プア充ー高収入は、要らないー(島田裕巳著、早川書房)は、「お金がないからこそ幸せなんだ」と物欲の価値観を根底から見直す書籍

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プア充ー高収入は、要らないー(島田裕巳著、早川書房)は、「お金がないからこそ幸せなんだ」と物欲の価値観を根底から見直す書籍

プア充ー高収入は、要らないー(島田裕巳著、早川書房)は、「お金がないからこそ幸せなんだ」と、物欲の価値観を根底から見直す書籍です。人生は勝ち続けなくてはならないとの哲学で自らに鞭打つことに疲れたら、本書を手にとってみるといいかもしれません。

プア充とは、リア充とは正反対の概念を指す言葉です。

リア充とは、Wikiによると、「実社会における人間関係や趣味活動を楽しんでいること、またはそのような人を指す言葉。『リアルが充実している』が語源。」とあります。

一方、プア(poor)は、「貧しい」「苦手」「可愛そう」といった、ネガティブな表現です。

つまり、プア充とは、「貧しい」者、「可愛そう」に見える者の充実・充足という意味です。

ただ、「リア充」については、本来そのような意味だったのかもしれませんが、ネットでは少しニュアンスが違うように感じます。

FacebookやInstagramに、旅行の景色やごちそうの画像、仲間とのパーティーの光景などを投稿しているのは、心から「趣味活動を楽しんでいる」というより、見栄や外聞によるものであることのほうが大きいように思います。

実は生涯最初で最後になりそうな海外旅行を、さもその常連のように表現するような背伸びであったり、一応投稿の「華やかさ」の中で暮らしてはいるけれど、世間体でそれを維持しようと必死になっているただけで、それが本当に自分にとって幸せかどうかは本当のところわからない、という懐疑的な本心を感じることもあります。

何を言いたいのかというと、本書はリア充ではない人に向けただけではなく、表向きはリア充を標榜している人も読むべき書籍ではないかということです。

「仕事量に合わない、それなりの収入で不安だらけの毎日」と、
「高くはないが、安定した収入で希望あふれる未来」
あなたはどちらを選ぶ?

「リア充の世界」にとどまろうと必死になっている人に対しても、プア充になって豊かで幸せな生活を送りませんか?

というのが本書『プア充』(島田裕巳著、早川書房)の趣旨であると思います。

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著者と教え子の会話で「プア充」を説明

本書は、高収入を求めないからこそ得られる、豊かで幸せな毎日を「プア充」と島田裕巳さんは名付けました。

「お金がなくてもやっていこう」という目先の倹約ややりくり指南ではなくて、もっと踏み込んで「お金がないからこそ幸せなんだ」と、生きていくための哲学を根底から見直そうというのが本書の特徴です。

本書が上梓されたのが2013年。

今でこそ、ミニマリストという言葉がポピュラリティを得ており、

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「持たざるもの」としての生き方や価値観が評価されつつありますが、すでに今から9年前に、本書はそれを唱えていたわけです。

本書は、「先生」と教え子の「西野」の会話を中心にした小説仕立てで「プア充」について語っています。

「先生」の教え子の「西野」が、上昇志向の強いベンチャー企業で心身をすり減らしながら働いていたのに倒産。

「西野」は、「先生」から「プア充」の生き方を教わります。

そして、これまでとは異なる価値観で新しい就職先と結婚相手を見つけ、心の余裕を持てる人生を過ごすようになります。

さらに、最終章で、実は「先生」は島田裕巳さんだった、という“サプライズ”で終わります。

島田裕巳さんは、かつてオウム真理教が話題になっていた頃、旬な文化人(宗教学者)としてメディアにひっぱりだこでした。

が、オウム真理教の犯罪が明らかになったとき、その批判よりも宗教団体としての幻想を表明し続けたため批判を受け、とうとう職(大学教授)も失ってしまいました。

仕事を失ってお金はなくなったが、時間を得られて自分を取り戻したと本書には書かれています。

そこで、「お金のある生活」の虚しさとこわさ、「お金のない生活」から得られた“悟り”があったのは事実なのでしょう。

これが「プア充」だ!

