
最近、ニュースなどで「ガバメントクラウド移行」という言葉を耳にすることが増えました。これは、国や都道府県、市区町村がそれぞればらばらに作ってきたコンピューターシステムを、政府が共通で使えるように用意した「安全なクラウド(インターネット上の大きな倉庫のようなもの)」にまとめて移す取り組みです。
今までは、それぞれの自治体が自分たちだけでシステムを作り、管理してきました。
それを共通の基盤に移すことで、無駄を減らし、お互いのデータをスムーズに共有できるようにする——それが大きなねらいです。
具体的には、住民基本台帳(住民票)や税金、福祉、介護保険といった、日常生活に欠かせない20の重要な業務を、全国共通のルールに沿ったシステムに統一し、その受け皿としてガバメントクラウドを使う計画です。
この改革がうまく進めば、職員の皆さんがシステムの保守やルール改正への対応に追われることが減り、その分、住民サービスの向上や新しい企画を考える時間に充てられるようになると期待されています。
ところが…「安くなる」はずが「コストが1.8倍」に
この移行で、国民や自治体が最も楽しみにしていたのは「コスト削減」でした。
しかし、ふたを開けてみると、まったく逆の事態が起きています。
総務省(国のお役所の一つ)の試算によると、移行が終わった直後の運用費用は、今までの約1,400億円から約2,500億円へ——なんと約1.8倍に跳ね上がる見通しです。
さらに、中核市(比較的大きな市)の調査では、自治体によっては平均で2.3倍、最大で5.7倍ものコスト増になるところもあると報告されています。
「共通化すれば安くなるはずだったのに、むしろ高くなっている」
現場の職員さんからは、そんな悲痛な声が上がっています。
なぜこんなに高くなったのか?その背景には「仕様の増えすぎ」
理由の一つは、システムに求められる機能(仕様)が想定以上に増えたことです。
標準の仕様書に書かれている項目数は、平均で1.2倍、一部の業務では3倍以上に膨れ上がりました。
その結果、システムを作る側も、それを保守する側も、想定よりはるかに多くの手間と費用がかかるようになってしまいました。
また、ガバメントクラウドを使うための専用の通信回線費や、古いシステムと新しいシステムを両方動かさなければならない「二重の管理費」 も、大きな負担となっています。
これらの出費が、クラウド化によって期待された「コスト削減効果」を、完全に打ち消してしまっているのです。
データの引っ越しは大変!——現場で起きている「泥臭い」トラブル
クラウド移行は、まるで「データを引っ越しするだけ」のように聞こえますが、実際はもっと複雑で、予想外のトラブルが次々と起きています。
データベースの移行で思わぬ不具合
従来使っていた「Oracle(オラクル)」というデータベースから、新しい「PostgreSQL(ポストグレスキューエル)」というデータベースに切り替える際、
処理速度の違いが原因で、システムの動きが変わってしまうケースが報告されています。
また、写真や書類の画像データ(BLOBデータ)を大量に移そうとすると、転送にものすごく時間がかかり、業務が滞ることもあります。
ネットワークのトラブルも山積み
自治体ごとに使っているIPアドレス(インターネット上の住所のようなもの)が重複してしまったり、
通信速度が想定より遅くなったり、回線のメンテナンス時に調整が複雑すぎたり——
設計の段階では気づきにくい問題が、次々と表面化しています。
こうした問題は「クラウド接続設計」というまったく新しい専門知識が必要な分野です。
特に、専門の技術者が少ない小さな自治体では、外部の業者に頼らざるを得ず、かえって依存度が高まるという皮肉な結果を招いています。
国自身の準備は大丈夫なの?——54%が「計画を把握していない」
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便利さの裏にある安全保障リスクを
神谷宗幣議員が国会で問題提起#個人情報保護 https://t.co/NGgyLMEXRq pic.twitter.com/i9XB75lAEc— みいみい (@cmt_hl) June 22, 2026
「ガバメントクラウドが米国企業依存になっている」——正しい。
ところが、神谷の処方箋は「国産でやるべき」「さくらインターネットを育てろ」で完結する。
問題はそこではない。国産かどうかではなくCLOUD…
— 昼間たかし|ルポライター・デジタル主権 (@quadrumviro) June 22, 2026
国は自治体に対して「早く移行しなさい」と強く求めていますが、国自身の準備はどうでしょうか。
財務省(国の予算を担当するお役所)の調査によると、中央の各省庁に対して「全体の移行計画を立てていますか?」と聞いたところ、
「立てていない」「把握していない」と答えた割合がなんと54%に上りました。
自治体に厳しく期限を守るよう求める一方で、推進する側の国にこれほど計画のばらつきがあるのは、プロジェクト全体の信頼性に大きな疑問を抱かせます。
セキュリティは「クラウドに乗せればOK」ではない
ガバメントクラウドの大きな魅力の一つはセキュリティ(情報漏えい対策)の強化です。
しかし、ここにも誤解があります。
例えば、AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)という大手クラウド会社が提供する「GuardDuty Malware Protection」というサービスは、
ウイルスを見つける能力はとても高いのですが、見つけたウイルスを「駆除」する機能はありません。
つまり、従来使っていたウイルス対策ソフトを完全に置き換えられるわけではなく、
「監視」「対処」「誰が何をするか」という役割分担を改めて決め、運用の仕組みを一から見直す必要があるのです。
「クラウドに移せばすべて安心」という考え方は、現場に新たな弱点(脆弱性)を生む危険性があります。
移行の完了はゴールではなく、むしろスタート
今起きているガバメントクラウド移行の混乱は、行政のデジタル化が進むうえでの「どうしても避けられない痛み」 かもしれません。
しかし、2025年度末(2026年3月)という移行期限を過ぎたあと、このプロジェクトが本当に住民の役に立つものになるためには、次の4つのことが欠かせません。
- クラウドに合わせた最適化
移行したあとで、システムをクラウドの特性に合った形に少しずつ磨き上げていくこと。 - ベンダー(業者)競争の回復
特定の会社に頼りすぎず、いろいろな業者が競って良いサービスを提供できる市場に戻すこと。 - 二重運用の早期解消
移行期間中にどうしても発生する「新旧両方のシステム運用費」を、できるだけ早くなくすこと。 - 国による負担の吸収
自治体にのしかかる増えたコストや作業負担を、国がお金と体制の両面でしっかり支えること。
おわりに——これからが本番です
ガバメントクラウドへの移行が完了しても、それは通過点にすぎません。
本当に問われているのは、この大きなデジタル基盤をどうやって、暮らしに役立つ「住民サービスの道具」に育てていくかという、もっと本質的な課題です。
これからも、私たち一人ひとりがこの動きに関心を持ち、本当に便利で安心な行政サービスが実現するかどうか、見守っていくことが大切だと思います。
