
かつては高度経済成長の象徴と言われたマイカー。それが昨今は、特に若い世代を中心に「マイカーを持たない」という選択肢が現実味を帯びてきています。皆さんは、クルマを「持つ」ことに対してどのようなイメージをお持ちでしょうか。
この記事では、自動車産業の「CASE」(Connected, Autonomous, Shared & Services, Electric)という変革の波が進む中で、この記事では、様々な統計データを基に、この「車離れ」が今後どのように進んでいくのかを考えてみます。
若者の免許保有率が示す「価値観の転換」
今日の情報源です。
クルマ、いりますか? 見え始めた「マイカーを持たなくなる未来」 https://t.co/e6CNigJ3lL
— 毎日新聞ニュース (@mainichijpnews) March 25, 2026
記事内で特に印象的なのは、20歳から24歳までの運転免許保有者数の推移です。警察庁の統計によると、1999年には約727万人だったこの世代の保有者数が、2024年には約451万人まで減少しています。これは約38%もの減少であり、単なる人口動態の影響を超えた、意識の変化を如実に表しています。
東京都内の教習所で取材に応じた大学4年生の女性は、「就職先で免許が必要なので取ったが、仕事でいらなければ教習には来なかった。近場なら電動アシスト自転車で事足ります」と語っています。また、友人の半数は免許を取得しているものの、その多くが「身分証明書代わり」という実態も明らかにされました。
かつて「18歳になったらすぐ免許」が当然だった時代から、免許取得の目的が「移動手段の確保」から「就職条件の充足」や「身分証」へとシフトしていることは、クルマに対する価値観の大きな転換点と言えるでしょう。
都市部で加速する「所有しない」選択肢
記事では、この背景にあるものとして、都市部における電動アシスト自転車の普及や、カーシェアリング・ライドシェアなどのモビリティサービス(MaaS)の台頭を指摘しています。特に東京都心部では、地下鉄やバスなどの公共交通機関が比較的充実していることに加え、少し離れた場所への移動も自転車やシェアリングサービスで賄えるため、高額な維持費(駐車場代、税金、保険、車検代など)がかかるマイカーを所有するメリットが薄れているのです。
実際、国土交通省の調査でも、都市部の20代、30代を中心に「クルマの維持費が負担である」「駐車場が確保できない」といった理由から、マイカー購入を控える傾向が顕著に現れています。一方で、所有はしないものの、必要な時に必要なだけ使えるシェアリングサービスへの満足度は高い水準にあります。
地方の現実と記事への反響
しかし、この記事に対するネット上の反響を見ると、地方在住者からは異なる声が多く上がっています。「都市部の話ばかりで、地方では車がないと生活できない」「バス路線がどんどん廃止され、スーパー一つ行くのに車が必須だ」といった意見が多数見られました。
確かに、現実には都市部においても交通の便は一様ではありません。東京都23区内であっても、バスの運行本数が1時間に1本しかない地域や、最寄り駅まで徒歩20分以上かかるエリアは少なくありません。地方の中山間地域に至っては、公共交通機関そのものが消滅している場所もあり、移動は完全に自家用車に依存しています。
記事を「都市部偏重だ」と批判する声の背景には、このような地域間におけるモビリティ環境の深刻な格差があります。地方の高齢化が進む中で、免許を返納した後の生活の質をどう維持するかという問題とも相まって、車の所有を巡る議論は一筋縄ではいかないのです。
未来を描く二つのシナリオ
では、「車離れ」は今後どうなっていくのでしょうか。私は、二つの相反するシナリオが並行して進むと考えます。
一つ目は、都市部を中心とした「所有から利用へのシフト」の加速です。自動運転技術の実用化が進めば、今よりもさらに手軽に、安全に、シェアリングサービスを利用できるようになるでしょう。自動運転レベル4のサービスが特定地域で解禁されれば、ドライバー不足に悩む地方の公共交通の代替手段としても期待されます。また、電気自動車(EV)の普及が進めば、燃料費の面でも所有のコストパフォーマンスは見直される可能性があります。
二つ目は、地方における「新たな所有の形」の模索です。人口減少が進む地域では、一人一台が所有する時代から、近隣住民で一台をシェアする「共同保有」や、自治体と連携した「地域包括ケア型のモビリティサービス」のような、所有の枠を超えた仕組みづくりが不可欠になるでしょう。記事でも紹介されていた日産自動車の「城下町」である神奈川県追浜のような地域では、企業と地域が連携し、車産業の変革に対応しながら、雇用と暮らしを守る新しいモデルが求められています。
高齢化社会とモビリティの保障
また、もう一つ無視できないのは高齢化の問題です。現在、75歳以上の高齢ドライバーによる事故が社会問題となる中、免許の自主返納は推奨されています。しかし、返納した後の移動手段が確保されなければ、高齢者の買い物難民や通院難民が増加するだけです。
この問題の解決には、自動運転技術の活用だけでなく、地域住民による交通サービス(自家用有償運送など)や、コンパクトシティ化による都市構造の転換といった、ソフトとハードの両面からのアプローチが求められます。
まとめ
「クルマ、いりますか?」という問いは、私たち一人ひとりのライフスタイルや、住む場所によって答えが大きく変わります。統計データが示すのは、所有に対する絶対的な価値が揺らぎ始めたという事実です。今後は、都市部では「持たない」ことが標準になり、地方では「持つこと」の意味と負担がさらに吟味される時代が来るでしょう。
重要なのは、車を持つ、持たないという二者択一ではなく、すべての人が安全で便利に移動できる社会の仕組みをどう作っていくかという視点です。自動運転やMaaSといった技術革新は、そのための強力なツールになり得ます。政府や自治体、自動車メーカー、そして私たち利用者が、地域の実情に合わせた多様な選択肢を共に考えていくことが、これからの「移動の未来」を形作る鍵になるのではないでしょうか。
「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット – 楠田悦子
