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『痴人の愛』は谷崎潤一郎の私小説。真面目な電気会社技師が、カフェで見出した13歳年の離れた奈緒美に溺れて破滅するまでを描く

『痴人の愛』は谷崎潤一郎の私小説。真面目な電気会社技師が、カフェで見出した13歳年の離れた奈緒美に溺れて破滅するまでを描く

『痴人の愛』は谷崎潤一郎の私小説。真面目な電気会社技師が、カフェで見出した13歳年の離れた奈緒美に溺れて破滅するまでを描く物語です。給仕ぶりから素朴な少女と甘く見て溺愛。家事もさせずに贅沢や習い事をさせ、手に負えない小悪魔になってしまいます。

『痴人の愛』は、谷崎潤一郎の名を文壇に知らしめた長編小説です。

1924年(大正13年)3月20日~6月14日まで『大阪朝日新聞』に連載。

いったん中断後に、雑誌『女性』11月号~翌1925年(大正13年)7月号まで掲載されました。

本書は、Teamバンミカスが漫画化、発行しました。

原作は青空文庫に公開されていますが、漫画で描かれた『痴人の愛』もまた読み応え十分です。

この記事は、Kindle版をもとにご紹介いたします。

真面目な電気会社技師・河合譲治が、カフェの給仕をしていた奈緒美に対して、引きとって世話をして自分の理想とする女性にしたてあげ、もしそうなら自分の妻としてもらっていい、と企みました。

が、奈緒美は順調すぎるほど理想になったはよいものの、逆に河合譲治は派手な生活と男関係に悩まされてしままいます。

しかし、いったんは別れたものの未練が生じ、また戻ってきた奈緒美が自分の好き勝手な生活をしても、もはや奈緒美を手放したくなくなり、言いなりになってしまっている、という話です。

原作では、冒頭の3度だけ「奈緒美」と書かれていますが、4度目からは「ナオミ」となっています。

Wikiでは、「小悪魔的な女の奔放な行動」から「ナオミズム」という言葉を生み出した、と書かれています。

本書は2022年12月4日現在、AmazonUnlimitedの読み放題リストに含まれています。

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ナオミズムで人生を棒に振った男

主人公の河合譲治は28歳の電気会社技師。

同僚からは「君子」と呼ばれています。

といっても、別に尊敬されているわけではなく、まっすぐ帰宅する、真面目で面白みのないことをそう表現されているのです。

そんな主人公が楽しみにしているのが、カフェ通い。

給仕をしていた13歳年下の少女・奈緒美と出会い、ハイカラな名前と西洋的な顔立ちに、脳内では「ナオミ」とカタカナで呼び、心惹かれます。

まあたしかにね。この頃の女性といえば、だいたいカタカナ2文字でしたから、ハイカラといえるかもしれませんね。

河合譲治は、彼女を引き取り、教育をほどこし、身の回りの世話をしてもらいながら彼女を観察し、うまく育ったら結婚しようと画策。

なんとも上から目線で、今だったら、女性を何だと思ってるんだと叩かれそうな話ですが、当時はめずらしくなかったのかもしれませんね。

電気技師で月給150円は、他の職業よりも1桁多い高給取りで、蓄えも貯まっていたために考えられたことです。

ナオミもそれを承諾。

東京の大森に、「お伽噺の家」と表現するような大きな屋敷を借ります。

ナオミには、お稽古ごとをさせたり、活動写真に行ったり、衣装も次々買ってやったり、お馬さんごっこをさせられたりします。

もちろん、家事なんて一切させません。

御飯は店屋物。選択も一切しません。

そして、風呂に入れて体を洗ってやり、男女の関係も。

そして、婚姻届も出します。

しかし、そうした溺愛生活で、彼女はカフェ時代の素朴な女性ではなく、贅沢に、そして社交的になってしまいました。

そんなある日、河合譲治が家に帰ると、ナオミが若い男と一緒にいるところを目撃します。

「僕はここで失礼します」と、そそくさと帰る男。

「友達の浜田さんよ。ダンスクラブを始めるから、入ってくれって来てたの。一緒にダンスはじめましょうよ」と、ナオミ。

たとえ用件があっても、妻のところに軽々しくやってくる事自体、夫として心配になるのは当然ですが、譲治としては、悪い方に考えたくなかったのでしょうね。

「二人っきりで遊ぶのも退屈になってきたし、単調な生活にダンスを添えるのも悪くないか」

なんて呑気なことを考えておりました。

その間も彼女はいっそう贅沢になりました。

譲治の給料は150円から400円になり、本当だったらマイホームの一軒も立てて、家族を持って、余裕のある暮らしを妻子にしてやれるのに、逆に独身時代の蓄えも底をついてしまいました。

