豊田泰光108の遺言(豊田泰光著、ベースボールマガジン社)は、経験とセンスに基づいた視点と切れ味のある文体で野球愛を語る

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豊田泰光108の遺言(豊田泰光著、ベースボールマガジン社)は、経験とセンスに基づいた視点と切れ味のある文体で野球愛を語る

豊田泰光108の遺言(豊田泰光著、ベースボールマガジン社)は、経験とセンスに基づいた視点と切れ味のある文体で野球愛を語っています。ユニフォーム復帰の色気がなく、しがらみや打算のないがゆえの「辛口」評論には信用が置けました。

『豊田泰光108の遺言』は、2013年に豊田泰光さん(1935年2月12日~2016年8月14日)が、ベースボールマガジン社から上梓したものです。

豊田泰光さんは、元西鉄・産経・ヤクルトの遊撃手です。

当時の新人本塁打記録を打ち立てた名選手でしたが、コーチ・監督としてユニフォームを着ることには色気を示さず、辛口評論家として活躍してきました。

その集大成ともいえる一冊です。

中身に関しては、『週刊ベースボール』と『日経新聞』のコラムから抜粋した上で加筆修正をし、書下ろしを加えたとのことですが、上梓当時の2013年現在の内容になっています。

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「しゃべる危険球トリオ」


豊田泰光さんは現役引退後、1年だけ近鉄のコーチをつとめたほかは、辛口評論家としてテレビ・ラジオの解説、新聞・雑誌の寄稿を行ってきました。

私が最初に知ったのは、ニッポン放送の中継解説者を関根潤三さん(1926年12月25日~2020年4月9日)と交代でつとめていた頃なので、50年ぐらい前だと思います。

そのうちフジテレビで、『プロ野球ニュース』が始まって関東の試合のレギュラー解説に出演するようになり、ニッポン放送の解説と掛け持ちになりましたが、フジ・サンケイグループ“クーデター”のとばっちりで、敗れた鹿内前オーナー派と見られ、ニッポン放送を追われ、プロ野球ニュースにしか登場しなくなりました。

それが、1年後に文化放送で解説復帰。

フジテレビも数年後にようやく解説するようになって、江本孟紀さん、達川光男さんとともに、「しゃべる危険球トリオ」(命名、福井謙二アナ)なんて言われていました。

ただ、江本孟紀さんや達川光男さんと豊田泰光さんは、「危険」の中身が少し違っていたと思います。

江本孟紀さんや達川光男さんは、現役時代の裏話を暴露するという「危険」で、それも決定的な話はなかったので、達川光男さんなどはその後もダイエー、阪神、中日など数球団のユニフォームを着ています。

その点、豊田泰光さんはユニフォーム復帰の色気がなく、自由に評論をしている「危険」さがありました。

「危険球」のターゲットは、ファンでもなく選手でもなく、球団や球界に向けられていたわけです。

だから「辛口」にも信用が置けるのです。

ブラックジャーナリズムじゃないけれど、中には、またユニフォームを着たい、下心まんまんの批評というのもあるのです。

たとえば、あるチームをぶっ叩いていたかと思うと、首脳陣が代わりそうになったら急にそれをやめて、特定の選手に対して急に前向きなアトバイスをするとかね。

コーチとして雇ってもらいたくて。

豊田泰光さんには、そういう打算的な論陣がなかったのです。

そして、きちんと感情と道理を区別しています。

たとえば、野村克也さんには挨拶するのも嫌だが、野球人ノムさんは尊敬すると言っていました。

野村克也監督時代のヤクルトスワローズは、高い評価をしていましたし、最後の表舞台ともいえる西鉄ライオンズのユニフォームを着た楽天イーグルスの試合の始球式では、野村克也さんを捕手に指名しました。

そんな豊田泰光さんが、『週刊ベースボール』と『日経新聞』のコラムから抜粋して加筆修正したものと、一部書下ろしを加えて編集しなおしたのが『豊田泰光108の遺言』なのです。

現代の社会全般にかかわる思想性


構成は、見開きでひとつのテーマについて語られています。

108は煩悩の数か、ボールの縫い目の数か、まあ両方の意味なんでしょうね。

内容は、時には昔の自分の体験であったり、時には現在の野球界の実情を例に取ったりしながら、結論として自分の意見でまとめています。

野球の戦略や技術的な話ではなく、自分の哲学で野球界のあり方を述べたものです。

つまり、読む方からすれば、個人の生き方に重ねることができる話も多々含まれています。

私が付箋を付けたところの見出しや要約ですが、こんな感じです。

  • (チームのためではなく)誰かのためにやるとき、人は計り知れない力を発揮する(フォア・ザ・チームを押し付けても選手は力を発揮できないし、選手がインタビューでそれを強調するのもうそ臭い)
  • 野球で「つなぎ」は大事だが、プロ野球という屋台の一番前に並べるものではない(隠れたヒーローを見落とさないことは大切だが、表に出るヒーローとの違いは崩すべきではない)
  • 自分は泥酔しない限り靴を磨いて1日を終える。生活がうまくいかない時はルーティンの「句読点」を意識してみよう(生きていく上で生活をうまく切り替えることが大切)
  • 名人は何も残さない(技術は簡単に人に伝授できるものではない、押し付けで教えたがる今の指導者を批判?)
  • 「奇」と「奇」がぶつかってこそ面白いのに今は「凡」と「凡」
  • スピードガンじゃわからない体感速度が大事

これらのおおもとの問題点を一口で言えば、悪しき平準化と、数字そのもので判断する要素還元主義にあるのだろうと思います。

これはまさに現代の社会全般を覆っている問題ですね。

豊田泰光さんの話には、結果論の戦評ではなく、スケプティクス(懐疑、批判)な思想性を感じます。

もちろん、野球そのものの話も興味深いところはたくさんあります。

たとえば、「スピードガンじゃわからない体感速度が大事」なんて野球ファンなら面白いところだと思いますよ。

一昨日も、金田正一さんが例によって、「ワシは現役時代球速は180キロだった」とホラを吹いたことがニュースになってネットで炎上していましたが、数値だけで野球を見る風潮に対するいらだちもあったのではないでしょうか。

豊田泰光さんは、元中日ドラゴンズの山本昌徒手が、130キロで千葉ロッテの角中をどうして三振できたのかを、東映の“怪童”尾崎行雄がロッキングモーションで高校中退ですぐ活躍したり、杉浦忠(元南海)がベースを斜めに過ぎて逃げていく「角度の速さ」で勝負したりしたことなどを例にとって説明しています。

当時話題になりましたが、某球団オーナーが、ルールまで変えて野球をオリンピック競技に残そうとしている件に豊田泰光さんは反対しています。

五輪を通してしか、価値を見いだせないのはスポーツ文化の貧しさ。

欧州・アフリカ勢が割り込んでくるようにならなければ、と時間がかかっても正攻法で野球を理解してもらうことを強調しています。

全くそのとおりですね。

書生くさいという人もいるかもしれませんが、なんのしがらみもない野球人の話なのですから、純粋に道理を求めてもいいんじゃないでしょうか。

『豊田泰光108の遺言』。

2022年の現在出会っても、野球ファンにはぜひおすすめしたい一冊です。

以上、豊田泰光108の遺言(豊田泰光著、ベースボールマガジン社)は、経験とセンスに基づいた視点と切れ味のある文体で野球愛を語る、でした。

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