本書は、読んでほしい「ターゲット」として、次の人を挙げています。

  1. 誰かと年収を比べて勝っていると、なんとなく安心する人
  2. 「お金は、いくらあっても困ることはない」と思っている人
  3. 恋人はいるけど、貯金がないから結婚できない人
  4. ブラック企業で働いている人
  5. 仕事のストレスで、肉体的・精神的にきつい人
  6. ローンを組んで、家や車を買おうとしている人
  7. 今の日本、今の働き方、今の生き方に疑問を持っている人

あなたは、あてはまりますか。

本書に書かれている「プア充」のまとめから、おもなものを抜粋します。

  • 稼げば稼ぐほど、お金への不安や欲望や執着は増す
  • 収入が増えれば欲しいものも増える。いつまでも貯金はできず、満足できることはない

  • 国や企業の『成長使命』に、個人がふりまわされる必要はない
  • 『成長しなければいけない』『稼がないといけない』という思想は、現代社会が作りだしている幻想である

  • 収入が増えればその分、支出も増える
  • 収入は費やした労働と時間の対価。過度に費やすと、補うための無駄な支出が増える。また、車や持家、保険などの高額商品の誘惑が増える

  • 『生きやすさ』は数字では測れない。今の日本は、お金がなくても生きていける社会
  • 日本社会は世界一安全で安心な社会。社会の恩恵をうまく利用すれば、ほとんどお金を使わなくても生きていくことができる

  • お金を持つと危険が寄ってくる
  • 心が汚れて悪いことをしたり、お金目当てに人が寄って来たりする

  • プア充を支えるのは、人間関係と緑
  • 人間関係の中で生きれば、お金はあまり必要ない。自分のお金を稼ぐことに夢中になると、人間関係を築く時間がなくなり、その先にあるのは孤独である

  • 人生を設計し、つじっまの合わない転職をしない
  • 自分の生活や将来をきちんと計画して行動すべき。普遍性が高い職種に就き、キャリアと経験を積めば、仕事には困らない

  • 『待つ』ことが心に効く
  • たまにだからこそ、喜びや楽しみは倍増する。禁欲の解放は何倍もの喜びをもたらす。楽しいと感じることのできる心を養う必要がある

  • 『少欲知足』。限られた資金の中で、自前で楽しむ
  • 欲を持ちすぎず、現在の状態に満足する。三つのポイント『外食をしない』『規則正しい生活をする』『ストレスをためない』

  • 孤独死は怖くない
  • 言葉の負のイメージが先行しすぎている。孤独死への不安とは、そのような状況になりうる環境に対する不安にすぎない

  • 『人に迷惑をかけるな』幻想
  • 『人に迷惑をかけるな』というのは、豊かになって人が孤立し始めた現代の妄想。お互いに迷惑をかけ合ってこそ、人間関係が育まれる

  • 恩で成り立つ人間関係は、その先もずっと続く
  • 借りた人は感謝をし、貸した人はずっと面倒を見る。お互いに良い人間関係がずっと続く。それこそが財産

といったことが書かれています。

いかが思われますか。

「プア」の現実をもう少し知ってくれたら……

これらのうち、自分一人で完結する項目は、島田裕巳さんに言われなくても私はもう実践しています。

もともとお金がない人は、「プア充」も何も、そうせざるを得ないのです。

たとえば、世界各国を旅行して、土地土地の豪華な料理を見せてくれる贅沢三昧。

そういうブログがあったとして、それはそれで一般的な価値はあると思いますが、私のような「プア充」的生き方をしている者からすると、申し訳ないけど、お金がかかっている割にはあまりピンときません。

