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『風立ちぬ』は、堀辰雄が自らの経験を中編小説にまとめたといわれる、結核を患った婚約者との切ない恋愛の思い出を描いた作品

『風立ちぬ』は、堀辰雄が自らの経験を中編小説にまとめたといわれる、結核を患った婚約者との切ない恋愛の思い出を描いた作品

『風立ちぬ』は、堀辰雄が自らの経験を中編小説にまとめたといわれる、結核を患った婚約者との切ない恋愛の思い出を描いた作品です。本作を「結婚学」の見地から分析・解説する、森川友義さんに理解を助けていただきながら見ていきたいと思います。

『風立ちぬ』は、堀辰雄さんの小説を、杉本武さんが脚色、荒木浩之さんが作画して剣名プロダクションが作品として仕上げました。

いくつかの文学作品を漫画化した『漫画ですぐ読む名作文学』(SMART COMICS)の中に収録されています。

その中には、先日ご紹介した『藪の中』も含まれています。

『藪の中』は、平安時代に盗人に襲われた夫婦の事件を、目撃者や当事者たちが検非違使(裁判官)に一人ずつ語っていく物語
『藪の中』は、平安時代に盗人に襲われた夫婦の事件を、目撃者や当事者たちが検非違使(裁判官)に一人ずつ語っていく形式の物語です。今で言えば裁判モノです。というより、現在の公判を舞台にした映画やドラマのもとになっている作品と言えるかもしれません。

タイトルの由来となった作中内に出てくる「風立ちぬ、いざ行きめやも」という詩は、ヴァレリーの詩集『海辺の墓地』の一節を堀辰雄さんが意訳したもので、「風が吹いた。さあもっと生きようか」といった意味です。


堀辰雄さんは、東京帝国大学出身で、その頃から小説を書いていましたが、やはり病弱だったそうです。

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「私」と「節子」の恋愛

「私」こと堀辰雄と、「節子」こと矢野綾子が、1933年夏に軽井沢で知り合い、恋に落ちます。

それは、『美しい村』という別の作品にまとめられています。


そして、本作『風立ちぬ』は、その続きが、5つの章によって構成されています。

1章……「序曲」では、主人公の「私」と節子が軽井沢で出会い、惹かれ合いますが、節子の父親に反対されて別れます。

2章……「春」では、2年後に婚約した「私」と節子が、節子の結核の治療のために八ヶ岳のサナトリウムに行きます。

3章……「風立ちぬ」では、「私」と節子がサナトリウムでの幸せな日々を過ごしますが、節子の病状は悪化していきます。「私」は節子との思い出を小説に書こうとします。

4章……「冬」では、「私」は小説の執筆に没頭しますが、節子の死が近づいていることを感じます。節子は家に帰りたいと言い始めます。

5章……「死のかげの谷」では、節子の死後1年後に「私」が山小屋で暮らしている様子が描かれます。「私」はリルケの「レクヰエム」を読んで、節子の死を受け入れられるようになります。

この3章目の「風立ちぬ」が、本書で漫画化されています。

私は、本作『風立ちぬ』にしろ、昭和30~40年代に爆発的な人気作品になった『愛とシをみつめて』にしろ、人はどうせいつかシヌのに、奇跡の生還をすることもなくシにゆく姿をあえて描くのはどうしてなのか、疑問に思うことも正直ありました。

余談ですが、『愛とシをみつめて』ってご存知ですか。

「マコ、あまえてばかりで、ごめんね。ミコはとっても幸せなの」という青山和子さんの歌がヒットしました。

軟骨肉腫と闘いながら若くして逝った大島みち子さんと、手紙のやり取りで彼女を支え続けた恋人・河野実さんの実話で、映画では吉永小百合さん、橋田壽賀子さん脚本のドラマでは大空眞弓さん、昼の帯ドラ枠では島かおりさんが演じています。

