「しがみつかない」人ほどうまくいく(西多昌規、PHP研究所)は、人からよく見られたい価値観に「しがみつかない」ことを提案。

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「しがみつかない」人ほどうまくいく(西多昌規、PHP研究所)は、人からよく見られたい価値観に「しがみつかない」ことを提案。

「しがみつかない」人ほどうまくいく(西多昌規、PHP研究所)は、人からよく見られたい価値観に「しがみつかない」ことを提案。程よく力を抜けば人生はもっと楽しくなると、精神科医が心の余裕を取り戻すための45のヒントを説いています。

『「しがみつかない」人ほどうまくいく』は、精神科医の西多昌規さんがPHP研究所から上梓した書籍です。

「理想の自分」「他人の評価」「完全主義」「人生のレール」「古い価値観」など、人からよく見られたいあまりに、自分を縛る価値観に「しがみつかない」ことを提案。

うつ病患者を診てきた著者の提案として、その方策も解説されています。

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反ポジティブシンキング宣言

本書が、「しがみつかない」ことを提案しているのは、具体的に次のことです。

読みながら、メモを取った「キーワード」をご紹介します。

いい人と思われたい

デキないと思われたくない、のは虚栄心のあらわれ、と著者は指摘します。

日本人の自己犠牲の美徳は、海外の、少なくともビジネス面では通用しない

自分の意見や感情や健康などを大切にする、したたかな「いい人」になれと提案しています。

だいたい、人なんて自分が一番ですから、「いい人」なんて言われたら気持ち悪いですね。

それは、与し易い人、(どうでも)いい人、という意味なのだと思ったほうがいいかもしれません。

ネガティブ思考は案外大事

私が、この本を最も評価する点がここです。

著者は、最近礼賛されている、いわゆるポジティブシンギングに批判的です。

「ポジティブシンキング」という言葉で検索をして、1番上に表示されるポジティブシンキングな人に共通する10のコトというページによると、「ポジティブシンキング」とは、次のように枚挙されています。

逆境を喜ぶ
与えて、与えて、与える
他人の力を借りれば不可能は無くなる
リスクを取る
自分の望みを相手にしてあげる
思い込みで行動しない
メンターを活用する
考える時間を設ける
相手の付加価値を見出す
前向きな姿勢で物事に取り組む時

なのだそうです。

本書の、ポジティブシンキングに対する批判を抜粋してみます。

  • ヘコんだ気持ちの切り替えは必要ですが、リスク対策を無視した考えは単なる責任放棄
  • 想定外のトラブルに柔軟に対応できるスキルは、「ネガティブ思考」から生まれる
  • ラフな楽天家よりも、きめ細かい心配症の人が、仕事で成功する素質を持っている
  • (ポジティブ思考は)なにか強引な白々しさを感じてしまいます
  • 日本は仏教文化が強い国、あるがままが似合う

全くそのとおりだと思います。

「強引な白々しさ」

思わず、膝をぽんとうちました。

ポジティブ・シンキング派の方は、この点だけでもぜひ本書をご覧になっていただければと思います。

ポジティブシンキングではなく前向きシンキングを

私が標榜しているのは、ポジティブシンキングではなく前向きシンキングです。

どう違うか。

私は、「ボジティブシンキング」志向の人と違い、逆境を喜びません。

これはチャンスなんだ、などと自分に無理に暗示はかけません。

なぜなら、それは結局、逆境である現実と向きあうことから逃げているからです。

現実は現実として受け止めるしかないのです。

でも私は、強い人間でも聡明でもないから、逆境と向かい合えば野村克也さんではないけれどボヤきます。

悩みます。

精神的に追い詰められると、判断を誤り迷走するかもしれません。

でもそれは仕方ないことなのです。

「ボジティブシンキング」に倣えば、悲しい時でも楽しいことを考え、もしくは楽しくなる可能性を期待しなければなりません。

しかし、「前向きシンキング」はその立場を取りません。

私は、面白くなければ素直にぶすくれます。

悲しい時は悲しめばいいのです。

悲しいのに無理に笑ってもその逆境は何も解決しません。

悲しい時に悲しみの感情をあらわすからこそ、自分がなぜ、どのくらい悲しいのかを認識できるのです

悲しいことを解決し2度と経験したくないと身にしみるのです。

それが、では次にどうすれば悲しくならないようにするかを考える契機ともなるのです。

現実にぶち当たったら、そうやって素直に受け止め、悩み、苦しみ、でも最後には、生きてる限り前に進まなければならないことに観念し、腹をくくります。

この心境こそが大切なのです。本当に骨の髄まで自分を納得させるものになるのです。その時に出る答えこそが最強なのです。

悲観や絶望と付き合う方法

ポジティブ思考でないのなら、絶望や悲観を経験したときどう向き合えばいいのか。

同書は4つの方策が書かれています。

1つ目は、絶望している、悲観的になっている自分を十分に感じる
2つ目は、人間は絶望の中にも光を見いだす習性がある
3つ目は、無理に諦めようとしない
4つ目は、自分にあった支えをもつ(友人、本の中の言葉、映画や音楽など)

