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池田清彦さんの『多様性バカ 矛盾と偽善が蔓延する日本への警告』(扶桑社)は「多様性を尊重しよう」という今の風潮に一石を投じる

池田清彦さんの『多様性バカ 矛盾と偽善が蔓延する日本への警告』(扶桑社)は「多様性を尊重しよう」という今の風潮に一石を投じる

生物学者の池田清彦さんの『多様性バカ 矛盾と偽善が蔓延する日本への警告』(扶桑社)は、「多様性を尊重しよう」という今の風潮に一石を投じる本です。

私たちは毎日のように「多様性」という言葉を耳にしますが、池田さんはその実態を「多様性バカ」と呼び、厳しく批判しています。この本は、生物学者の視点から、現代日本が「考えない社会」になり、ルールが増えすぎて個人の自由が失われつつある現状に警告を鳴らします。

「多様性」の名の下に広がる「ルールの網」

池田さんがまず指摘するのは、「多様性」という言葉が、本来の意味とは逆に、日本では「ルールをどんどん増やすこと」にすり替わっている、という皮肉な現象です。

例えば、優先席やマスクの着用、会社の決まりごとなどです。以前なら、「お年寄りには席を譲ろう」「体調が悪いときは周りに気を配ろう」といったことは、状況に応じて一人ひとりが判断していました。しかし今では、これらがすべて「絶対守るべきルール」として定められ、ルールを守ること自体が目的になっています。

そして、この「ルールの自己目的化」が生み出すのは、わずかでもルールから外れた人を、「正義」を振りかざして激しく攻撃する、とても「不寛容な社会」です。池田さんは、口では「多様性が大事」と言いながら、実際は「決められたルール」に合わない人を排除しようとする矛盾を、鋭く描いています。

生物学者が語る「分類」の危うさ

池田さんは生物学者として、人間社会が行う「分類」の危険性を、生物の視点から解き明かします。

私たちは、人種や性別、病気などで人を分けたがりますが、池田さんは、その境界線はとてもあいまいで、人間が勝手に作ったものに過ぎないと言います。

例えば、高血圧の診断基準は昔より厳しくなり、その結果、多くの人が「患者」というラベルを貼られました。数値やカテゴリーに盲目的に従うことが、権力や製薬会社のような特定の産業に利用されている例です。池

田さんは言います。本当に多様性を認めるということは、「AもBも認める」ことではなく、そもそも「AとBの境界線がはっきりしない」という、曖昧でグラデーションのような状態をそのまま受け入れることだと。世界を効率よく均一に分類しようとすることは、生物学的に見れば、環境の変化に対応できず「絶滅への道」を歩むようなものだと警告します。

日本社会の「考えない」癖

池田さんが日本社会の大きな問題として挙げるのが、「自分の頭で考えず、『一番強い人』や『その場の空気』に無条件で従ってしまう」習性です。

戦争中の軍部への盲従と、現代の「ルールや規則が絶対」という考え方は、根っこが同じだと指摘します。SNSで見られる「正義の名を借りた他者への激しい攻撃」も、この「同調圧力」の一種です。

匿名で、自分は「正しい側」だと信じて相手を全否定するのは、もはや対話とは言えません。

池田さんは、相手と自分の「ズレ」や違いを面白がれる余裕こそが、本当の多様性を育てる土壌だと説きます。自分の価値観だけが絶対だと信じず、他者の違いを「そういう考え方もあるんだね」と受け流す寛容さ。

それが失われると、社会は硬直し、国の力も衰えていくと警鐘を鳴らします。

本当の多様性に必要なもの:「自律」と「親切」

では、この「多様性バカ」の状態から抜け出すにはどうしたらいいのでしょうか? 池田さんは、IT企業「サイボウズ」の例を紹介します。100人いれば100通りの働き方を認め、細かいルールで縛るのではなく、一人ひとりの自律性を重んじるこの会社のあり方は、理想的な多様な社会の一つのモデルと言えます。

また、池田さんは「愛される権利はなくても、親切にされる権利はある」という大事な区別を提案します。すべての人を愛したり、理解したりすることは不可能です。

でも、社会の一員として、互いに最低限の「親切さ」や敬意を持って接することは可能です。感情を強制するのではなく、「緩やかに共存する」こと。それが、ギスギスした現代社会に必要な心構えではないでしょうか。

この本は、単なる社会批判の本ではありません。「あなたは自分の頭で考えていますか?」と一人ひとりに問いかける、哲学の本でもあります。池田さんは、巨大地震のような大変事で今のシステムが崩れた後、生物の歴史の「カンブリア大爆発」のように、新しい多様性が爆発的に生まれるかもしれない、とも夢想しています。

システムが壊れてから慌てるのではなく、今から、私たちは「ルールの奴隷」になるのをやめ、不完全で多様な人々と一緒に生きていく覚悟を持つべきです。この本を読み終えたとき、「多様性」という言葉が、今までとは違う、もっと深く重みのあるものに感じられるはずです。

カテゴリーをたくさん設けることが多様性ではない、と池田さんは言います。

要するに、自分自身の尊厳を守りながら、同じように他者の尊厳も尊重する、ということですね。

自分の尊厳は言われなくても守るでしょうが、他者の身になって考えられるかどうか、ということです。

みなさんは、いつも他社の身になって考えていますか。


多様性バカ 矛盾と偽善が蔓延する日本への警告 (扶桑社BOOKS新書) – 池田 清彦

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