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『バナナと日本人ーフィリピン農園と食卓のあいだ』 (岩波新書) はバナナの9割を生産するミンダナオ島大農園の真実を描く

『バナナと日本人ーフィリピン農園と食卓のあいだ』 (岩波新書) はバナナの9割を生産するミンダナオ島大農園の真実を描く

『バナナと日本人ーフィリピン農園と食卓のあいだ』 (岩波新書) は、バナナの9割を生産するミンダナオ島大農園の真実を描いています。かつては台湾でしたが、今やバナナと言えばフィリピンバナナ。明治以来の日本と東南アジアの歪んだ関係を描いています。

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なぜバナナは台湾からフィリピンに?

日本のバナナ市場といえば、かつては台湾でした。

バナナの叩き売りの啖呵売も、台湾台中から、門司港に運ばれ、83度の高熱で蒸されて一房なんぼのたたき売りされていくストーリーです。

うまれはタイワン・タイチュウの、阿里山麓の片田舎
ドジンの娘に見染められ、蝶よ花よと育てられ
ほんのりお色気ついたころ、国定忠治じゃないけれど
ひと房、ふた房、もぎ取られ、唐丸の籠に入れられて
阿里山麓をあとにして、ガタゴト列車にゆりゆられ
ついたところがキールン港、キールン港を船出して
キンパギンパの波超えて、海原遠い船のたび
難関辛苦のあかつきに、ようやく着いた門司港
門司は九州の大都会、ナカシの声も勇ましく
エンヤラ、ドッコイ掛声で、問屋のムロに入れられて
夏は氷で冷やされて、冬はタドンでうむされて
83度の高熱で、ほんのりお色気ついたころ
バナナ市場に売り出され、ひと房ナンボの叩き売り
さあさ、買うた、さあ、買うた、
わしのバナちゃん600円
600高けりゃ、58(ごんぱち)だ
58ゃ、昔の色男、それに惚れたか小紫
58高けりゃ55(ごんご)だ、
ゴーンゴーンは鐘の音、
鎌倉名物鐘なれど、金で浮世がすむのなら
奥州仙台伊達公に、なぜに高尾がほれなんだ

バナナの叩き売り(啖呵売)バナちゃん節は台湾で育てられ基隆港を船出して日本の門司港に着き黄色く蒸されて叩き売り
バナナの叩き売り(啖呵売)といえばバナちゃん節。台湾で育てられ、基隆港を船出して日本の門司港に着いたバナナ。8…
バナナの叩き売り(啖呵売)バナちゃん節は台湾台中で育てられた三尺バナナが日本の門司港目指し基隆港を船出する前半
バナナの叩き売り(啖呵売)は伝統芸能、いわゆる大道芸としておなじみですが、その前半は台湾台中で生まれ育てられた…

それが、今やスーパーを見ると、ほぼフィリピン、少数派の南米といったところです。

何しろスーパーや八百屋の店先に並べられるバナナは、現在その9割がフィリピン・ミンダナオ島の生産になっています。

台湾バナナに比べると、フィリピンバナナは安くて大きい。

そして、甘熟王に代表されるように、日本人好みのもちもち品種です。

どうしてそんなに安く、ニーズに噛み合う品種が作れるのでしょうか。

そこに迫っているのが、鶴見良行氏の上梓した『バナナと日本人ーフィリピン農園と食卓のあいだ』 (岩波新書)です。

お手頃価格で甘美なフィリピンバナナは、多国籍企業の暗躍、農園被雇用者の窮乏、さらに明治以来の日本と東南アジアのいびつな結び付きがあると書かれている衝撃的な読み物です。

アグリビジネスの利害関係

初版は30年も前ですが、いまだに売れ続け、ネットのレビューは毎年増えていきます。

書かれている内容の、細かい状況は当時とかわってはいるかもしれませんが、現在もなお、というよりいっそう、「バナナと言えばフィリピンバナナ」なのですから、当然かも知れません。

資本主義の最大の矛盾、富は搾取から生まれ、「先進国」がそれを享受している、という基本的な構造が今も変わることがないからこそ、読まれ続けているのでしょう。

不公平な貿易や多国籍企業の支配、日本の消費者の意識の低さは残念ながら変わっていないということです。

少なくとも1980年代の時点で、いかにしてフィリピンがバナナ輸出国になったのかを確認できる書籍です。

フィリピンのミンダナオには、日本市場向けの専用農園があります。

開発が始まったのは1960年代末。

本書は、多国籍企業とフィリピン支配層が、先住民族や自作農の土地を奪い、水田や畑を専用農園に収奪したことを明らかにしています。

しかも、農園のバナナは労働集約型の過酷な労働が必要な作業であり、彼らの労働力までも奪います。

その結果、1981年には、ドール(31%)、デルモンテ(28%)、チキータ(18%)、バナンボ(9%)と、たった4社で、フィリピンバナナは日本国内市場合計91%のシェアを占めます。

貧困にあえぐ農園労働者と、一方で巨額の利潤を溜めこむ企業を、見事に描ききっています。

安くて甘いバナナを支えている、消費者には普段見えない生産国の内幕が深くリアルに伝わってきます。

本書では、「安くて甘いバナナも、ひと皮むけば、そこには多国籍企業の暗躍、農園労働者の貧苦、さらに明治以来の日本と東南アジアの歪んだ関係が鮮やかに浮かび上がる」と語っています。

大変シリアスな話です。

その供給で富を得るフィリピン。

貿易仲介でビジネスの旨みをたっぷり享受するアメリカ。

当然、ここには利害関係の様々なものが存在します。

アグリビジネス(agribusiness)という言葉をご存知ですか。

「agricultureとbusinessを合成した言葉であり、農業を中心に農産物加工、貯蔵、流通販売、農機具・肥料製造などまで含めた産業としての農業のことであり、それらの産業の総称としても用いられる。」(https://note.com/kotobakaisetsu/n/n6781a5054f2b より)

当時の、アグリビジネスの実態の一面が鋭く突きつけられている一冊です。

バナナの好き嫌いに関わらず、東南アジア、とくにフィリピンでビジネスする方にとっては是非知っておくべき話だと思います。

以上、『バナナと日本人ーフィリピン農園と食卓のあいだ』 (岩波新書) はバナナの9割を生産するミンダナオ島大農園の真実を描く、でした。


バナナと日本人 フィリピン農園と食卓のあいだ (岩波新書) – 鶴見 良行

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