私は、島かおりさんの世代なんですけどね。


それはともかく、本作『風立ちぬ』を、「夫婦のあり方や夫婦の幸せを描いたものの中では随一の傑作」と絶賛しているのは、「恋愛学」「結婚学」「不倫学」などでメディアで注目されている、森川友義さんです。


「相手を愛するとはどういうことなのか、「幸せな結婚」をするためにはどうしたらいいかについて、有益な知見にあふれています」と断言しています。

恋愛学で読み解く『風立ちぬ』

上記サイトによると、まず小説の中でどのような言葉が多用されているか、数量分析されています。

それによると、「幸福・幸せ」が37回でもっとも多く、続いて「シ」35回、「生・生きる」29回、「夢」23回となっている一方で、「未来」や「希望」はゼロだそうです。

ここで森川友義さんは、本作のメインテーマが、「「人生」における「生」と「シ」をどう見つめるか、「生」が続く間のつかの間の「幸福」とは何かいうこと」であると分析しています。

私も昔、源氏物語のセリフの数量分析というのを卒論でやりましたが、指導教官からは全く相手にされませんでした。森川友義さんの、ち密で目的意識のはっきりした分析に比べると、ただ漠然と数えていただけのお粗末なものだったからでしょうが、文学作品における数量分析の意義が認められたようで、40年ぶりに気持ちが晴れました(笑)

次に森川さんは、「夫婦における幸福とはなにか」という核心に迫っています。

まず幸福とは何かをこう定義しています。

「幸福」とは、ある結果または状態が自分の期待以上のときに生じるもの

そして、『風立ちぬ』では、「私」と節子が精神的な側面において、期待以上であると考えていること、愛し合うことに対してお互いに満足している状態にあることがうかがえるといいます。

ところが、幸福は慣れると消えてしまうものであることから、夫婦生活はマンネリに陥る可能性がある。そこで本作は……

堀辰雄が意図的に描写したのかはともかく、節子を愛する過程で、幸福な関係を保つ方法が読者に示唆されています。とくに重要な4点は以下のとおりです。

 ① 夫婦関係が長期的でないこと
 ② 愛する気持ちを五感で伝えること
 ③ 与え合う補完的関係を構築すること
 ④ 減点制から加点制に転換すること

この4点への理解は、『風立ちぬ』を作品として深く鑑賞することにつながりますし、読者の方々の結婚生活を幸せなものにしてくれます。

「長期的でない」といっても、いったん20代で結婚したら、60年は一緒にいることになります。

その場合どうすれば夫婦関係を維持できるのか。

愛する気持ちを「五感」で伝えることとあります。

つまり、「幸福」な夫婦関係には、肉眼で見る、会話をする、至近距離にいてにおいを嗅ぐ、身体に触れる、キスをするという5つをしている状態が、恋愛が満たされている状態であり、この愛情表現が不可欠であるといいます。

森川さんの解説については、当該サイトをお読みください。

それにしても、「恋愛学」「結婚学」「不倫学」とは、実に興味深い学問分野です。

人間の業のかたまりのような営みも、学問になってしまうのですから。

私が最も知りたい分野であり、仏教よりも興味深くなりました(笑)

仏教も、文学作品のモチーフとして大いなる影響を与えていることは、これまで見てきたとおりですが、文学作品の醍醐味は、人が人を愛することをめぐる葛藤ですから、「恋愛」「結婚」「不倫」というのは、そのかなり重要な部分を占めています。

それらを勉強することで、文学作品について、さらに深い読み解きができるようになるかもしれません。

以上、『風立ちぬ』は、堀辰雄が自らの経験を中編小説にまとめたといわれる、結核を患った婚約者との切ない恋愛の思い出を描いた作品、でした。


藪の中 (SMART COMICS) – 荒木浩之, 剣名プロダクション, 芥川龍之介


漫画ですぐ読む名作文学 (SMART COMICS) – 荒木浩之, 剣名プロダクション

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