要するに、とことん悲観、絶望すれば、いずれ前は見えてくる、というのです。

別の望みのために、いったん諦めるのは悪いことではない、といいます。

私は、2つ目の解説に書かれている、絶望で真っ暗闇だからこそ、微弱な一筋の光明も見逃さないのだという件はを「なるほど、うまいこというなあ」と思いました。

他人の意見はコロコロ変わる

どうせ他人はいい加減なんだから、そんなものの評価に振り回されるな、ということです。

必ずしも全面的に賛成というわけではないのですが、分析が面白いと思いました。

他人の意見はコロコロ変わる、だからあんまり期待するなよ、つまりコミュニケーションにしがみつくなよ、ということなんですが、コロコロ変わる人のタイプを3種類に分析しています。

  • 条件反射タイプ……咄嗟の思いつきを言う
  • 健忘症タイプ……自分の言ったことを忘れる
  • 優柔不断タイプ……他人の意見に左右される

この分析は面白いと思いました。

著者は、
「主張は一貫すべきだという価値観にしがみつかないこと」
「他人とは分かり合えない」を前提にすること

が大切だと言います。

これ、後者はそのとおりですが、「一貫すべきだという価値観にしがみつかない」というのはどうでしょうか。

そんなこと言ったら裁判や言論活動はもちろん、ひとと約束もできないじゃないですか。

私は、やはり他人との信頼関係というのは、唯一、いいかげんではいけない、しがみつくべきものだと思っています。

過失は「お互い様」でいいのですが、悪意の過ちをそれと同列にはできないでしょう。

本書はそのへんの線引と対策が曖昧な憾みがあります。

本書は、全体を通して今ひとつ踏み込みが甘いかなあと思えるところがあります。

書かれていることはそのとおりなんだけれども、それが実現しないから困っているわけで、しかもその実現は個人の心がけだけではなく、社会が変わらなければならない面もあるのですが、社会に対する提案が足りないように思います。

「社会の責任を考える」というのは、それだけ自分を責める「美徳」にしがみつかないことにつながるのですが。

いずれにしても、世の中は、とことん不条理でシビアです。

疑念と憤りと不可思議に満ちています。

ですから、本のタイトルのような『「しがみつかない」人ほどうまくいく』保証などどこにもありません。

ただ、しがみつくことに疑問を感じている人、世の中の通り一遍の道徳観や流行などと折り合いがつかずに悩んでいる人が読めば、「ああ、こういう見方、考え方をしている人も世の中にはいるんだな」と心丈夫になれる一冊だと思います。

『「しがみつかない」人ほどうまくいく』というのは、うつ病患者を診てきた著者のひとつの提案に過ぎません。

「理想の自分」「他人の評価」「完全主義」「人生のレール」「古い価値観」などにしがみつくな。

私個人は、著者の提案を基本的にはそのとおりだと思います。

ただ、人間の価値観は様々です。

中には、しがみつかなければ生きていけない人もいると思います。

だからといって、私は別にその人を軽蔑するつもりもないし、逆にその人が、しがみつかない人を見下すこともおかしいと思います。

そもそも、世の中、しがみつくぐらいの人もいなかったら成り立ちません。

みんながみんな、ユルい人生を送っていたら困っちゃうでしょう。

「真面目」な人も、ユルい人もいて、世の中は成り立つのです。

それ以外にも、本書には、迷惑をかけられることをお互い様と思えなど、ケース・バイ・ケースで「いちがいにいえない」ことも含まれているので、すべてを全面的にその通りというのはどうかな、と思うのですが、まあ真実というのは極論から生まれるという考え方もありますし、いずれにしても、同書の趣旨は、あまたある価値観の一つということだと思います。

以上、「しがみつかない」人ほどうまくいく(西多昌規、PHP研究所)は、人からよく見られたい価値観に「しがみつかない」ことを提案。でした。

「しがみつかない」人ほどうまくいく - 西多 昌規
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