
先日、「観相学」を標榜する動画チャンネル『けんんけTV』に言及しましたが、こちらは姓名判断にもかなり熱心です。ご本人曰く、「何億円もかけてデータをとって姓名判断をやっている」と自慢しています。しかし、金をかければ正しいというものでもないでしょう。
この方の占断によると、私の画数は最悪で、犯罪者が出ているなどと断言されていますが、同じ漢字の姓名で活躍している方が、ネットで調べても5~6名。
いずれも、前科前歴はないようです。
私も検挙歴はありませんし、そもそも私は2019年に「読み」を変更しており、その方々とは厳密な意味での同姓同名ではないのですが、その場合、解釈がどう変わってくるのかも、このチャンネルでは説明されていません。
こんな皮肉な診断はない
ブラックジョークといいましょうか、ここではアパホテルの元谷芙美子社長の鑑定リクエストがあり、姓名判断したところ大凶でした。
元谷さんというのは結婚後の姓で、旧姓は西川さんだそうです。
「西川」時代は、さらに悪いそうです。
「何をやろうとも、必ずうまくいくことはありません」と断言しています。
本当にそうでしょうか。
wikiによれば、「未熟児として生まれ、間もなく死ぬだろうと周囲に思われていたが、なんとか生き延びる。1歳のときに福井地震で生家が倒壊したが、気絶して倒れたところに落ちてきた観音開きになった仏壇に守られて助かる。元谷はこれらの出来事から、「1歳までに2回死にかけて、すでに一生分の厄落としをしてる」と考えている[2][3]。」とあります。
福井地震を経験して死にかけたのは不幸かもしれませんが、助かったのなら、これ以上の幸運はないではありませんか。
その後、「お茶の水女子大学に進学すること、学校教員になることを夢見ていたが[4]、父親が鉛中毒で倒れたため、福井県立藤島高等学校卒業[5]後は福井信用金庫に就職[1]。」
なるほど、これは不幸に見えますが、就職後の組合活動が機縁で夫と知り合い、ホテルを起業して成功して現在があるのです。
ちなみに、諦めた進学は、結婚後実現し、博士課程まで進んでいます(単位取得後退学)。
どこが大凶なんですかーっ!
もちろん、事業は水ものでこの先どうなるかわかりませんから、アパホテルが倒産とか身売りとかする可能性が絶対にないとは言えません。
でも、かりに将来“いまわのきわ”が無一文だったとしても、1歳で死ぬかもしれなかった命で少なくとも78歳の現在まで現役で、結婚もして夢の大学院生も大学教授も社長業も経験しているのですから、人生を楽しめた、現時点で十分、大凶とはいえない生涯だと思いますが、いかがでしょうか。
姓名判断も疑似科学である
このチャンネル主によると、膨大なデータをとって集計するのに、億単位の金を注ぎ込んでいるから、自分の姓名判断は本物だというのですが、いやいや、いくら金をかけても、そこに合理的な根拠がなければ、そんなもの、ただの占い道楽でしかありません。
だったら、パチンコで身を持ち崩した奴のパチンコ講釈は正しいのか?むしろ逆だろう。
①「母数が多い=科学的」という錯覚(統計学的批判)
統計学は、データ量の多さは、前提条件と分析設計が正しい場合にのみ意味を持つものです。
とされます。
姓名判断の場合、少なくとも次の点が不明確です。
・「成功」「犯罪」「不幸」といったアウトカムの定義が恣意的
・犯罪者の「母集団(全犯罪者)」と「対照群(非犯罪者)」の設定が不明
・年代・地域・社会階層・教育水準などの交絡因子を排除していない
・冒頭のように、同姓同名問題をどう扱っているか説明がない
これらを制御せずに「画数との相関」を語ることは、統計学的には相関錯誤(spurious correlation)の典型です。
②「画数」という指標自体の恣意性(言語・文化批判)
画数には次の根本的問題があります。
・新字体・旧字体で画数が変わる
・同じ漢字でも流派ごとに画数が違う
・そもそも画数という概念は近代以降に整理された占術的構築物
つまり、自然法則でも客観指標でもなく、後付けの記号操作に過ぎません。
これを「犯罪傾向」や「人生の良し悪し」と結びつけるのは、科学ではなく象徴操作(シンボリック・ナンセンス)です。
「象徴操作(シンボル操作:Symbol Manipulation)」とは、社会学や心理学の用語で、客観的な事物、記号、言語、行動様式を「シンボル(象徴)」として扱い、そこに特定の意味や価値を込めて多くの人々を同調させる、あるいは一定の行動をとるよう誘導するプロセスを指します。
③ 同姓同名の反証
私と「同姓同名」の人は、ラーメン屋さん、スポーツ紙記者、建築家など、様々です。
もともと、「ほしのもと」が違う上に、その後の人生の環境や出会いも違うから、それぞれの生き方がある。
このあたり前の成り行きを見れば、そもそも「名前と運命の関係」なんてことを調べること自体、無意味であることに気付かされます。
④フォレンリーディング(誰にでも当てはまる言い回し)
「最悪」「犯罪者が出ている」「波乱の人生」などは、
・恐怖を煽る
・否定しにくい
・一部当てはまる事例が必ず見つかる
という特徴を持つ、典型的なフォレンリーディングです。
これは心理学的に、人は否定的で曖昧な評価ほど「当たっている気がする」という性質を利用したものです。
⑤「金をかけた」は真理性の証明にならない(哲学的批判)
科学史的に言えば、天動説も、骨相学も、優生学も、当時は国家予算級の資金と膨大なデータが投じられていました。
しかし現在では、金とデータを使った「壮大な誤り」でしかありません。
つまり、「何億円かけた」は、正しさの根拠ではなく、投資額の自慢にすぎないのです。
⑥倫理的問題:人格決定論・差別助長
特に深刻なのは、
「この名前には犯罪者が出ている」
「運が悪い画数」
といった言説が、本人の自己評価を傷つけ、周囲の偏見を助長し、選別や排除を正当化しかねない点です。
これは、かつての血統主義・家柄主義と同じ構造を持っています。
こんなものに振り回される必要はありません
けんけんTVでは、金をかけたと言いながらも、一方では「名前で人生が決まるのは3~4%」などと、逃げ道作りにも余念がありません。
姓名判断自体の根拠自体が合理的でないのに、◯%などという数字を出したところで、そこに何の科学的意味もありません。
百歩譲って、「3~4%」が間違いなかったとして、その程度のリスクなのに「犯罪者になる」だの「何をヤッてもうまく行かない」などと言えるのは、煽って脅かす霊感商法のたぐいと同じビジネスです。
いや、そうではないよと文句があるのなら、査読付き論文を、統計学や社会学関係の学会や雑誌に投稿すれば済む話です。
「論文のない説は文字通り論外」というのは、学問の世界では分野に関係なく大前提です。
みなさんは、姓名判断を気にされますか。
なぜ疑似科学が社会を動かすのか ヒトはあやしげな理論に騙されたがる PHP新書 – 石川 幹人
