資本論/続・資本論(漫画/バラエティ・アートワークス、Teamバンミカス)は、「搾取」が明らかになるマルクスの代表作を漫画化しました。剰余価値から資本の協業と分業、生産手段の拡大、不況と恐慌など、資本主義の大きな流れを解説しています。
『資本論』は、カール・マルクスが第1部(1867年)を、フリードリヒ・エンゲルスがマルクスの遺稿を編集して第2部(1885年)、第3部(1894年)を刊行しました。
今回ご紹介する『資本論』『続・資本論』は、それをバラエティ・アートワークスが漫画化し、Teamバンミカスから上梓したものです。
『資本論』には、資本主義社会とはどういうものか、その経済的運動法則を、労働力の商品化を基軸として解明しています。
今回ご紹介するまんがの『資本論』『続・資本論』は、その解明した内容をわかりやすく見せるため、ストーリー仕立てにし、場面場面に資本論が解明した資本主義の構造を解説しています。
父子で牧畜を営むロビンは、もっとお金を稼ぎたいと、父ハインリヒの反対を押し切って、投資家ダニエルの傘下でチーズ作りの会社を始めます。
そこで、様々な資本主義の苦労を経験することで、最後は社長業を降り、「中間の暮らしが一番」という父のもとに戻るまでが描かれています。
本書は2022年12月16日現在、AmazonUnlimitedの読み放題リストに含まれています。
剰余価値と搾取で資本家は利益を増やす
本書は最初に、「資本の生産過程」というタイトルが付いています。
チーズの露天販売をしているロビンのもとに、ロビンが仄かに憧れる銀行頭取の令嬢エニーがやってきます。
エニーと一緒にいるのは、投資家のダニエルです。
ダニエルは、チーズ工場を見せてくれといいます。
家内制手工業のチーズ工場は、父親のハインリヒとロビンだけで生産しています。
切っているは父親のハインリヒは、金のない近所の人に対して、自分の畑で取れたトマトを持ってきて交換しています。
それが、本当は面白くないロビン。
父親のハインリヒはいいます。
「ロビン、カネが何でできているか知っているか。労働だよ。」
このコマのページの欄外には、『キーワード』として、「抽象的人間労働……商品やサービスにどれだけの手間暇をかけたかで労働を捉えること」と書かれています。
このようにストーリーの1コマから、資本論が解明した構造を「キーワード」として指摘しています。
しかし、ロビンは金もほしい。
ロビンの母親は、お金がないために最新治療を受けられず、早逝したのです。
ところが、ハインリヒは、カネがないことによる不自由さにはダンマリです。
そんなときは決まって、母親の遺言「中間の暮らしこそ人間にふさわしい」を言います。
資本主義は必然的に格差ができる現実に、これは答えになっていないように思いますが、それはともかくとして、若いロビンはチャレンジ精神から、ダニエルのススメで投資してもらい、チーズ工場の会社を始めます。
その時、確認を求められたこと。
「僕(ダニエル)の話に乗った動機、本音で言えるかな?」
「お金持ちになりたい」
「くっくっくっ、正直でよろしい」
ダニエルはまず、製造業の3つの基本をロビンに叩き込みます。
品質、コスト、納期
このバランスが大事であり、ただ「いいものを作りたい」だけではビジネスとしてはダメになんだといいます。
いざ、事業を始めると、工員は動きの効率がわるく、なかなかそのバランスがよくなりません。
まず、ロビンは、工員の持ち場を決め、各工員は限られた最低限の作業をルーチンで行うようにします。
工員は単純労働で楽しくなくなりますが、作業効率は上がりました。
しかし、今度は穀物が不作のため、原料が上がりました。
そこで、ダニエルはロビンに、錬金術を教えます。
「チーズ一つを作る諸々の経費に、金貨が十枚かかるとする。原材料で4枚。機械や道具の維持・償却等管理に4枚。そして人件費に1枚。4+4+1。1枚余るね」
「十枚かかるのに、どうして1枚余るんですか」
「我々は労働者から、『労働力』という商品を買っている。しかしこの商品は特殊で、使い方によって価値が変動する。商品が命を保つための最低限があるとはいえ、はっきりとした価値は決められていない。そこで本来は、金貨2枚分の商品を、金貨1枚の契約で購入する。金貨1枚で金貨2枚分働いてもらうわけだ。すると、我々は指1本動かすことなく金貨を1枚生み出せる。ロビン。君がやっていることは慈善活動じゃない。金持ちになりたいなら、搾り取れ」
このシーンの欄外には、次のキーワードが書かれています。