それどころか、寡婦の年老いた母親に、金の無心までしているのです。

ダンスパーティーでは、浜田のほか、浜田と慶應義塾の同級生である熊谷などもいました。

生活が贅沢なだけでなく、男出入りも派手なのです。

しばらくすると、ナオミの男友達が家に出入りするようになりました。

会社では、「君子の譲治がダンスを始めた」ことが同僚に知られていました。

同僚に冷やかされます。

「ずいぶん美しい女性を連れて歩いているそうでね。今度、我々にもご紹介願いたいものだね」

ナオミが妻であることを黙っていた譲治ですが、聞き捨てならない話に続きます。

「何でも偉い発展家だそうだぜ、その女は。盛んに慶応の学生なんかを荒らし廻るんだそうだから」

ナオミちゃんがそんなことするわけがない。

譲治は帰宅すると、同僚に言われたことをナオミに問いただしました。

しかし、ナオミは否定します。

「譲治さんより外の男と二人ッきりで居たことなんか一度もないのよ。ーーーねえ、そうじゃなくって?」

「それは僕だって分っているんだよ、ただあんな事を云われたのが、気持が悪かったと云うだけなんだよ」

「悪かったら、どうするって云うの? もうダンスなんか止やめるって云うの?」

「止めなくってもいいけれど、成るべく誤解されないように、用心した方がいいと云うのさ」

「あたし、今も云うように用心して附き合っているじゃないの」

「だから、僕は誤解していやあしないよ」

「譲治さんさえ誤解していなけりゃ、世間の奴等が何て云おうと、恐こわくはないわ。どうせあたしは、乱暴で口が悪くって、みんなに憎まれるんだから。ーーー」

譲治は、このやりとりで矛を収めてしまいます。

ちょろいですね。

夏になると、ナオミは鎌倉に行きたいといい出しました。

「あたし、あれッきり行かないんだから行って見たいわ」

「成る程、そう云えばあれッきりだったかね」

「そうよ、だから今年は鎌倉にしましょうよ、あたしたちの記念の土地じゃないの」

鎌倉に、ひと月ばかり、知人の離れの座敷を借りることになりました。

ところが、鎌倉の海岸では、またしても慶應義塾の浜田と熊谷があらわれます。

そしてなんと、4人で夕食までともにしています。

「彼らも、そう悪い奴らじゃないのかも」

すぐに気を許す譲治。

休暇は終わり、離れを借りている残余の期間は、譲治は会社と鎌倉を往復することになりましたが、いつもより早く帰った夜、ナオミは部屋にいませんでした。

譲治は、母屋のおかみさんにナオミの居所を尋ねます。

「お嬢様なら、熊谷の若様と出かけてましたよ。今頃は、若様の別荘じゃないでしょうか」

「……も、もしや、僕の帰りが遅くなってからは、毎晩?」

「ええ……」

まずいこと言ったかしら、と焦るおかみ。

では始めから二人で己(おれ)を担かついでいたのだ! それでナオミは鎌倉へ来たがったのだ!ー

今頃になって気づく譲治でした。

必死になって、ナオミを探し当てた譲治。

ナオミは、熊谷や浜田ら、4人の男に囲まれていました。

そして、浜田に足を舐めさせ、「河合のパパさんのできあがりだ」と盛り上がっていました。

譲治は、ナオミの足を舐めるのが好きだったのですが、それをナオミは学生たちに言いふらしていたわけです。

浜田が、怒りに震える譲治を見つけると、一瞬一同はシーンとなりましたが、ナオミはすぐに開き直り、「みんなの仲間へお這入んなさいよ」と、身につけているものを脱ぎ捨て全裸になっていました。

