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参政党の神谷宗幣代表による「終末期の延命措置医療費の全額自己負担化」という発言が問題の多い提案と波紋を呼んでいます。

参政党の神谷宗幣代表による「終末期の延命措置医療費の全額自己負担化」という発言が問題の多い提案と波紋を呼んでいます。

参政党の神谷宗幣代表による「終末期の延命措置医療費の全額自己負担化」という発言が、大きな波紋を呼んでいます。朝日新聞によれば、神谷代表は「みとられる時に蓄えもしないと大変だと啓発する思いで入れた」と述べています。しかし、この発言は医療現場の実情を無視した、極めて問題の多い提案であると言わざるを得ません。

「終末期」の定義が曖昧な現実

最大の問題は、何をもって「終末期医療」とするかの明確な基準が存在しないことです。厚生労働省が公表している「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」でも、終末期の定義は曖昧で、医療現場では多くの医師や医療従事者が判断に迷うケースが数多くあります。

たとえば、85歳の高齢者が肺炎を発症した場合を考えてみましょう。その時点で、その患者が「終末期」にあるのか、それとも適切な治療により回復可能なのかを正確に判断することは、医学的にも極めて困難です。肺炎は確かに高齢者の死因として多い疾患ですが、同時に適切な治療により回復する可能性も十分にあります。

高齢者医療の現実的な負担

高齢者の医療費負担の実態を見てみましょう。日本老年医学会の調査によれば、70歳以上の高齢者の誤嚥性肺炎による入院患者は毎日約2万人に上り、年間の入院費用は約4,450億円と推計されています。これは医科入院総額の3.1%に相当する膨大な金額です。

現在の制度では、75歳以上の後期高齢者は医療費の自己負担が原則1割(一定以上の所得者は2割または3割)となっています。仮に肺炎治療で1ヶ月入院した場合、現在の制度では月額の自己負担上限は多くの場合数万円程度に抑えられています。

しかし、参政党の提案が実現すれば、同じ治療が全額自己負担となり、場合によっては数十万円から100万円を超える負担が発生する可能性があります。

究極の選択を迫られる家族

この政策が実現した場合、高齢者の家族は極めて過酷な選択を迫られることになります。父親や母親が肺炎で入院した際、医師から「この治療は終末期医療に該当する可能性があります」と言われた時、家族はどのような判断をしなければならないでしょうか。

「治療を続けてもらいたいが、全額自己負担では経済的に困難」 「治療を諦めるしかないが、それで本当に良いのか」 「もしかしたら回復する可能性があるのに、お金の問題で治療を断念することになる」

こうした葛藤は、家族に深刻な精神的負担を与えるだけでなく、医療への信頼を根本から揺るがすことになります。

医療の公平性への深刻な打撃

医療は本来、経済的な格差に関係なく、すべての人が等しく受けられるべきサービスです。しかし、終末期医療の全額自己負担化は、経済力の有無によって受けられる医療の質に格差を生み出します。

裕福な家庭の高齢者は十分な治療を受けることができる一方で、経済的に困窮している家庭の高齢者は、回復の可能性があっても治療を諦めざるを得なくなります。これは明らかに憲法第25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」に反します。

医療現場の混乱と萎縮

この制度が導入されれば、医療現場でも深刻な混乱が生じることが予想されます。医師は治療方針を決定する際、医学的判断だけでなく、患者の経済状況を考慮しなければならなくなります。

「この治療は終末期医療に該当するか否か」の判断が、患者の生死を左右するだけでなく、経済的負担の有無を決定することになるため、医師の判断は極めて慎重にならざるを得ません。結果として、本来であれば積極的な治療を行うべきケースでも、消極的な治療方針を選択する「萎縮医療」が広がる可能性があります。

社会保障制度の根本的な意義

社会保障制度は、国民が相互に支え合い、個人では対応できないリスクに対して社会全体で対処するための仕組みです。高齢者の医療費増加は確かに社会全体の課題ですが、その解決策は費用を個人に転嫁することではなく、制度全体の効率化や予防医療の充実によって実現されるべきです。

終末期医療の全額自己負担化は、社会保障制度の根本的な理念に反するだけでなく、最も支援が必要な高齢者とその家族を社会から切り離すことになりかねません。

真の医療制度改革に向けて

医療費の増加は確かに深刻な問題ですが、その解決策は弱者に負担を押し付けることではありません。必要なのは、以下のような包括的な取り組みです:

  1. 予防医療の充実:高齢者の誤嚥性肺炎予防のための口腔ケア推進
  2. 在宅医療の拡充:不要な入院を減らすための在宅医療体制の整備
  3. 医療の効率化:重複検査の削減や医療機関間の連携強化
  4. 終末期医療の質の向上:患者の意思を尊重した医療提供体制の構築

結語

参政党の「終末期医療全額自己負担」発言は、医療制度の複雑さを理解していない、あまりにも短絡的な提案です。真の医療制度改革は、すべての国民が安心して医療を受けられる社会を目指すものでなければなりません。

高齢者とその家族が経済的な心配をすることなく、適切な医療を受けられる社会こそが、私たちが目指すべき姿ではないでしょうか。医療費の問題は重要ですが、それを理由に最も弱い立場にある人々を見捨てるような政策は、決して受け入れることはできません。


参考文献:


続・医療と法を考える -終末期医療ガイドライン (法学教室Library) – 樋口 範雄

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