剰余価値……労働者の労働力の価値(賃金)を超えて生み出される価値
搾取……資本家が労働者から剰余価値を得る仕組み・その行為
漫画だとわかりやすいですよ。
ロビンは、工場の監視役に、労働強化を命じます。
工場は、今で言うところの、ブラック化します。
しかし、当然労働者からは不満が出て、ロビンも内心悩みます。
いったんは、父親のハインリヒもとに帰ろうかと思いますが、ダニエルはハインリヒにロビンの債務保証をさせていました。
つまり、ロビンの事業が破綻したら、ハインリヒは自分の土地や工場を明け渡すというわけです。
今までの露天屋台では、利息も返せない額です。
ロビンは、父親の仕事をする土地を明け渡すわけにはいかないので、労働強化を続けるしかないのです。
本書では、「貨幣の物神性……交換の手段に過ぎなかった貨幣が、あたかも人間の意識や行動まで支配する現象」との解説を入れています。
そして、本書は続編へ。
続編は、エンゲルスが、マルクスの遺稿を編集して刊行した第2部、第3部から構成されています。
資本の拡大から不況・恐慌へ
『続・資本論』の冒頭は、商品の中の「価値」について述べられています。
商品には、それが役立つ価値(使用価値)と交換の値打ち(交換価値)がありますが、交換される物に共通するのは「労働」です。
つまり、どれだけの労働が費やされたかでその物の価値が決定します(労働価値説)。
そして、労働者の労力・人数・時間を総称したものを抽象的人間労働といいます。
抽象的人間労働が多いほど、交換価値が大きくなるというわけです。
しかし、価値というのは、自然科学的に法則や方程式で決まるものではありませんから、相手に「使用価値」が感じられない場合、それまで行われていた交換ができないことがあります。
そこで、取引される共通の「使用価値」を決め、一般的な等価物(取引の目安)を金にしました。
そこから、さらに貨幣が誕生したのです。
貨幣は材質ではなく、「信用」が重要です。
貨幣が『一般的等価物』であり続けるうちに、人々は貨幣こそ、他のどんな商品の価値も表現でき、手に入れられる万能なものと思い始めます。
そして、貨幣はあたかも人間や商品の価値を決定する神のように振る舞い始めます。
これを「貨幣の物神性」と、本書では説明しています。
先程のダニエルがロビンに教えた錬金術の「労働強化」。
搾取はしていても、労働力の価値通りに給料を払っています。
機械は燃料分しか働けないので、資本家の利益となる剰余価値は生まれませんが、人間の労働力だけは剰余価値を増やせます。
利益が増えれば、資本家は工場をさらに大きくして雇用を増やせる。
ダニエルはロビンに、「目先のことばかりではなく、広い視野をもて」といいます。
そこで、ロビンは、社内会議で新商品の開発を提案します。
他の重役は、「そんなことに時間をかけるより、今まで以上に労働者をこき使ったほうが利益につながるのでは?」と反対します。
ロビンは言います。
「労働者も人間ですから、そんな方法ではすぐに限界が来ます。まず、現在の設備を最新鋭にして機械の性能を上げれば、手動の部分を自動化すれば、労働力にかかるコストが下がります。総労働時間は変えずに、必要労働時間だけを減らせれば、相対的に剰余価値を増やすことができます」
「ライバル会社が同じ機械を導入したら、価格競争が始まって利益が減りますよ」
「そんなことはさせません。新しい機械は僕たちが開発するのです」
ここで欄外キーワード。「特別剰余価値……新技術の開発や導入などの生産性上昇によって生まれる剰余価値」
ロビンは、増加した利益を工場の拡大に使い、市場を独占してみせると豪語します。
そうすれば、もっと多くの人に仕事を与える、雇用を創出できるとも。
しかし、ダニエルはつぶやきます。
「結局それは、労働力の価値を更に下げるということなんだけどね」
つまり、自動化することで、誰でもできる仕事になってしまうからです。
「その人でなくても良い仕事」ですから、かわりはいくらでもいるわけです。
ですから、労働力の価値を下げるのです。
労働力の価値が下がるということは、資本家の利益がさらに増える。そういう仕組みになっているのです。
ロビンは、機械を作っている会社に、増産を求めます。
ダニエルは、「協業と分業」を提案。
関連業務の会社を買収合併して、生産のセクションも拡大かつ細分化することでさらに効率をあげさせます。
今の日本て、このへんかな。
名のある企業同士の買収合併。多いですよね。
