近年、日本国内でナッツアレルギーを発症する人が急増しています。特にクルミやカシューナッツなどに対するアレルギー報告が増えており、消費者庁の調査結果によると、2011年からの12年間で報告数は実に10倍にもなりました。
今回は、その背景やリスク、そして健康食品として注目されるナッツを上手に日常生活に取り入れる方法について考えてみます。
なぜナッツアレルギーが増えている?その背景を探る
急増するナッツアレルギー…10年間で10倍に、健康志向と消費量の増加が背景か “見えないナッツ”のリスク 対策整備と啓発進む#FNNプライムオンライン https://t.co/L6iQYTM9Vp
— FNNプライムオンライン (@FNN_News) October 6, 2025
ナッツアレルギーが急増している理由は複数考えられます。まず最も大きいのは、「健康食品」としてナッツ類の消費が増えたことです。健康志向の高まりを背景に、スーパーはもちろん、コンビニや飲食店でもナッツ入りの商品が当たり前のように並ぶようになりました。
もうひとつは、「見えないナッツ」のリスクです。ナッツそのものの形でなくても、ペーストやパウダーの形で料理やスイーツ、加工食品に使われる機会が非常に多くなっています。これにより、知らずに摂取してしまうケースが増えているのです。特に子どもが食べやすいお菓子やパン、アイスクリームなどは注意が必要でしょう。
専門家によると、ナッツアレルギーの増加は「消費量の増加」と「曝露機会の増加」が密接に関係しているとのことです。私たちの食生活にナッツが浸透したことで、それに比例するようにアレルギー発症者も増加しているのです。
ナッツアレルギーの症状と重症化リスク
ナッツアレルギーは少量でも症状が出やすい特徴があります。多くの場合、摂取後30分程度でじんましん、かゆみ、腹痛、嘔吐などの症状が表れますが、中には呼吸困難や血圧低下といったアナフィラキシーショックに至る重症例もあります。
特に小児は重症化しやすいため、家庭や学校、保育園での管理が重要です。アナフィラキシーショックは命に関わることもあるため、早期の対応が不可欠です。症状が出た場合には、速やかに医療機関を受診する必要があります。
社会で進む対策と啓発活動
この急増を受けて、行政や食品業界でも対策が進んでいます。例えば、アレルギー表示の強化や啓発のためのパンフレット配布、小児科だけでなく学校現場や飲食店向けの研修などが行われています。
2020年には食品表示法が改正され、ナッツ類の表示がより明確化されました。しかし、加工食品中の「見えないナッツ」まで完全に把握するのは難しく、依然として課題が残っています。
家庭でも、アレルゲンの含有をしっかり確認できるよう、パッケージの裏面表示を読む習慣を身につけたいものです。また、アナフィラキシーショックへの迅速な対応ができるよう、エピペン(自動注射器型アドレナリン製剤)などの携行が広まっており、本人や保護者だけでなく、周囲の人も対処方法について知識を持つ必要があります。
学校や職場では、アレルギー対応のマニュアル整備や研修の実施が進められています。特に給食を提供する施設では、アレルギーを持つ子どもへの対応が重要視されるようになってきました。
それでもナッツは優れた健康食品
ここまでナッツアレルギーのリスクについて触れてきましたが、ナッツは多くの栄養素を含む優れた健康食品であることも忘れてはいけません。良質な植物性タンパク質、ビタミンE、マグネシウム、不飽和脂肪酸、食物繊維などが豊富に含まれており、摂取することで生活習慣病予防やアンチエイジング効果も期待できます。
ナッツが健康に良いのは、各国の健康ガイドラインや多数の研究でも示されています。ただし、「健康によいから」と過剰摂取しては逆効果です。高カロリー食品でもあるため、1日20~30g程度を目安に、バランスよく摂取しましょう。
研究によると、適量のナッツ摂取は心血管疾患のリスク低減や、脳の健康維持にも役立つことが分かっています。アレルギーのない人にとっては、まさに「天然のサプリメント」と言えるでしょう。
賢いナッツの摂り方と注意点
ナッツを安全に、そして健康的に摂取するポイントは次の通りです。
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アレルギーの心配がなければ、未加工・塩分無添加のナッツを選びましょう。余分な塩分や油を摂取せずに、ナッツ本来の栄養素を効率的に取り入れることができます。
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パッケージや成分表を確認して、「ナッツ類」「木の実」と書かれていないか、お菓子やパン、カレーなど加工食品にも注意を払いましょう。外食時には、メニューに記載がなくても、料理にナッツが使用されている可能性があります。不安な場合は、店員に確認する習慣をつけることが大切です。
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はじめて子どもにナッツ製品を与える場合は、ごく少量から様子を見て、アレルギー反応がないかチェックすることが大切です。医療機関の開いている時間帯に試すなど、万が一に備えた環境づくりも重要です。
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アレルギー体質や家族歴がある場合は、医師とよく相談し、必要に応じてアレルギー検査を積極的に活用しましょう。自己判断で除去食を続けるのではなく、専門医の指導のもとで適切な対応をすることが望ましいです。
今後の展望と私たちにできること
ナッツアレルギー対策としては、早期発見・早期対応に加え、予防的な観点からの研究も進められています。最近の研究では、幼少期から少量のピーナッツを摂取することで、アレルギー発症を予防できる可能性が示唆されています(ただし、この方法は医師の指導のもとで行う必要があります)。
また、食品業界ではアレルゲンフリーの製品開発も進んでおり、ナッツの風味を再現したアレルギー対応食品も登場しています。
まとめ
ナッツアレルギーは近年、健康志向の高まりによる消費量増加や「見えないナッツ」のリスクによって、特に子どもを中心に急増しています。社会全体で対策が進んでいる一方で、個人のセルフケアも重要です。しかし、ナッツそのものは栄養価が高く、適切に取り入れれば健康寿命の延伸にも役立ちます。
家庭では表示の確認を徹底し、アレルギーの兆候に早く気づけるよう日頃から意識を持ちましょう。そして、ナッツの恩恵を受けつつもリスクを回避する――そんな「賢い食べ方」を目指す時代となりました。
アレルギーを持つ人も持たない人も、互いの状況を理解し、配慮し合える社会づくりが、これからますます重要になっていくでしょう。
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