岸山真理子氏による『ケアマネジャーはらはら日記』(三五館シンシャ)は、47歳からケアマネジャーとして現在まで活動を続ける著者の奮闘記です。Kindle版でも読むことができる本書は、介護保険制度創設の2000年から現職として、介護の最前線で見てきた人々のリアルな姿を描いています。
タイトル通り「はらはら」する内容でありながら、著者の持ち前の優しさとひょうきんさが行間ににじみ、重苦しくならない読み物となっています。
毎日新聞の書評でも取り上げられ、「誰しもがささやかな生を紡いでいる描写に心が揺さぶられる」と評価されている通り、がん闘病しながら要支援2のサポートさえ受けずに自立した生活をする男性や、終戦後にロボトミー手術をされた娘と離れたがらず一緒の認知症棟に入所した高齢の母など、深刻な境遇にありながらも尊厳を持って生きる人々の姿が描かれています 毎日新聞。
読者レビューからは「介護のやりがいや市民目線の内容で勉強になった」「読み応えがあり、ケアマネの仕事の大変さや重要さがよくわかった」といった声が寄せられており、単なる体験談にとどまらず、介護制度の理解を深める教育的価値も持つ作品として評価されています。
ケアマネジャーという職業の全貌
ケアマネジャーとは何か
ケアマネジャー(正式名称:介護支援専門員)は、2000年の介護保険制度導入に伴い創設された都道府県知事の登録を受ける公的資格です。介護を必要とする高齢者やその家族に対し、適切な介護サービスを受けられるよう支援する専門職として位置づけられています。
その主な役割は、利用者の心身の状況や生活環境を把握し、個々のニーズに応じたケアプラン(介護サービス計画)を作成することにあります。単にサービスを手配するだけでなく、利用者の自立支援と生活の質の向上を目指し、継続的にモニタリングを行い、必要に応じてプランの見直しを実施します。医療機関、介護事業者、行政機関など多様な関係者との連携調整も重要な業務の一つです。
資格取得への険しい道のり
ケアマネジャーになるためには、厳格な受験資格をクリアしなければなりません。主なルートは以下の2つです:
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医療・保健・福祉系の国家資格ルート:介護福祉士、社会福祉士、精神保健福祉士、看護師、理学療法士、作業療法士、栄養士などの資格を取得後、該当業務に通算5年以上かつ900日以上従事する必要があります。
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相談援助業務ルート:介護保険法に定められた相談援助業務に一定期間従事することで受験資格を得ることができます。
無資格からケアマネジャーを目指す場合、「介護職員初任者研修→介護福祉士実務者研修→介護福祉士」の順序で資格を取得し、さらに5年間の実務経験を積む必要があるため、最短でも8年程度の期間を要します。
試験の合格率は例年10~30%程度と決して高くなく、合格後も実務研修の受講・修了が必要です。さらに、資格維持のために5年ごとの更新研修受講が義務づけられており、継続的な学習が求められる職業でもあります。
ケアマネジャーの苦労と挑戦
多岐にわたる業務負担
ケアマネジャーの仕事は想像以上に多岐にわたり、その負担は決して軽くありません。ケアプランの作成、モニタリング記録、サービス提供表など、作成すべき書類は膨大で、介護職員と比べてデスクワークの占める割合が高くなっています。特にケアプランは利用者の介護の基となる重要な書類であり、一つの間違いも許されない責任の重さがあります。
利用者の生活が文字通りケアマネジャーの作成したプランによって決まるため、その人の今後を左右するプレッシャーは相当なものです。クレーム処理や支援困難事例への対応も日常的な業務であり、時には家族間の複雑な問題や経済的困窮、虐待の疑いなど、深刻な課題に直面することもあります。
人間関係の複雑さ
ケアマネジャーは利用者・家族、医療機関、介護事業者、行政機関など、多様な立場の人々との調整役を担います。それぞれが異なる立場や利害を持つ中で、全員が納得できる解決策を見つけることは容易ではありません。
家族の意見が分かれる場合や、利用者本人の意向と家族の希望が対立する場合など、板挟みになる状況も少なくありません。また、サービス提供事業者との連携においても、質の問題やスケジュール調整など、様々な課題が生じます。
継続的な学習の必要性
介護保険制度は社会情勢の変化に応じて度々改正されるため、ケアマネジャーは常に最新の知識を習得し続ける必要があります。5年ごとの更新研修は数十時間に及び、ただでさえ多忙な日常業務と並行して受講しなければなりません。
医療的ケアの必要な利用者が増加する中、医療知識の習得も重要性を増しています。認知症ケア、終末期ケア、精神疾患への対応など、専門性の高い知識・技能が求められる場面も多くなっています。
困難を乗り越えるやりがいと意義
利用者・家族からの感謝
多くの困難がある一方で、ケアマネジャーという職業には他では得られない深いやりがいがあります。最も大きなのは、自分の作成したケアプランによって利用者の生活が安定し、健康状態が改善されることです。利用者本人や家族から「あなたで良かった」と感謝の言葉をかけられたとき、すべての苦労が報われる思いがします。
介護や福祉の知識がほとんどない利用者・家族にとって、ケアマネジャーは頼れる専門家です。適切な情報提供とアドバイスにより、不安を解消し、希望を持って生活できるよう支援することは、社会的に極めて重要な役割です。
社会に貢献する実感
高齢化が進む日本社会において、ケアマネジャーの存在意義は年々高まっています。地域の介護資源を適切にコーディネートし、限られたサービスを効果的に活用することで、社会保障制度の持続可能性にも貢献しています。
また、在宅での看取りを支援したり、詐欺被害を防いだり、虐待を発見・対応するなど、利用者の生命と尊厳を守る最前線で活動していることへの使命感も、この職業ならではのやりがいです。
『ケアマネジャーはらはら日記』が描く真実
岸山真理子氏の『ケアマネジャーはらはら日記』は、このような現実のケアマネジャーの日常を、美化することなく、しかし人間への深い愛情を込めて描いた貴重な記録です。68歳になった今も現役で活動を続ける著者の視点から見た介護の現場は、制度の課題や社会の矛盾を浮き彫りにしながらも、そこで懸命に生きる人々への敬意に満ちています。
本書を読むことで、介護を受ける人々の多様性と複雑さ、ケアマネジャーという職業の重要性と困難さを理解できるだけでなく、高齢社会を生きる私たち全員にとって他人事ではない現実を知ることができます。介護関係者はもちろん、将来の自分や家族の介護について考えたいすべての人に読んでいただきたい一冊です。
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