
「眠れなくなるほど面白い」シリーズのムックである『図解 日本のしきたり』(千葉公慈、日本文芸社)についてご紹介します。古くから日本人の生活に息づく伝統的なしきたりや年中行事が、神仏への敬意と感謝から始まったことを分かりやすく解説した図解本です。
先日、「給食の「いただきます」は「宗教」か「礼儀文化」か」という記事を書きました。
解答は、宗教的行為から始まり、現在は一般的な礼儀文化のひとつになった、ことが本書を読むとわかります。
原始時代に、「いただきます」とはいいません。
つまり、「いただきます」は、人間の脳やもともとの遺伝子に刻まれていたわけではなく、社会が成熟していく中で、そのような習慣や考え方(文化)、すなわち「しきたり」としてできあがったと見るのが自然です。
その「考案者」であったのが宗教で、日本の場合は、主に神道や仏教がその役割を果たしました。
すべてのしきたりには、人々の幸福や健康への願いが込められており、現代の暮らしに彩りを添える知恵としてまとめられています。
これらを読むことで、身近な習慣の裏にある豊かな精神性や歴史を深く理解することができる構成となっています。
神道と仏教の教えに基づいた「敬意と感謝」
日本のしきたりのすべてには、由来やいわれがあり、共通して以下のような願いや目的が込められています。
神や仏への敬意と感謝:
しきたりのそもそもは、神仏を敬い感謝する気持ちに由来しています。個々に信仰があろうがなかろうが、私たちの「敬意と感謝」の行為は、神道と仏教の教えに基づいています。
幸福や運気の向上:
家内安全や無病息災、立身出世、健康長寿など、人々の人生に福や運をもたらす祈りと願いが込められています。
人々の心を結ぶ絆:
こうした祈りを行事として行い、伝えていくことで、日本人は互いの心を結ぶ絆としての役割も果たしてきました。
また、農耕民族であった日本人は、季節の変化に合わせて農作業を行ってきたため、日本人の季節感と密接に結びつく「暦」も、しきたりの背景にある重要な要素となっています
たとえば、大安や仏滅は、科学的には何の根拠もないので、実用上は無視して構いません。
が、天文学とか気象学とか、体系的な学問もない時代に、自然の恵みや災害を人智を超えたものとして豊作や無病息災を願った先人たちの、営みや知恵を伝えた「文化」として受け止めるのは、「あり」だろうということです。
たとえば、休日を休みにできない結婚式場が、仏滅を休日にする、というのは、「文化の伝承」としてはなかなかいいアイデアだと思います。
しきたりは時代とともにアレンジされてきた
しきたりは、昔のものがそのまま続いているのではなく、実は時代とともにアレンジされてこんにちもなお続いています。
日本の四季や人生の節目に行われる代表的なしきたりとその意味を、いくつかピックアップしてご紹介します。
【春のしきたり】
ひなまつり:
女の子の健やかな成長と幸福を願い、厄払いをする行事です。
かつては自分の身代わりの「人形(ひとがた)」に穢れや災いを移し、川や海に流して無病息災を祈りました。
お花見:
春の農作業の前に「田の神様」を迎え、満開の桜に豊作を祈願したのがルーツとされています。
端午の節句:
もともとは邪気祓いの行事でしたが、江戸時代以降に男の子の健やかな成長や立身出世を願う行事として定着しました。
【夏のしきたり】
夏越の祓(なごしのはらえ):
1年の折り返し地点である6月30日に、半年間にたまった罪過を取り除き、災厄を祓う行事です。茅の輪(ちのわ)をくぐったり、人形(ひとがた)に息を吹きかけて災厄を移したりして身を清めます。
お中元:
もともとは中国の道教に由来し、神様に供物を献上して罪滅ぼしをする習わしでしたが、日本に伝わってからは、お世話になった人に感謝の贈り物をする習慣へと変化しました。
お盆:
仏教では、僧が修行と自己批判で心が清らかになる行事(自恣)の際に、在家信者がお布施をしたのが始まりです。中国に伝わった際に祖霊信仰が加わり、日本では「先祖の霊」を家に迎えて供養する行事に変容しました。
【秋のしきたり】
お月見(十五夜):
満月を愛でるだけでなく、もともとは秋の収穫を感謝し、豊作を祈願する意味合いがあります。
七五三:
子どもが3歳、5歳、7歳になる年に氏神様に参拝し、無事に成長できたことを感謝し、これからの加護を祈る行事です。
【冬のしきたり】
煤(すす)払い・大掃除:
単に家をきれいにするだけでなく、新年に幸運をもたらす「歳神様(としがみさま)」をお迎えするために、家や神棚を清める神聖な準備儀式です。
お正月:
1年の幕開けに、新しい年の豊作や幸運をもたらしてくれる「歳神様」をお迎えし、おもてなしをする特別な日です。門松やしめ飾りなどの正月飾りは、歳神様を迎えるための目印や神聖な場所を示す意味があります。
節分:
季節の変わり目(立春の前日)にやってくる鬼(邪気や病気、災害の象徴)を追い払い、福を招き入れるための行事です。
【人生のしきたり】
お宮参り:
赤ちゃんが生まれておよそ1ヶ月後に氏神様に参拝し、氏子として加護を祈る行事です。
厄払い:
災厄が起こりやすく、人生の転換期ともなる年齢(厄年)に、神社やお寺で厄を除くために祈願する風習です。
「いただきます」の答え合わせ
話を冒頭に戻せば、「いただきます」の習慣が一般に広く定着したのは意外に新しく、Geminiによると、明治時代以降のことと言われています。
それ以前は、地域や家庭、信仰によって食事の際の作法や挨拶はさまざまでした。
では、それはどうやって「いただきます」として、全国民的に「統一」されたのか。
その「原作」は、神道&浄土真宗と思われます。
神道では、神様へのお供え物を下げる際に、頭の上に高く掲げる決まりになっており、そこから「頂(いただき)」という言葉が使われるようになりました。
そして、浄土真宗では、食事の前にこの言葉を唱える習慣があります。
「多くのいのちと、みなさまのおかげにより、このごちそうをいただきます」
融合の好きな仏教ですから、神道の「頂き」の概念を採り入れたのでしょう。
ただし、前回も書いたように、同じ仏教でも、釈迦仏教ではそういう儀式はありません。
もとより、日本国民が必ずしも、神道や浄土真宗の信者ではありません。
そこで、明治時代以降、仏教的な唱え文は省略され、教育などを通じて「いただきます」という一言に集約され、国民的な習慣として広まったと考えられているそうです。
ですから、現代に「『いただきます』は宗教行事だからやめろ」というのは、もはや一般化されているので間違っていますが、原点が宗教ではあったということです。
ま、いずれにしても大事なことは、感謝の心です。私自身は神式が性に合っているようで、お食事の前には二拍手して、感謝の心を表現していただきます。
みなさんは、上記の「しきたり」を日常的に行っていますか。
