
1935年に、物理学者エルヴィン・シュレディンガーが提唱した、量子力学の奇妙な性質を象徴する「シュレディンガーの猫」という思考実験を解説した書籍をご紹介します。猫が生きている状態と死んでいる状態が重なり合うという、量子重ね合わせの概念を軸にした量子力学の解説です。
「箱の中に猫を入れました。1時間後、猫は生きているでしょうか?それとも死んでいるでしょうか?」
…普通に考えれば、答えは「生きているか、死んでいるかのどっちか」ですよね?
ところが、20世紀の天才物理学者たちの間では、「箱を開けるまでは、生きている状態と死んでいる状態が“両方”同時に存在している」 という、ちょっと信じられない考え方が真剣に議論されていました。
これが、世界で最も有名な物理のたとえ話 「シュレディンガーの猫」です。
今回ご紹介するのは、アルベルト・カレテロさんによる解説書です。
ただのヘンテコな空想話ではありません。
実は、この『生きているのに死んでいる猫』の謎を解こうとした結果、現代の『量子コンピューター』が生まれ、私たちの未来を劇的に変えようとしているのです。
シュレディンガーの猫って、どんな話?
「シュレディンガーの猫」は、1935年にオーストリアの物理学者エルヴィン・シュレディンガーという人が考え出した、「頭の中での実験(思考実験)」です。
彼は、当時話題になっていた「量子力学」という新しい学問の考え方に、こんな風にツッコミを入れました。
「いやいや、量子力学の理論でいくと、こんなバカげたことが起きることになるんですけど?それでも本当だと思いますか?」
…つまり、皮肉を込めてこの猫の話を考えたんです。
実験のセット
箱の中には、
・かわいそうな猫(あくまで想像上の話です、ご安心を)
・放射性物質(ごくたまに「ポロッ」と原子が崩壊する)
・ガイガーカウンター(放射線をキャッチする機械)
・毒ガスの入ったビン
ルールはこうです。
1時間以内に放射性物質の原子が崩壊する確率は、50%。
もし崩壊したら → ガイガーカウンターが反応 → 毒ガスビンが割れる → 猫は死ぬ。
崩壊しなかったら → 猫は生きている。
さあ、ここがミソです
1時間後、箱の中の猫はどうなっているでしょう?
普通に考えれば、「死んでいる」か「生きている」のどちらかに「決まっている」はずです。
ところが、当時の新しい考え方(コペンハーゲン解釈といいます)に従うと、こうなってしまいます。
「箱を開けて中を“観測”するまでは、猫は“生きている状態”と“死んでいる状態”が、フワッと重なって存在している」
つまり、「生きてもいるし、死んでもいる」という、SF小説にも出でこないような状態になってしまうのです。
これが 「重ね合わせ(スーパーポジション)」 という考え方です。
どうして「生きても死んでもいる」なんてことになるのか
私たちの日常(マクロの世界)では、ボールは「ここ」にあるか「あそこ」にあるかのどちらかで、同時に2カ所にはありません。
ところが、原子や電子、光の粒といった「ミクロの世界」では、ルールがまったく違います。
たとえば、電子は「観測するまではどこにいるかわからない」のではなく、「どこにでもいる可能性がフワッと広がっている」と考えます。
まるで、雲のようにモヤッと存在しているのです。
そして、人間が「どこにいるのかな?」と観測(測定)した瞬間に、フワッとしていた雲がシュッと縮んで、一つの場所に「ポッ」と現れます。
これを 「波動関数の収縮」 と呼びます。
猫の実験では、この「ミクロの世界のルール」が、「毒ガス」というマクロの装置につながっています。
放射性物質の原子が「崩壊した状態」と「してない状態」が重なっている。
それがそのまま、猫の「死」と「生」にリンクしている。
だから、箱を開けるまでは、猫も「生きている状態」と「死んでいる状態」が重なって存在している…ということになるのです。
シュレディンガーは何を言いたかったのか?
この「猫」の登場によって、物理学者たちは大論争を始めます。
・「観測」ってそもそも何だ?
・人間が見るまでは「現実」は決まっていないのか?
・猫は自分が生きているかどうか、わからないのか?
それでは、今の物理学ではこの猫はどう考えられているのか。
「猫のような大きなものが、生きても死んでもいる“重ね合わせ”の状態になることは、まずありえない」
その理由は、 「デコヒーレンス」 という現象です。
電子のような小さなものは、周りからのジャマを受けにくいので、重ね合わせをキープできます。
でも、猫のような大きなものは、周りの空気の分子や光など、いろんなものと触れ合ってしまいます。触れ合ううちに、あっという間に「生きている」か「死んでいる」かのどちらかに“ポロッ”と決まってしまうのです。
物質と人間の観察の不思議
結局、この猫は何だったのでしょうか。
それは、「私たちの常識は、ミクロの世界では通用しない」という境界線を示した道しるべです。
謙虚な科学の始まり:
「人間が見る」という行為が世界に影響を与えることを突きつけた。
テクノロジーの種:
「どっちつかずの状態」を計算に使うことで、スパコンを遥かに超える量子コンピューターのヒントになった。
知的好奇心の扉:
「現実とは何か?」という哲学的な問いを、科学の土俵に引きずり出した。
もしシュレディンガーがこの猫を思いつかなかったら、今のハイテクな未来はもっと遠かったかもしれません。
今日の話は、ちょっと難解だったかな。でも、現代の物理学者たちも『結局どういうこと?』という問いに対して、いまだに完璧な一つの答えを出せているわけではありません。専門家でも100年近く悩んでいるんです。雑学として知っておいていただければ幸甚です。
シュレディンガーの猫の説明 – Alberto Carretero
