サイトアイコン 市井のブログ

シニア世代で利用拡大の「観光以上 定住未満」という新しいライフスタイル ーリゾートバイトが広げる可能性とその課題ー

シニア世代で利用拡大の「観光以上 定住未満」という新しいライフスタイル ーリゾートバイトが広げる可能性とその課題ー

現在、「観光以上 定住未満」という新しいライフスタイルが注目を集めています。これは、観光地でアルバイトをしながら、泊まりがけの観光も楽しむというもので、宿泊費が無料で済む上に短期間で報酬も得られる、まさに一石二鳥の旅のスタイルです。

最近では、このような働き方を支援するマッチングサービスも増加しており、特にシニア世代での利用拡大が目立っています。

実際に、「おてつたび」などのマッチングサービスでは、50代以上の参加者が2021年の8%から2024年には26%へと3倍以上に増加しています。人生100年時代と言われる現代において、これまでの「退職後は悠々自適」という従来の価値観から、「生涯現役で社会とつながり続ける」という新しい生き方への転換が起きているのです。

この現象の背景には、シニア世代の旅行に対する経済的・心理的ハードルがあります。JTB総合研究所の調査によると、シニア世代が旅行を控える理由として「お金がない」(54.5%)、「同行者がいない」(13.2%)といった課題が挙げられています。リゾートバイトは、これらの課題を解決しながら、新たな人との出会いや地域との深いつながりを提供する魅力的な選択肢として機能しているのです。

広がりを見せるマッチングサービス市場

リゾートバイト市場は急速に拡大しており、多様なマッチングサービスが登場しています。株式会社ダイブが運営する「ダイブ」、株式会社おてつたびの「おてつたび」など、それぞれ異なる特色を持ったサービスが競合しています。これらのサービスは、人手不足に悩む地域事業者と、働きながら旅を楽しみたい旅行者をマッチングし、双方のニーズを満たす仕組みを提供しています。

特に注目すべきは、利用者層の多様化です。従来は学生が中心だったリゾートバイトですが、現在では社会人経験者、早期退職者、子育てがひと段落した主婦など、幅広い年齢層が参加しています。「おてつたび」の調査では、参加者の93%が「ひとり旅」で参加しており、平均滞在期間は2週間となっています。これは単なる観光旅行とは異なり、「暮らすように旅を楽しむ」という新しい旅行スタイルの定着を示しています。

供給過多による競争激化のリスク

しかし、この新しい働き方が広まるにつれて、いくつかの懸念も浮上しています。最も大きな問題の一つが、参加者の急増による供給過多の可能性です。人気の観光地や条件の良い求人には多数の応募が集中し、競争が激化しています。特に、宿泊費無料で高時給の求人は、応募者が殺到する傾向にあります。

この状況は、参加者にとって機会の減少を意味するとともに、受け入れ先にとっても適切な人材選択の困難さを生み出しています。マッチングサービスの利便性が高まる一方で、市場の飽和により、希望する条件での参加が困難になるケースが増えることが予想されます。

また、供給過多の状況では、時給などの労働条件が下がる圧力も働きやすくなります。現在は人手不足を背景に比較的好条件が維持されていますが、参加者が増えすぎると、事業者側が条件を下げても人材確保が可能になる可能性があります。

慣れない環境でのトラブルリスク

短期間のリゾートバイトには、慣れない土地での就労に伴う様々なトラブルのリスクも存在します。実際に、短期バイトマッチングサービス全般で報告されている問題として、「応募した仕事内容と実際の業務が異なる」「バイト直前のキャンセル」「ハラスメントの横行」「ブラックな環境での労働」などが挙げられています。

特に、リゾート地という閉鎖的な環境では、職場でのトラブルが発生した際の逃げ場が限られるという問題があります。短期間の雇用であることから、労働条件が曖昧になりがちで、報酬の未払いや長時間労働といった法的トラブルに発展するケースも報告されています。

さらに、住み込みという特殊な環境では、プライバシーの確保が困難な場合や、職場の人間関係のトラブルが生活空間にまで影響を及ぼすリスクもあります。特にシニア世代にとっては、若いスタッフとの世代間ギャップや、慣れない業務への適応といった課題も考慮する必要があります。

地域労働市場への影響と正規雇用への懸念

リゾートバイトの普及が地域労働市場に与える影響についても、慎重な検討が必要です。短期的な労働力の確保という観点では、人手不足に悩む地域事業者にとって非常に有効な手段ですが、長期的には地域の正規雇用機会に影響を与える可能性があります。

観光業界では従来、通年雇用の正社員と繁忙期の短期雇用の組み合わせで人材を確保していました。しかし、リゾートバイトの利便性と低コスト性により、事業者が正規雇用を控えて短期雇用に過度に依存する傾向が強まる可能性があります。これは、地域住民の安定した雇用機会の減少につながりかねません。

また、外部からの短期労働者の流入により、地域住民の雇用機会が圧迫される懸念もあります。特に、若い世代の地域住民にとって、観光業は重要な就職先の一つですが、外部からの労働力に依存することで、地域の若者の雇用機会が減少し、結果的に人口流出を加速させる可能性もあります。

持続可能な発展に向けて

これらの課題を踏まえつつ、「観光以上 定住未満」という新しい働き方を持続可能なものにするためには、適切なバランスが必要です。まず、マッチングサービス事業者には、参加者の適切な事前研修や現地でのサポート体制の充実、トラブル発生時の迅速な対応体制の構築が求められます。

また、受け入れ先の事業者には、短期雇用であっても適切な労働条件の提供と、参加者の安全確保への責任が重要です。地域全体としては、短期労働力への過度な依存を避け、正規雇用との適切なバランスを保つことが必要でしょう。

さらに、行政による適切な規制やガイドラインの策定も重要です。短期雇用の労働条件の最低基準設定や、トラブル発生時の相談窓口の設置、地域労働市場への影響のモニタリングなどが考えられます。

人生100年時代における新しい働き方として、「観光以上 定住未満」のライフスタイルは大きな可能性を秘めています。しかし、その発展を持続可能なものにするためには、関係者全体での課題認識と対策の実施が不可欠です。単なる流行に終わらせることなく、真に社会に貢献する仕組みとして育てていくことが、今後の重要な課題と言えるでしょう。


参考文献:


最新版 東京ディズニーリゾート キャストの仕事 Disney in Pocket – 講談社

モバイルバージョンを終了