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脳が壊れた(鈴木大介著、新潮社)は、41歳のルポライターが突然脳梗塞を発症。一命はとりとめたものの軽度の高次脳機能障害になった話

脳が壊れた(鈴木大介著、新潮社)は、41歳のルポライターが突然脳梗塞を発症。一命はとりとめたものの軽度の高次脳機能障害になった話

脳が壊れた(鈴木大介著、新潮社)は、41歳のルポライターが突然脳梗塞を発症。一命はとりとめたものの軽度の高次脳機能障害になった話が書かれています。とくに可視化しにくい軽度の症状は、周囲の理解も得にくいので理解と支援を求めるのが難しい。

『脳が壊れた』は、鈴木大介さんが新潮社から上梓した書籍です。

41歳という働き盛りだったルポライターが、突然脳梗塞を発症。

なんとか一命はとりとめたものの、軽度の高次脳機能障害が残った話が書かれています。

比較的わかりにくい障害であることを、障害者本人の立場から書いている点が特徴です。

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高次脳機能障害とはなんだ

そもそも、高次脳機能障害とは何か、ということから始めましょう。

脳は、交通事故等による脳挫傷などの外傷、脳卒中や一酸化酸素中毒などによる低酸素脳症などで、その機能を失ったり死滅させたりします。

その部位や喪失程度によって、脳障害が生じる。

脳死

もっとも深刻なのは、脳死、つまり生命そのものの死です。

かりに一命をとりとめたとしても、遷延性意識障害(いわゆる植物人間)になってしまう場合があります。

遷延性意識障害

遷延性意識障害の診断は、いくつかの基準がありますが、要するに、自分の意志で自分の体を動かせないということです

以下の6項目が3か月以上続いた場合を「遷延性意識障害」といいます。

自立移動ができない
自立摂食ができない
し尿失禁がある
声を出しても意味のある発語ができない
簡単な命令にはかろうじて応じることはできるが、意思疎通はほとんどできない
眼球は動いていても認識することはできない。

私の長男が遷延性意識障害だったことは、すでに書きました。


たんに手足や胴体だけでなく、たとえば追視といって、物体が動く方向に視線を動かすことができなかったり、嚥下といって、唾液を飲み込むことができなかったりと、基本的な動きができません。

重症な場合は、自力呼吸ができず、人工呼吸器が必要となります。

げんに、私の長男は、最初人工呼吸器をつけていて、それがとれるところまでを治療の目標にしましょう、と主治医から言われてがっかりしたことがあります。

「回復」して高次脳機能障害

それらよりも、より状態のいい障害、もしくは遷延性意識障害から「回復」した状態として、高次脳機能障害があります。

これが、本書の著者が陥った障害です。

脳内部では新皮質といわれる部分に、動物としてのヒトがもつ本能(低次脳)以外の、認識する、判断する、創造する、などをつかさどる部分があり、そこが損傷した障害です。

損傷するとどうなるのか。

高次脳機能障害は、運動や知的な障害、いうなれば周囲にもわかりやすい障害として出るだけでなく、その人自身は経験しても、対外的にはわかりにくい障害もあります。

たとえば、トイレで、手は届くのにトイレットペーパーが取れない。

服を着る能力はあっても上、着や下着を前後左右反対に着用する。

会話はできるのに感情の起伏が激しい。

記憶力、学習能力自体はあるが物忘れが激しい。

数字がたくさん並ぶ、高層ビルのエレベーターに乗れない(行きたい階の数字を選べない)

手の機能自体が失われているわけではないのに、わざわざ目的物から遠い方の手を使って物を取ろうとする

医学的に視野欠損は見られなくても、視野に入るものが正しく認知できない。

目は見えるのに、階段やエレベーターで一歩を踏み出すのが大変。などなど。

要するに、本人からすると、そうなってしまう何らかの理由(障害)はあるのに、周囲からすると不可解な障害としてあらわれるケースが多いのです。

つまり、障害が他の人に見えにくい(可視化しにくい)ということです。

こうした、記憶や集中力、考える力などの異常、言葉の障害などはみな、高次脳機能障害になります。

つまり、障害そのものが不都合なだけでなく、それが周囲に理解されにくいことも問題なのです。

高次脳機能障害は重度も可視化しにくい

さて、本書『脳が壊れた』は、脳梗塞になった41歳のルポライターが、見た目は「普通」の人と同じようにみえるほど回復したものの、外からはわかりにくい軽度の高次脳機能障害に悩まされるという体験談が書かれています。

脳梗塞は、脳の血管が詰まって血流が遮断されることで、脳細胞に酸素や栄養素が行き渡らずに死滅する病気です。脳梗塞の原因として、主に以下の2つが挙げられます。

  1. 血栓塞栓症
  2. 血管内に血栓ができて、血液が流れにくくなった状態で起こります。血栓ができる原因には、高血圧、高脂血症、糖尿病などがあります。

  3. 脳動脈狭窄症
  4. 脳を支える動脈が狭くなることで、血液が流れにくくなって起こります。この原因として、動脈硬化が挙げられます。

脳梗塞の症状は、急に片側の手足が動かなくなる、話せなくなる、半身が麻痺する、視力が急に失われる、めまいや頭痛、意識障害などです。

これらの症状が現れた場合、すぐに救急車を呼ぶことが大切です。

脳梗塞の治療には、血栓溶解療法や血管内治療が行われることがあります。また、予防のためには、生活習慣の改善(禁煙、適度な運動、バランスのとれた食生活など)、高血圧や糖尿病などの治療、抗血小板薬や抗凝固薬の投与などが行われます。

