吉田豪の喋る!!道場破り(白夜書房)は、プロレスラー15人に抗争の舞台裏、歴史的試合の真実、壮絶な生き様など聞いています。

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吉田豪の喋る!!道場破り(白夜書房)は、プロレスラー15人に抗争の舞台裏、歴史的試合の真実、壮絶な生き様など聞いています。

吉田豪の喋る!!道場破り(白夜書房)は、プロレスラー15人に抗争の舞台裏、歴史的試合の真実、壮絶な生き様など聞いています。中でも、アントニオ猪木対ビル・ロビンソン戦を「凡戦」と振り返った宮戸優光さんの話が印象に残ります。

『吉田豪の喋る!!道場破り』は、吉田豪さんが月刊誌『BUBKA』で連載したプロレスラー15人のインタビューをまとめ、白夜書房から上梓しています(2013/2/23)。

1980~1990年代の、プロレスもプロレス雑誌も一番アツかった頃に活躍したプロレスラーが登場しているので興味深い内容です。

表紙には、そのレスラーたちの顔写真が掲載されており、プロレスファンならすぐに買い求めて目を皿のようにして熟読したことでしょう。

新刊ではないのですが、その中で宮戸優光さんの話が印象に残ったので、今回は本書をご紹介します。

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「高橋本」にきちんと向き合わなかったプロレス関係者

本書『吉田豪の喋る!!道場破り プロレスラーガチンコインタビュー集』(白夜書房)は、タイトル通り吉田豪さんによるプロレスラーのインタビュー集です。

『BUBKA』という雑誌で、吉田豪さんがプロレスラーにインタビューしたページを連載し、それをまとめたものに、大幅に加筆した決定版です。

『吉田豪の喋る!!道場破り プロレスラーガチンコインタビュー集』に登場するプロレスラーは、天龍源一郎、武藤敬司、蝶野正洋、藤波辰爾、ドン荒川、藤原喜明、山崎一夫、船木誠勝、鈴木みのる、宮戸優光、鈴木健、菊田早苗、大仁田厚、ミスター・ポーゴ、マサ斎藤などです。(敬称略)

もちろん、プロレスファンの私としては、いずれも甲乙つけがたい面白さがありましが、中でも宮戸優光さんの話が印象に残ったので、今記事はそれを中心に書いてみます。

宮戸優光さん(みやと ゆうこう、1963年6月4日~)は、一般社会はもちろん、プロレスファンの世界でもそう通っている名ではないかもしれません。

1985年9月6日の第1次UWFでデビュー。

その後、業務提携として新日本プロレスのリングに上がりましたが、3年後の1988年に、第2次UWFの旗揚げに参加。

さらに分裂したUWFインターナショナルのリングに上がりますが、新日本プロレスとの提携路線に反発してUインターを退団。そのまま引退となりました。

私のイメージでは、UWFインターナショナル時代、全日本プロレスとビジネスでかかわりがあったとき、ジャイアント馬場さんや三沢光晴さんに失敬な口撃を行ったり、引退して仕事に困った往年の名レスラーであるピル・ロビンソンさんをコーチとして雇い、ジャイアント馬場戦を身勝手に振り返らせたり(馬場はレスリングができないが負けてやったというような内容)など、正直あまり良い印象がなかったのですが、本書のインタビューでは「なるほど」という感想をいだきました。

内容は、プロレス界を窮地に陥れたともいわれているミスター高橋さんの書籍について、アントニオ猪木対ビル・ロビンソンという、後々までファンから「名勝負」といわれている試合の記述を挙げて反証しているのです。

ミスター高橋さんは、ファンには今更説明の必要のない、元新日本プロレスのレフェリー、マッチメイカー(興行でシリーズのテーマに沿って試合の組み合わせを決める人)です。

2001年に、レフェリー当時に経験したプロレス界の実態を暴露する『流血の魔術 最強の演技 すべてのプロレスはショーである』(講談社)という書籍を出しました。

内容は、プロレスは勝敗や試合の流れをあらかじめ決めている(注、決まっている、ではない)ということと、それをめぐる当時のレスラーのエピソードが綴られていました。

同書によって、力道山時代からささやかれていた「プロレス八百長」説を裏付けるものとした一部の人からは、「プロレスの様な猿芝居に熱中する奴はアホだ」というような揶揄がネットなどでも公然と書きこまれるようになり、プロレスファンも意気消沈。

それが大きな原因で、プロレスが出口の見えない冬の時代に入ったなどと言われています。

プロレス八百長論者などはほうっておくとしても、プロレスファンが意気消沈したのは見過ごせません。

では、それに対してプロレス業界ではどう「対抗」したのか。

一部のレスラーや団体の社長、専門誌の元編集長などは、あろうことか同書に便乗して、「プロレスとはそういうもの」であることを前提に自分たちも二番煎じの暴露本を書いたり、一方では同書を肯定的にとらえるメディアを取材拒否する消極的な対応をとったりなど、いずれにしてもミスター高橋さんを「論破」することができずにいました。