そんな金があるのなら、ラーメンライスでも食べて、浮いたお金で、素敵な芝居や映画を見たり、ためになる本を読んだりしたほうが、私にはよほど豊かな生活だからです。

逆に言うと、そんなことををわざわざ挙げているということは、失礼ながら島田裕巳さんは、「プア」層についての認識が足りないのかな、というように思いました。

Amazonのレビューにも、同様のものがあります。

主人公はもともと年収450万円のノルマの厳しい会社で働いていたが、年収350万円の「古くてダサい会社」に転職する。
作者は年収300万円程度でも安定した仕事ならいくらでもあると言うが、そういう認識なら相当甘い。

今まで外食をしていたのを自炊にしただけで心の豊かさが得られたというくだりを読んだところで、バカらしくなって本を投げたくなった。

ワシは、自炊なんてとっくの昔にしとるわい。
ワーキングプアは自炊の食材すら買えないんじゃい。
と言いたくなった。

現実を知らない王子様が描いたファンタジーだと思った。

本書は、森永卓郎さんのように「年収300万円」説を唱えていますが、これがまず疑問です。

この中身は、車を持つなとか、外食はするなとか、「見かけの贅沢」を否定した計算をしています。

こういうのを机上の空論というのです。

住む所や家族の事情で、車を持つことが贅沢とは限らない場合もありますし、コストだけを見れば、外食というか中食のほうが安上がりなこともあります。

「贅沢」の基準を紋切り型に決めつけている時点で、この書籍が生活感に乏しい、レビューにあるような絵空事の指南に見えてしまうのです。

島田裕巳さんの話は要するに、現代人は豊かだから持てるものの悩みがある、少し生活を落としてみろよ、という話なのですが、実は多くの庶民は「落とし」た生活で悲鳴をあげていることを理解していないように思います。

それから、「お互いに迷惑をかけ合ってこそ、人間関係が育まれる」。

ほんとに、これが通用したら楽ですけどね。

そこまで社会も人間も成熟してませんよね。現実は。

人間はいろいろな人がいますから、信頼関係を前提とした理屈が通用する人ばかりではありません。

「迷惑をかけない」というのは、多様な人間がいる中で、とにかく落ち度を作って文句を言われないようにする(信頼される)ため、守るべき社会人としての基本となる責任だと私は思っています

それを「妄想」呼ばわりするような生き方をしていたら、迷惑をかけた者勝ちの、それこそ他人のことを考えない嫌な世の中になってしまうでしょう。

理解できるところもあります。

たとえば、「孤独死は怖くない」などは大賛成です。

看取られて死に、大勢の人に見送らせる葬式をする人の気がしれません。

たくさんの人が参列したら亡くなった人は生き返るのでしょうか。

しょせん、人間なんて生まれるときも死ぬときもひとりなのです。

つまらない未練など残さないように、財産など持たず、ゼロで生まれたらゼロで生涯を終わればいいのです。

もちろん、家族のいる人は残された妻子の生活もありますが、要するに死ぬときを飾ることに価値を感じないという意味です。

ただ、それは価値観の問題なので、それに賛成できない人もいるかも知れませんね。

そういう意味では、本書は、みんなで様々な意見をもちよって議論できるテーマなのだと思います。

ともあれ、「持たざるもの」としての生き方を考えるよすがとするために、本書をお勧めします。

こ、島田裕巳さんの著書については、以前に『脱しきたりのススメ』(毎日新聞社)をご紹介したことがあります。

『脱しきたりのススメ』(島田裕巳著、毎日新聞社)は、結婚式や葬式などの起源や諸外国との比較、読者の幸福への啓蒙などを綴る
『脱しきたりのススメ』(島田裕巳著、毎日新聞社)は、結婚式や葬式などの起源や諸外国との比較、読者の幸福への啓蒙などを綴っています。「しきたり」は人間関係が複雑に絡むものなので、振り回されずに自身の幸福につなげようという意味のようです。

そちらもあわせてお読みいただければ幸甚です。

以上、プア充ー高収入は、要らないー(島田裕巳著、早川書房)は、「お金がないからこそ幸せなんだ」と物欲の価値観を根底から見直す書籍、でした。

プア充―高収入は、要らない― - 島田裕巳
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