譲治は、その光景とともに、酒の匂いがしたこともショックでした。

なぜなら、譲治は彼女が酒を飲んだところを一度も見たことはなかったのです。

譲治は、熊谷のことでシラを切るナオミから、服や現金を取り上げ、証拠探しのために大森の自宅に帰りました。

すると、寝室では、浜田が寝ていたのです。

「鍵を?ーーーどうして君が?」

「ナオミさんから貰ったんです。河合さん、僕はあなたが今日出し抜けに此処へおいでになった理由も、想像がつかなくはありません。僕はあなたを欺していたんです。それに就いてはたといどんな制裁でも、甘んじて受ける積りなんです。今更こんな事を云うのは変ですけれど、僕はとうから、………一度あなたにこう云う所を発見されるまでもなく、自分の罪を打ち明けようと思っていました。………」

「じゃあ、僕と初めて会った時はすでに…」

「はい」

「ピアノの稽古を始めた頃に知り合って、稽古のない午前中は寂しいから今度遊びに来てと言われて……。自分の国は田舎の方だものだから、大森の親類へ来ているので、あなたといとこ同士の間柄だと、ナオミさんは云っていました。それがそうでないと知ったのは、あなたが始めてエルドラドオのダンスに来られた時分でした。けれども僕は、………もうその時はどうすることも出来なくなっていたのです」

「しかし、浜田君、僕にはまだよく分っていないんだ。君はナオミから鍵を貰って、此処へ何しに来ていたと云うんです?」

「此処で、………此処で今日………ナオミさんと逢あう約束になっていたんです」

「え? ナオミと此処で逢う約束に?」

「ええ、そうです、………それも今日だけじゃないんです。今まで何度もそうしてたんです。………僕はあなたに二人の恋を打ち明けて、ナオミさんを自分の妻に貰い受けるつもりでした。あなたは訳の分った方だから、僕等の苦しい心持をお話しすれば、きっと承知して下さるだろうって、ナオミさんは云っていました。事実はどうか知りませんが、ナオミさんの話だと、あなたはナオミさんに学問を仕込むつもりで養育なすっただけなので、同棲はしているけれど、夫婦にならなけりゃいけないと云う約束がある訳でもない。それにあなたとナオミさんとは歳も大変違っているから、結婚しても幸福に暮せるかどうか分らないと云うような、………」

「そんな事を、………そんな事をナオミが云ったんですね?」

「ええ、云いました。近いうちにあなたに話して、僕と夫婦になれるようにするから、もう少し時期を待ってくれろと、何度も何度も僕に堅い約束をしました。そして熊谷とも手を切ると云いました。けれどもみんな出鱈目でたらめだったんです。ナオミさんは初めッから、僕と夫婦になるつもりなんかまるッきりなかったんです」

