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『ヤクザ1000人に会いました!』(鈴木智彦著、宝島社)は1000人を超えるヤクザを取材してきた著者の「アンケート調査」公開

『ヤクザ1000人に会いました!』(鈴木智彦著、宝島社)は1000人を超えるヤクザを取材してきた著者の「アンケート調査」公開

『ヤクザ1000人に会いました!』(鈴木智彦著、宝島社)を読みました。1000人を超えるヤクザを取材してきた著者が、その実像を余すところなく描き、採取しつづけた「アンケート調査」も公開している前代未聞のヤクザリポートです。

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『ヤクザ1000人に会いました!』とはなんだ

実話誌のヤクザ記事は大半が虚像、マスコミ報道も警察情報の垂れ流し。当局の締め付けが激化するなか、ヤクザたちはどんな日常を送っているのか?極道記者歴15年。1000人を超えるヤクザを取材してきた著者による前代未聞の肉弾レポート。

暴力団排除条例(通称暴排条例)が話題になっている昨今、当局の締め付けが激化する「ヤクザ」という立場が注目されています。

いわゆるヤクザ情報というと、実話系雑誌に書かれていますが、ネットの掲示板などでは「内部告発」なのか、虚像であるとの指摘もあります。

が、虚像か実像かを私たちは知ることは困難です。

そこで、ヤクザたちはどんな日常を送っているのかを、「極道記者歴16年。1000人を超えるヤクザを取材してきた」とする鈴木智彦さんによって、前代未聞の肉弾レポートとしてまとめられたのが、本書『ヤクザ1000人に会いました!』です。

「1000人」というタイトルですが、実際にはそのうち約600人に16年にわたってアンケート形式で質問。

統計を見せながら著者の解説が入り、さらに後ろの章ではヤクザに関してありがちな巷間の疑問に答える形で構成されています。

様々な工夫でアンケートをとり、回答者に迷惑がかからないよう、その結果を著者がノートに書き写すと、調査紙の原本は破棄してデータを積み上げたというのですから、実証的な力作です。

もちろん、その600人が統計学的に有意であるかどうかは、専門家のご意見があるでしょうし、著者もそもそもそれを気にしてアンケートはとっていないと思いますが、そうであっても、どうのような意見が出るのか、どんな考え方や行動原理が多数派なのかは興味深いところです。

興味深いアンケート


内容は、ネタバレになりますが、たとえば、こんなアンケートを行っています。

Q1あなたの血液型はなんですか?
A型 231人 37.2%
B型 139人 22.4%
O型 173人 27.8%
AB型 78人 12.6%

ご存知の方もおられると思いますが、日本人の血液型分布は、A型4割、O型3割、B型2割、AB型1割といわれていますから、ほぼその統計どおりになっています。

つまり、血液型による偏りは見られない、ということです。

そもそも、血液型と職業の因果関係など、たんなる血液型の統計だけで証明できるわけではありませんが、少なくとも、このアンケートによって、特定の血液型が「ヤクザの血液型だ」というレッテルにはならないわけです。

Q2実父の職業は何ですか?
サラリーマン19 9.2%
公務員 11人 5.3%
教師 11人 5.3%
政治家 3人 1.4%
警察官 2人 1.0%
ヤクザ 26人 12.6
商店 14人 6.8%
自営業 11人 5.3%
会社役員 5人 2.4%
飲食店勤務・経営・バーテンダー 4人 1.9%
軍人・自衛官 職人・土木建築業・日雇い労働者 24人 11.6%
サービス業 6人 2.9%
農林漁業従事者 23人 11.1%
トラック・タクシー運転手 5人 2.4%
専門職 1人 0.5%
どれにも当てはまらない 7人 3.4%
無職 17人 8.2%
分からない 4人 1.9%
父親とまったく面識・交流がない 8人 3.9%
無回答 8人 3.9%

実に多岐にわたっています。

父親がヤクザだから自分もヤクザになった、という回答がもっと多いのではないかと思いましたが、「世襲」の割合は多くは見えません。(統計学的に「多い」か「少ない」かは他の職業についてもみなければならないのでわかりませんが……)

つまり、ヤクザは世襲するとはいえない、ということです。

少なくともこのアンケートは、ヤクザの子弟に対する「ヤクザの子どもだから(オヤジと同じヤクザなんだ)」と決めつける口実が成り立たないことも意味します。

ただ、面白いのは、警察官、教師、公務員、政治家などの前職がいるということです。

山口組を長く支えていた岸本才三・初代岸本組組長が神戸市の職員であったことは、この世界ではあまりにも有名な話です。

その一方で、ジャーナリスト、ミュージシャン、医療従事者、士業(弁護士や会計士など)がいません。

そこには何らかの意味があるのでしょうか。

私が粗雑に観察すると、それらの職業は、ヤクザになりたい動機のひとつである、その人なりの「使命感」と、「自由度」がある仕事であるから、「転職」する必要がないのかもしれません。

「ヤクザは在日、同和の人が多い」という説もあります。

公安調査庁で調査第二部部長を務めた元公安調査官、菅沼光弘さんは、「ヤクザの出自の内訳は6割が同和(被差別部落)、3割が在日コリアン(韓国系のほか、朝鮮系が1/3)、残りの1割が同和ではない日本人やあるいは中国人などであるという見解を示した。」(Wikiより)といいます。

ただ、これも、ヤクザという集団から見ればそういう人たちが多いということで、たとえば「在日」「同和」という集団全体でヤクザに進む人が多いかというと、必ずしもそうではないと思います。

そもそも、なにをもって在日なのかもわかりません。

つまり、両親が韓国・朝鮮人であったとしても、帰化してしまえば日本人です。

2016年時点で在日朝鮮人は約3万、韓国籍は昨年末の時点で約45万3000人といわれますが、実際に民族の血を受け継いでいる人はもっと多いはずです。

その一方で、日本の暴力団構成員は、警察調べで8~9万人といわれ、その3割なら約3万に過ぎません。

まとめ

そう考えますと、同書を読んでの結論は、ヤクザになる人に、その出自や環境で有意な特徴は見いだせないということです。

つまり言い方をかえれば、ヤクザはどのような階層の誰であってもなりうる立場であり、それはとりもなおさず、その人個人の事情だけでなく社会的な要因もみなければならないのかな、という気がしました。

余談として、先程「暴力団」という言葉を使いましたが、法律で抗争も激減し、懲役経験すらないヤクザもいないわけではないのに、その表現はおかしいという意見もあることは記しておきます。

以上、『ヤクザ1000人に会いました!』(鈴木智彦著、宝島社)は1000人を超えるヤクザを取材してきた著者の「アンケート調査」公開、でした。

冒頭の背景画像
Photo by mauro mora on Unsplash


ヤクザ1000人に会いました! – 鈴木 智彦

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