エンゲルスは言います。
大量生産…そして利益を得て拡大…を繰り返します。
利益を求めて大量生産するからには、もちろん売れなければ意味がありません。
商品を作る期間と売る期間。このふたつを効率的に繰り返さなければいけないわけです。
商品を作る「生産期間」と、商品を売る「流通期間」。
このふたつを経て得たお金を使って、また次の生産に入ります。
この繰り返す一連の流れを「資本の一回転」と呼びます。
産業資本にとっては、「流通期間」はできるだけ短くして早期に利益を回収したい。
そこで「商業資本」と呼ばれる、卸売業者や小売業者などが発展するのです。
商品の売上が軌道に乗ったことで、ロビンは逆に売る「商業資本」の側から、今の倍、商品を卸してくれと言われます。
ロビンは、機械を作る会社・機械製造会社に、さらに機械の発注をします。
機械製造会社は、腹をくくって拡大をして増産体制を整えます。
しかし、エンゲルスは、そこには大きな問題が隠されているといいます。
ロビンの会社に売る機械を、作るための機械は、自社責任で増やしたものです。
いくら発注があったからと言っても、ロビンの会社のせいにはできません。
消費手段を生産するロビンの会社に比べて、生産手段を生産する機械製造会社の方が、取引バランスに関係なく付近等に拡大することを「不均衡拡大」と呼びます。
ある日、ロビンの会社が発注をやめたら、機械製造会社は、工場も導入した機械も遊んでしまいます。
すると、そこの労働者の待遇が悪くなります。会社が儲からなくなって、かつ経費ばかりかかりますからね。
労働者は出費を抑えるようになり、スーパーなど販売店の売上が落ちてきます。
さすれば、ロビンの会社への発注も減ってきます。
ロビンの会社の機械製造会社への発注も減ります。
これが、不況と恐慌のスパイラルです。
企業が利益を追求して拡大していくことは、このような大きな矛盾をはらんでいる、とエンゲルスは言います。
それでも、資本主義社会は競争社会ですから、不況や恐慌など恐れず、競争を続けていくしかないのです。
ロビンの会社は、他社が類似品を安く作ったことで、ピンチになってきました。
ダニエルは、言います。
「価格下げ競争のようなラットレースに付き合う必要はないよ。攻めあるのみ。受注が落ちたら労働者を切る。労働力は、ただ働くだけでなく、いい調節弁にもなってくれるんだ」
金融機関は、信用創造で企業にカネを貸しています。
これは、MMT関連の書籍で何度も出てきたのでご紹介しました。
銀行は実際には現金がなくても、手持ちの現金の10倍の金額を融資できるのです。
つまり、市中銀行は、為政者でも中央銀行でもないのに、市中にまわるお金を作れるのです。
『現代貨幣理論(MMT)って何?【素人の素人による素人のための経済入門】』という針原崇志さんの動画は、それがわかりやすく説明されています。
不況になって、その貸した金が焦げ付き不良債権になると、銀行は企業への融資をためらい、貸し渋りを始めます。
すると、銀行を当てにしていた企業は倒産。
その影響で関連企業も連鎖倒産。
金融機関も、財務状況はパンク。
今度は金融危機が起こります。
ここで、ロビンは社長を辞め、ダニエルも製造業から撤退します。
ただし、本書は、マルクスの見解も付け加えています。
不況と恐慌は必ずしも悪いこととはいえない。
需要と供給のバランスを正す役割を担っているからだ、と。
信用創造を述べていた『資本論』
注目していただきたいのは、『資本論』には、「貸出先行説」、つまり金融資本の「信用創造」について、言及しているということです。
MMTが標榜していることは、信用創造とスペンディングファーストです。
アメリカでは、MMTについて、マルクス主義者も前向きに議論に参加していますが、それは当然のことなのです。
なぜか日本では、「京都学派」といわれる保守的な人たちによってのみそれが語られ、たとえば日本共産党界隈ではMMTそのものを認めようとしません。
しかし、信用創造というのは、客観的な事実なんですけどね。
日本共産党もね、独習指定文献制度を復活して、党員には『資本論』をしっかり読ませたほうがいいと思いますよ。
以上、資本論/続・資本論(漫画/バラエティ・アートワークス、Teamバンミカス)は、「搾取」が明らかになるマルクスの代表作を漫画化、でした。
資本論 (まんがで読破) – マルクス, バラエティ・アートワークス
続・資本論 (まんがで読破) – マルクス, エンゲルス, バラエティ・アートワークス