ビルがないから大俯瞰が撮れないと言うけど、デジタルカメラを風船でとばせば大俯瞰が撮れるじゃないですか。失敗したらやり直せばいいんだから。柔軟性がないということなのかな。そのへんでフットワークよく、みんなが考えていかないと、ということですね。ビデオ化には綺麗さが求められていますが、それでもまだまだ考えるべき所はあると思います。

草野 NG集を批判されていましたよね。現在のテレビの番組作りにご意見は

高橋 役者が35回NG出して、36回目にいい芝居ができた。それをつなげて作るのが、我々の作り上げる映像だと思っているわけですね。そりや、1回でできればそれに超したことはないのですが、小津安二郎さんの時代から溝口健二さんの時代から、20回も30回も本番を撮って、その中のいいものをつなぎ合わせて日本の名作というのはできてきたわけですよね。

でもNGは、笠置衆さんも原節子さんもたぶんいっぱいやっていると思う。それは出しませんよね。だけど、今はその方が視聴率がいいんですから。他人の失敗は楽しいんでしょうが、自らの作り上げてきた映像の世界から見て、どこかで自分たちの首を絞めることにならないかと思うんです。

否定はしますけど、まあ、世の中の流れとして、あることだから、使われることだろうと思いながら演じてはいるんですけど。

■楽ではなく楽しく仕事をすることが大事

草野 最近はバラエティにも出られていますが、等身大のご自身を表現されるということでしょうか。

高橋 正義の塊の桃太郎侍。実はどんな奴なんだろうと視聴者が知りたがっている。それを、表現するひとつの形態がバラエティ番組ですね。

昔と違って情報もありますから、正義の味方を演じている人が家でもそうだとまでは思われません。ではそういう人間が普段はどうなのか知りたい、演じる立場の人間の普段の姿を見せてほしいという要望が視聴者の中に高まってきた。そこにギャップがあると、その役者が魅力的に感じられる。ですからバラエティー番組にも多く出るようにしています。普段の自分をいかにご覧いただくかということが、役を演じるときの変化につながっています。

ぼくは普段からおしゃべりで、ずっとおもしろいことを話し続けているもんですから、撮影所でもいつも人だかりがあると真ん中にいるのはぼくなんです(笑)

草野 クイズ「日本人の質問」もそういう意図で。

高橋 そうです、そうです。あれは役柄を演じることに関しては大変役立っています。でたらめばかり言ってるんですから。

草野 あれは、自分がハズレを言っていることはわかっているんですか。

高橋 わかってないんです。あくまでも自分の説を押し通してくださいというスタンスですから。古館君だけが正解を知っていて、我々は知らないんです。

逆に、それを主張し出すと、向こう側に座っていらっしゃる回答者の方たちが、「だまされてきているなあ、揺れ動いているなあ」「この人たち、今、頭の中がパニクッているなあ」ということが見えるんですね。それがぼくらはおもしろいです。

草野 今後は、時代劇も現代劇もバラエティーもやられると。 

高橋 そうです。そうです。一時期は、これはぼくに合わないんじゃないかとか思ったこともありましたが、仕事というのは、ぼくの素材を誰がどういう形で磨いてくれるだろうかということだと思うんです。役者というのはあくまでも素材にすぎないですから。磨き方によって自分がどう変化していくかというのも、自分の力以外の部分にもあると思うんですね。ですからバラエティにしても何にしても、どういう料理をしてくれるだろうかと。それに自分の身を投じていくことが勉強でもあるし、楽しみでもあります。

仕事が楽しいというのが一番だと思うんですよ。これはどんな仕事でも一緒です。楽しいか。楽しく仕事をしているか。楽しくないか。これは偉い違いです。どんな仕事でも楽な仕事はありません。どう楽しく自分自身を表現できるか。カット一つでも、楽しいカットか、楽しくないカットかによってできあがりは全く違ってきます。

それが原点となっているので、今、ものすごく楽しいです、何やっても。嫌だなあ、と思うことはないですね。

草野 やめようと思ったことは?

高橋 38、9年頃かな、1回だけ。日活時代に、主人公をやってくれといわれたのが、主人公ではない役にされたとき。そのとき、「今だったら学生に戻れるな」と思ったのが1回だけ。そのときに演じたのが、「青い山脈」のガンちゃんという少し3枚目の役で、これが、今にもつながっている3枚目の原点なんです。それを演じたとき「何だ、役者って、主役以外にこんなに楽しいときがあるんだ」って。表現する人間というのは、別に台詞が多いとか出番が多いとか、そういうことじゃないな。ちょっとしか出なくても、その中に凝縮された人間性というものをどれだけ表現できるかというのが役者のすばらしさだろうと。それ以来はやめたいと思ったことはないですね。

ふたつの道があったら、必ず険しい道を上りなさいといつもぼくは言うんです。楽な仕事とつらそうな仕事と二つあったら、つらそうな仕事を選びなさいと。険しい道をすぎれば、平坦な道は長く続きます。でも平坦な道を上ったら、あとは険しくなります。どっちがいいかっていったら、体力・余力があるウチに険しい道を上りなさいと。そうすれば自分自身を高めることができます。楽をしたらストップをするときですね。

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