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60歳からの脳の使い方(茂木健一郎著、扶桑社)。60歳は「脳の黄金期」の始まり。脳科学が証明する5つの新常識。脳に「余生」はない

60歳からの脳の使い方(茂木健一郎著、扶桑社)。60歳は「脳の黄金期」の始まり。脳科学が証明する5つの新常識。脳に「余生」はない

「60歳を過ぎてから、急に物忘れが増えた」「定年退職してから、何に対しても意欲が湧かない」……。こうした不安を抱え、自分の脳が衰え始めたと感じている方は少なくありません。しかし、脳科学の視点から見れば、それは大きな誤解です。

定年後に感じる「脳のぼんやり」や意欲の低下は、脳の機能的な限界ではなく、実は「脳の使い方の問題」に過ぎません。

特に、長年「組織人」として走り続けてきた方にとって、定年後の意欲低下には、脳が「社会的役割」や「肩書」を失ったことが深く関係しています。

脳は、責任感や周囲からの期待といった刺激を通じて前頭葉を活性化させる仕組みを持っているため、役割を失うと一時的に「フリーズ状態」に陥ってしまうのです。

しかし、心配はいりません。60代という時期は、脳が衰えていく終着駅ではなく、その後の人生をいかに豊かに味わうかの重要な「分かれ道」です。

今日から脳の習慣を変えることで、あなたの脳は驚くほどの活力を取り戻し、むしろ若い頃にはなかった輝きを放ち始めるのです。

脳には驚異のバックアップ機能「代償機能」が備わっている

加齢とともに脳の一部が萎縮し、神経細胞が減少していくのは生物学的な事実です。しかし、「脳が縮む=機能が低下する」と悲観する必要はありません。

私たちの脳には、一部の衰えを他の領域が補い、全体としての機能を維持する驚くべき柔軟性が備わっています。

これを脳科学では「代償機能」と呼びます。

「代償機能」とは、脳内の何かしらの領域が衰えても、それを別の領域がしっかりととその役割をカバーしてくれるという素晴らしい仕組みのこと。

さらに強調したいのは、60代の脳は単なる「バックアップ体制」にあるのではなく、まさに「成熟期」を迎えているという点です。

長年の社会経験や深い思考の蓄積があるからこそ、若い頃には得られなかった洞察力や、点と点をつなぎ合わせるアイデア力が最高潮に達しています。

脳は私たちが考える以上に強靭で、成熟した60代の脳には、若さとは別の次元の「知的なポテンシャル」が秘められているのです。

「物忘れ」は脳の進化であり、恥じることではない

「人の名前が出てこない」といった物忘れにショックを受ける必要はありません。中年以降に起こる記憶力の変化は、単なる機能低下ではなく、脳がより重要な情報に集中しようとする高度な戦略であると解釈できます。

これを分かりやすく例えるなら「家の中の掃除」です。家の中がゴミで占拠されている状況では、本当に必要なものが見つからず、生活の質が落ちてしまいます。

脳も同様に、未来の創造的な思考に目を向ける余裕を作るために、過去の不要な記憶を整理し、捨てる必要があります。私はこれを、脳の「捨てる技術(捨てる技術)」と呼んでいます。

現代はスマートフォン一つで瞬時にあらゆる情報を検索できる時代です。かつての「暗記至上主義」の価値は相対的に低下しています。

今の脳に求められているのは、すべての情報を抱え込むことではなく、余計なことを忘れて脳をスッキリさせ、本当に必要な知恵やアイデアに集中できる環境を自ら作り出す力なのです。

脳トレゲームよりも「新しいことへの挑戦」が効く

脳を活性化させようとして、計算ドリルなどの「脳トレゲーム」に励む方は多いでしょう。

しかし、カナダのウェスタン大学や、イギリスのアバディーン王立病院、アバディーン大学の研究データによれば、特定の脳トレを繰り返しても、そのゲームが上手くなるだけで認知機能全体の改善にはあまり効果が見られないという衝撃的な事実が示されています。

脳の司令塔である「前頭葉」を真に鍛えるには、ルーチン化された作業ではなく「未知の刺激」が不可欠です。

脳には、新しい刺激によって神経回路が再構築される「可塑性(か塑性)」という性質が備わっています。

こうした「ルーチンを壊す行動」が、前頭葉に積極的な刺激を与え、ネットワークを再構築します。

新しい体験に触れた時の「ワクワク感」は、脳内でドーパミンを放出させ、学習意欲をさらに高めるというポジティブな連鎖を生み出すのです。

60代こそ「ギャップイヤー」で自分を再発見する

欧米では、進学や就職の前にあえて空白期間を作る「ギャップイヤー」という習慣があります。これは若者の特権と思われがちですが、定年を迎えたシニア世代こそ、この「空白の時間」を取り入れるべきです。

歴史上の天才たちも、組織に属さない空白の時間にこそ、世界を変える創造性を発揮してきました。

長年「組織人」として誰かのために働いてきたあなたにとって、今の時間は、本来の「個人」に戻るための贅沢なギャップイヤーです。

この時間を単なる余生ではなく、自分自身を深く掘り下げ、新たな可能性を見出すための貴重な投資期間として再定義してみましょう。

「年齢へのこだわり」を捨てることが最大の脳活性化

日本のシニア世代の脳にとって最大の敵は、加齢そのものではなく「もう年だから」という自己制約、すなわち「エイジズム(年齢への偏見)」です。

心理学には「学習性無力感」という概念があります。回避不能なストレスを与え続けられたラットが、逃げられる状況になっても逃げようとしなくなる現象です。

人間も同様に、「この年齢では無理だ」という否定的な言葉にさらされ続けると、脳は本当に意欲を失い、物理的にも萎縮してしまいます。

しかし、グローバルな視点で見れば、年齢は単なる記号に過ぎません。アメリカのバイデン氏やトランプ氏のように、80代で国を動かすリーダーもいれば、90歳を超えて現役の研究を続けるノーベル賞学者もいます。

海外には「老害」という言葉自体がほとんど存在せず、年齢に関わらず「能力」と「成果」で評価されるのが当たり前です。

「もう年だから」という思い込みを拒絶し、年齢にとらわれず自由に行動すること。その選択こそが、脳のポテンシャルを最大限に引き出す最強のライフハックなのです。

あなたの脳に「余生」という言葉はない

脳科学の地平において、脳は死ぬ直前まで成長し続ける「永遠の成長途上」にあります。100歳であっても、脳を使えば新たな神経回路の結びつきは作られ続けます。そう、脳に「余生」という言葉は存在しないのです。

脳の状態を決定づけるのは、大きな出来事ではなく、日々の小さな積み重ねです。

こうした些細な習慣が脳内の報酬系を刺激し、あなたの脳をより若々しく、活力ある状態へと書き換えていきます。脳はあなたの言葉と行動を常に観察し、それに応えようとしているのです。

今日、あなたの脳をワクワクさせるために、どんな「新しい一歩」を踏み出しますか? 60代は衰えの始まりではなく、より深く、より創造的に人生を味わい尽くすための「黄金期」の幕開けなのです。


60歳からの脳の使い方 (扶桑社新書 540) – 茂木 健一郎

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