「血管内に血栓ができて、血液が流れにくくなった」ことで、脳の栄養や酸素が不足して脳細胞の壊死がおこります。

脳が死ねば、生命そのものが終わります。

つまり、脳梗塞そのものが命を脅かす疾病です。。

かりに生還できても、脳細胞の壊死によって脳障害の後遺症が残ることがあります。

寝たきり(遷延性意識障害)か、自力で動けても生活に支障をきたす障害が残る(高次脳機能障害)ケースが多い。

著者は、不幸中の幸いで、意識不明の状態から、その中でもっとも軽い軽度の高次脳機能障害にまで「回復」しました。

しかし、前述のように、高次脳障害特有の理解されにくい障害に悩んでいます。

本書によると、たとえば、トイレに入ると、個室に突然老紳士が出現したように見える。

これは、脳の右半分に障害を抱えているために、見え方に支障をきたしてそのように見えたものです。

といっても、「見え方」だから本人しかわからないし、もとより失明したわけではないから、周囲からすると、「なんで見えているのにちゃんと見えない」ということになってしまうんですね。

また、会話相手の目が見られなくなったり、感情が爆発して何を見ても号泣したりといった現象に、戸惑うとも書かれています。

本書に書かれている不可解な症状は、高次脳機能障害がわかりにくい障害であること、当事者がそれにいかに困惑しているかがリアルに描かれていると思います。

また、著者は、過去に取材した青年にも似たような症状があることを思い出し、発達障害ではなかったのだろうかと推理しています。

長男が高次脳機能障害である私から、ちょっとエラソーに言わせてもらうと、これは厳密に言うと著者の間違いです。

発達障害というのは、生まれながらの障害であり、高次脳機能障害のような中途障害と違い、その後のリハビリによる「回復」はむずかしい。

もっとも、小児の高次脳機能障害は発達障害、として見られますけどね。

それと、もうひとつ本書の問題点を書くと、高次脳機能障害にしろ、発達障害にしろ、軽度の人ほど、「中度、重度障害はわかりやすいが、軽度は可視化されにくいから大変だ」と書かれています。

これでは、あたかも、中度・重度と軽度は性質の異なる障害があるかのようです。

これも高次脳機能障害に対する誤解を生みかねない表現で私は賛成できかねます

すでに述べたように、そもそも高次脳機能障害とは、わかりにくい障害です。

そこに、軽度も中度も重度もありません。

というより、それも含めての重度なんです。

すなわち、軽度の人に現れる可視化しにくい障害に加えて、さらにあまりにも重いのではっきりわかる障害もあるのが中度・重度なのです。

もちろん、人によって障害の出方はさまざまなので、ある軽度の人に出て、別の重度の人に出ない障害もないとはいえませんが、おおむねそのような解釈で間違いないと思います。

この著者は、重度ではなかったから、軽度がすべてで、重度のことがわからないのでしょう。

障害者には、よくある話なんです。自分の障害以外、わからないし興味もないという。

もしくは、「軽度」だから「軽い」と思われてはたまらないという意識もあるかもしれません。

軽度・中度・重度というのは、あくまで高次脳機能障害における比較であり、障害それ自体が「軽い」わけでは決してない。

読者の方々は、くれぐれも誤解しないで欲しいですね。

『脳が壊れた』のまとめ

これまでの受傷記は、担当医や家族(親)の執筆が多く、本人の場合でも、自分からどう見えるからそのような動きになるのか、というところに踏み込んで詳細に綴ったものはないので、その点で『脳が壊れた』は価値のある書籍といえるでしょう。

高次脳機能障害が、可視化しにくい障害であることが読者に伝わってほしいと思います。

なお、高次脳機能障害については、比較的リアルに描かれている漫画を、このブログではご紹介したことがあります。

『消えた記憶』は、交通事故の後遺症で高次脳機能障害になった夫を妻が支え、夫は障碍を残しながらも新しい職場に社会復帰する話です。

『消えた記憶』は、交通事故の後遺症で高次脳機能障害になった夫を妻が支え、夫は障碍を残しながらも新しい職場に社会復帰する話
『消えた記憶』は、交通事故の後遺症で高次脳機能障害になった夫を妻が支え、夫は障碍を残しながらも新しい職場に社会復帰する話です。『難病が教えてくれたこと8~失われてゆく記憶~』(なかのゆみ著、笠倉出版社)に収載されています。

やさしい夫が横暴男に豹変した日~高次脳機能障害の悪夢~(宮城朗子著、ユサブル)は、中途障害の夫に悩む妻を描いた漫画です。

やさしい夫が横暴男に豹変した日~高次脳機能障害の悪夢~(宮城朗子著、ユサブル)は、中途障害の夫に悩む妻を描いた漫画
やさしい夫が横暴男に豹変した日~高次脳機能障害の悪夢~(宮城朗子著、ユサブル)は、中途障害の夫に悩む妻を描いた漫画です。ただ、高次脳機能障害で別人のようにキレやすくなった夫の描き方が、センセーショナリズムのそしりは免れないと思います。

こちらも併せてお読みいただけると幸甚です。

以上、脳が壊れた(鈴木大介著、新潮社)は、41歳のルポライターが突然脳梗塞を発症。一命はとりとめたものの軽度の高次脳機能障害になった話、でした。


脳が壊れた(新潮新書) – 鈴木 大介

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