それでは、プロレス業界はますます冷え込むだけです。

それに対して宮戸優光さんは、冷静に、ミスター高橋さんの暴露をやみくもに否定したり逃げたりせず、堂々と受け止めたうえで跳ね返す、「イエス・バット」で論破しました。

「高橋本」を猪木・ロビンソン戦で反証

宮戸優光さんの言い分は、まとめるとこのような内容です。

  • ミスター高橋は現場で裁いたこと経験として事実を話している
  • ただし、それはプロレスの3割~4割にしかあたらない
  • 残念ながら3割~4割をすべてとする見方や考え方がまかり通っている
  • プロレスは残りの6割が大切である

「ミスター高橋はしょせんレスラーではないからそれが見えない」というわけです。

反証例として、アントニオ猪木対ビル・ロビンソン戦をあげています。

アントニオ猪木対ビル・ロビンソン戦というのは、プロレスファンの中でも「名勝負」という人が少なくない試合です。


もっとも、それは当時の背景も理由にありました。

全日本プロレスが、オープン選手権・力道山十三回忌追善特別大試合と銘打った興行を開催。

「猪木さん、どーぞ参加してください」と門戸を開いたものの、新日本プロレスは同日、そのビル・ロビンソン戦が決まっていたので参戦しませんでした。

普段から「馬場、逃げずに戦え」「戦うならノーギャラでもいい」などとまでと言っていた力道山の弟子であるアントニオ猪木が、いくら理由があっても、参加しなかったことで、アントニオ猪木は口ばかりじゃないか、そして恩知らずではないか、という思いをファンに抱かせる全日本プロレス側の強烈な意趣返しでした。

そこで、アントニオ猪木ファンとしては、全日本プロレスの興行に参戦しなかったことを正当化するためにも、ビル・ロビンソン戦に必然性をもたせる。つまり、それだけ名勝負だったとしなければならなかったわけです。

ただ、そうしたファンの思いにかかわらず、名勝負とはいえなかった、と冷静に述べたのが宮戸優光さんです。

曰く……

ミスター高橋の本では“打ち合わせ通り”技の応酬による名勝負で引き分けになったと書かれているが、レスラーから見れば、あれはお互いが意地で技をカットし合ったプロレス的には全くの凡戦。
結末は同じ(引き分け)でも、その内容は悪い意味だが「芝居」になっていなかった。
ミスター高橋はしょせんレスラーではないからそれが見えない。

要するに、あの試合は、結果は打ち合わせ通りになっていても、経過についてはお互いが技を受けないという悪い意味で「ガチ」だった。

しかし、プロレス歴50年のミスター高橋をしても、「打ち合わせ」通りの試合にしか見えなかった。

つまり、宮戸優光さんは、「打ち合わせ」の有無認定自体に意味がなく、ましてやプロレスの(試合の)価値を決める決定打にはならないだろうという話をしているわけです。

これは、プロレス的には実に深い話なんですね。

大衆の勝負観には、真剣勝負は価値があり、「ショー」はくだらないとする向きがあります。

だから、ミスター高橋の「すべてのプロレスはショーである」という言葉に反応してしまう。

ではそう思っている人たちにつっこみたいのですが、ショービジネスにおける「真剣勝負」ってなんでしょうか。

プロレスの試合だって、キャリアの浅いグリーンボーイが、強そうなスターレスラーと戦ったとして、ゴング直後に急所攻撃の不意打ちをし、その勢いで相手に攻撃をさせず一方的に攻撃すれば「勝つ」ことはできるでしょう。

「勝つ」ことに意義があるのならそればそういうやり方は「あり」ですし、それだって立派な「真剣勝負」です。

しかし、そんな勝ち方は、そんな試合は、観客を入れる試合として価値があると思いますか。

それなら、お互いの力量に応じた双方の見せ場を予定して、そのうえで勝つべき人が勝つ、という「芝居」の方がよほど説得力があると思いませんか。

そういうのは「八百長」ではなく「予定調和」というべきでしょう。

……と、ここまではプロレスの話です。

私はここまで読んだとき、これは一般社会にも通じる真実が含まれているなあと膝を打ちました。

どういうことか。

斯界の実力者の話でも全てが正しいとは限らない

たとえ、斯界の実力者が事実を語った暴露本であっても、その世界のすべてを語っているわけではない、ということです。

ニュースやドキュメンタリーを含めたマスコミ報道であれ、ネットのブログや掲示板であれ、真実の一断面を見せているに過ぎない。

そして、どれだけその分野に詳しい人間であっても、自分が無謬万能だと思い上がってはならない。

これをきちんと理解している人なら、マスコミに踊らされることなく、懐疑や対抗言論をつねにもって情報に対峙できると私は思うのです。

……とまあ理屈っぽい話はともかくとして、本書は吉田豪さんの進行が絶妙です。

プロレス界の定説を覆す新証言など、レスラーの立場や個性を十二分に引き出した内容になっていますので、プロレスに関心のある方、あった方ならご一読をお勧めします。

以上、吉田豪の喋る!!道場破り(白夜書房)は、プロレスラー15人に抗争の舞台裏、歴史的試合の真実、壮絶な生き様など聞いています。でした。

吉田豪の喋る!!道場破り プロレスラーガチンコインタビュー集 - 吉田豪
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