『ロボトミー殺人事件』を読みました。実話をもとにした漫画です。ロボトミー手術の犠牲者が、担当医師の家族を殺害事件です。『殺人犯の正体』（鍋島雅治 (著), 岩田和久 (著)、大洋図書）という殺人事件9件をマンガにまとめた本の中に収録されています。
ロボトミー殺人事件も収録した『殺人犯の正体』
『殺人犯の正体』（鍋島雅治 (著), 岩田和久 (著)、大洋図書）という、実在した9件の事件について、事件の背景や犯人の生き様などに迫った漫画が話題です。
一家支配解体殺人事件、愛犬家連続殺人事件、池田小児童殺傷事件、ロボトミー殺人事件、尊属殺人事件、レッサーパンダ通り魔事件、宗教殺人事件、ホームレス襲撃事件、鬼熊事件などが収録されています。
その中の、ロボトミー殺人事件をご紹介します。
医学が人のために使われているのかを考えさせられる事件です。
ロボトミー殺人事件のあらすじ
国内であった有名なロボトミー殺人事件の「夕日を見たときに何も感じなかった」事が殺人のきっかけになったの、何度読んでもやるせない。 pic.twitter.com/IsornRFvgE
— いわぬが桜 (@iwanuga_sakura_) May 7, 2019
桜庭章司は母子家庭に育ったため、1945年に家計を助けようと旧制中学を中退して13歳で工場で働き始めます。
働きながらボクシングで体を鍛え、英語を独学で勉強。
努力の甲斐あって、なんと20歳で米空軍OSI（諜報機関）の通訳に採用されました。
ところが、1951年に病気の母親のため、せっかくの通訳を退職して長野県松本市に帰郷します。
しかも、英語力を生かせる職場はなく、それまでのキャリアとは無関係な土木作業員に。
桜庭章司は、正義感の強い真面目な青年である一方、ボクシングの腕前があることが災いします。
たとえば、手抜き工事の建設会社社長に我慢ならなくなり、殴って抗議。
社長からは、金を積まれて「収めてくれ」といわれた桜庭章司は、売れっ子作家になって母親に楽をさせたい思いから、生活の保証を当て込んでその金を受け取りますが、それは社長の罠で、彼は暴行と恐喝で逮捕されてしまいます。
もともと桜庭章司が金を収めることは目的ではなかったので、差し出した社長のだまし討ちです。
今も、ヤクザでもない人が突然恐喝で逮捕されるニュースがありますね。
もしかしたら、それもこのパターンかもしれません。
だから、数行の新聞報道で、憶測からあれこれ論評するのは軽率なのです。
それはともかくとして、桜庭章司はシャバに復帰後、英語力を生かしてスポーツライター（のさきがけ）として活躍します。
新聞社にアメリカプロレス事情の記事の間違いを指摘したところ、スポーツライターとして見込まれたのです。
サラリーマンの3～4倍稼いだ桜庭章司は、その半分を母親に仕送りしたそうです。
ところが、彼の人生は、またしても母親が原因で転落します。
仕送りしているにも関わらず、母親の面倒をみない妹夫婦と口論の挙げ句、器物破損で逮捕。
取り調べで素直に従わないからという理由で、精神病院に強制的に入院させられます。
そこでは、桜庭章司が話していると「心が安らぐ」きれいな娘の「患者」が、ある日頭部の手術をしてから様子が一変する光景を見ました。
脳の中の、感情や知性など思考を司る前頭葉の一部を切断するロボトミー手術を受けたからでした。
精神病院では、精神病と診断した患者にはその手術を行うことで、精神病者を管理する手段に使っていたのです。
しかし、ロボトミー手術というのは、いったん前頭葉の一部を切断すると、もう感情や知性などは2度ともとに戻らない不可逆的な処置です。
桜庭章司は、娘に手術をしたことを抗議しますが、そのことで、今度は自分がロボトミー手術の対象となってしまい、肝臓の検査といわれて睡眠薬をうたれ、前頭葉を切断されます。
またしてもだまし討ちです。
人権などないのです。
桜庭章司は、スポーツライターに復帰しても、以前のような仕事はできなくなっていました。
読み物は「活字のエンターテイメント」ですから、感情を奪われたらいい記事など書けません。
別の仕事も不運もあって長続きせず、人生に希望を見いだせなくなった桜庭章司。
ついに、ロボトミー手術を行った医師に復讐することで、ロボトミー手術の恐るべき実態を世間に知らせようと、医師の自宅に乗り込みます。
ところが、たまたまその日は本人不在だったため、計画の口止めの意味もあって医師の家族殺害に及びました。
判決は無期懲役。
動機と目的から、死刑か無罪かを求めていた桜庭章司は、「中途半端な判決」に失望。
改めて自分の人生の不運を呪いました。
優生保護法による強制不妊手術とともに、このロボトミー手術なる人権蹂躙手術について思うのは、科学や医学はいかなる価値に使われるかによって、人類にとっては明暗が分かれることがある、ということです。
もうひとつの人権無視被害、毒親
本書は、ラストでこう結んでいます。
ロボトミー手術は様々な問題があるとして、昭和50年、日本精神神経学界にて事実上禁止されたが……日本でこの手術を受けた患者の数は約12万人に上るといわれている
ひとつは、ロボトミー手術の非人権的行為を考えさせられる事件です。
医師殺害計画はもちろん、家族殺害にしても、前頭葉を切除されない正常な状態であれば考えなかったのではないでしょうか。
そして、もうひとつのキーワードは、毒親ということです。
桜庭章司という人の人生は、いつも母親が直接間接の原因で妨害をされています。
第三者的には、もっと自分のことを考えた人生は送れなかったのか、といいたいところですが、毒親というのはそういうものです。
子にとっては、どんな毒親でも親は親です。
ましてや、桜庭章司さんのような母子家庭で育った場合、母親を捨てきれないという気持ちはよくわかります。
全体を通して、気の短い人間性を感じますが、それも、毒親に振り回されて自由にならない人生に対するいらだちが、本人の自覚の有無はわかりませんが出ていたのかも知れません。
子が親にエネルギーを奪われる人生は、やはり望ましい生き方とは思えません。
誰だって自分の人生に対して、天分や努力を全面開花した夢も希望もあるはずです。
それが実現できなければ、悔しいと思う方が自然ではないでしょうか。
他人が差し出がましく物を言っても仕方ありませんが、いずれにしても、1度きりの人生は後悔のないように生きたいですね。
本書は、AmazonKindle読み放題などで読むことができます。
以上、『ロボトミー殺人事件』はロボトミー手術で前頭葉を切除された犠牲者が担当医師の家族を殺害した事件をもとにした漫画、でした。
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