要するに、浜田も遊ばれたわけです。

譲治は彼を憎む気にはなれず、その後一緒に食事までしています。

「ナオミもナオミだが、私も悪かった。型にはまった夫婦が嫌で、友達のように暮らそうといったから、十分こりたのでこれから改善していきます」

「おふたりは悪くありません。悪いのは、熊谷とそのまわりの男たちです」

譲治は、浜田が本気でナオミに恋をしていたんだなと感じました。

翌日、鎌倉へ帰ると、譲治は浜田と会ったことをナオミに話しました。

「悪かったと認めれば何も咎めない。熊谷と縁を切るね?」

彼女は、その場では一応うなずきました。

しかし、譲治の心がスッキリしたわけではありません。

原作から引用します。

「彼女の肌」と云う貴い聖地には、二人の賊の泥にまみれた足痕あしあとが永久に印せられてしまったのです。これを思えば思うほど口惜しいことの限りでした。

32の譲治が、19のナオミにこうも見事に欺かれていたとは……。

それでも、夜になると譲治は、恥も忘れてナオミの肉体に熱中してしまいます。

夫婦の情愛はないのに、本能のままに彼女の肉体に溺れる譲治。

子供を作ろうと言っても、拒否するナオミ。

この頃の譲治は、仕事が手につかず、会社を休むこともしばしばありました。

そして、ナオミを尾行するのですが、ついに、自宅の近くで熊谷と密会したことを突き止めてしまいました。

ナオミは、またしても「堪忍して」と繰り返しましたが、さすがに譲治は、今度は譲りませんでした。

「出て行け」

彼女は、ダメだとわかると、「では御機嫌よう、どうも長々御厄介になりました。―――」

と、至極あっさりと荷物をまとめて出ていってしまいました。

譲治は、ついに解放されたわけですが、しかし、譲治にとってナオミは「体に悪いとわかっていても、飲まずにはいられない強い酒」のようものでした。

憎めば憎むほど美しくなるというのです。

困りましたね。

いざ出ていってみると、さっそく後悔の念。

昔撮った彼女の写真を出してきては、もう気持ちが変わっていました。

「キミが戻ってくるなら、何でも受け入れよう。無条件にひれ伏す。服従する」

譲治は浜田に、ナオミ探しの協力を依頼しました。

しかし、浜田の「調査結果」は、思わしくないものでした。

「河合さん、もうあの人はとても駄目です、あきらめた方がよござんすよ」

「ナオミは何処に居るんです?」

「ナオミさんは、毎晩違う男のところへ行き、そこを宿にしているんです。熊谷といたのは最初だけで、その後は別の男たちを取り替えて……」

「じゃあ、鎌倉でいた男たち全員と」

「そうです。彼女は、全員の共有物として、言うに堪えないひどいあだ名で呼ばれていました」

そんなことに心を奪われているさなか、女手一つで育ててくれた譲治の母親が、脳溢血急逝してしまいました。

墓前で譲治は、「ナオミの色香に狂っていたんだ。今後はまっとうに生きていくよ」と誓いました。

誓ったはずでした。

しかし、その後、ナオミが帰ってくると、結局すべてを許してしまい、むしろそれまで以上に好きにさせることまで譲歩してしまいました。

ま、そういう人生もあるのでしょう

原作は、こんな書き出しから始まっています。

私はこれから、あまり世間に類例がないだろうと思われる私達夫婦の間柄に就いて、出来るだけ正直に、ざっくばらんに、有りのままの事実を書いて見ようと思います。それは私自身に取って忘れがたない貴い記録であると同時に、恐らくは読者諸君に取っても、きっと何かの参考資料となるに違いない。

つまり、私小説です。

ナオミのモデルは、最初の妻の妹で、女優の葉山三千子といわれていますが、谷崎潤一郎は当初、妻の姉がお気に入りで、葉山三千子とも一時期同棲をして、その時の体験がもとで小説ができたとも言われています。


河合譲治は谷崎潤一郎だったということですね。

ま、たしかに痴人というか、ヘンタイか。

しかし、ある意味、女性にそこまで全身全霊を傾けられる生き方は幸せかもしれませんね。

本書は、『まんがで読破』というシリーズ名がついています。

古今東西の文芸作品、哲学、経済学、宗教など多岐にわたる名著を漫画化したものです。

「名前は知っているし興味もあるけど、いきなり古典はハードルが高いかも」と思っている人にピッタリの導入書です。

あらすじがわかり、さらに理解を深めようという意欲が湧いてきます。

このブログでは、『破戒』『舞姫』『レ・ミゼラブル(あゝ無情)』などをご紹介してきました。

『破戒』といえば、近代文学史上に残る島崎藤村の長編小説。『まんがで読破』シリーズとしてバラエティ・アートワークスが漫画化
『破戒』といえば、近代文学史上に残る島崎藤村の長編小説。『まんがで読破』シリーズとしてバラエティ・アートワークスが漫画化しました。明治維新後も残った身分差別について、そこに苦しみ、やがて自身による主体的な解決を見出していく話です。

興味深い作品はまだまだありますので、引き続きご紹介を続けたいと思います。

以上、『痴人の愛』は谷崎潤一郎の私小説。真面目な電気会社技師が、カフェで見出した13歳年の離れた奈緒美に溺れて破滅するまでを描く、でした。


痴人の愛 (まんがで読破) – 谷崎潤一郎, Teamバンミカス


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