『悪口のすゝめ』(村松友視著、日本経済新聞出版社)は、配偶者に向けたウィットに富む腹蔵なき「悪口」で愛の証しを表現

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『悪口のすゝめ』(村松友視著、日本経済新聞出版社)は、配偶者に向けたウィットに富む腹蔵なき「悪口」で愛の証しを表現

『悪口のすゝめ』(村松友視著、日本経済新聞出版社)は、配偶者に向けたウィットに富む腹蔵なき「悪口」で愛の証しを表現と唱える書籍です。SNSのような何のひねりもない罵詈雑言とは対象的な、昭和テイストの「悪口」が夫婦や親子の絆を感じさせます。

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本書の内容

新刊ではありませんが、『悪口のすゝめ』(村松友視著、日本経済新聞出版社)という書籍について、検索するとレビューするブログをいくつか見かけました。

特に我が国では、悪口は戒めるべきものとする場合が多いので、この“逆張り”タイトルが気になりました。

そんな挑発的なタイトルで、いったい村松友視さんはどうまとめているのだろう。

そんな興味がわきました。

読んでみてまずわかったこと。本書『悪口のすゝめ』がいう「悪口」とは、よその人に対するものではありませんでした。

では何か。

配偶者にむけた「悪口」です。

静岡県島田市の市民団体「まちづくり島田」が主催する「愛するあなたへの悪口コンテスト」という催しがあり、その審査委員長をつとめてきた村松友視さんが、過去8年間の入賞作品を紹介し、解説したものです。

「悪口」という言葉にこだわりをもった著者

ちょっと古いですが、『カミさんの悪口』(TBS系、1993年)というドラマがありました。

好き勝手に田村正和、篠ひろ子夫婦が夫婦喧嘩の長セリフを延々と続ける、私には名作とは思えない作品でしたが、当時はそこそこ話題になったようです。

そのタイトルのもとになったのが、村松友視氏が新聞に連載していた同名の小説でした。

当時、新聞の原作には、「悪口」をタイトルとすることはけしからんという読者の投書がずいぶんあったそうです。

しかし、それはタイトルへのクレームを口実にした、実は作品そのものへの不満だったのだろうと村松友視氏は解釈。

以来、「悪口」という言葉にこだわりをもったようです。

「毒」や「謎」が必要

入賞したいくつかの作品と、村松友視氏の解説を抜粋します。

まずは第1回大賞。

冷たくなった あなたの心
寝てる間に 取り出して
そーっとレンジで チンしたい

村松友視さんはこの作品で、このコンテストの「洋々たる未来を確信した」といいます。

それにしてもこの作品は、“悪口”の皮の内側に“愛”という餡をくるんだ見事な出来栄えだ。過剰とも思えるこの愛のかたちの底からは、夫の心より冷たいかもしれぬユーモアまで浮かび上ってきて、夫婦のありようの何とも切ない、切羽つまった緊迫感とおかしさがあふれている。このあたりが、サラリーマン川柳とはいささか味のちがう、人生の機微に喰い込んでいる感触なのだ。

次には第2回大賞。

私の夢のサスペンス
あなたは何度も死んでいる

“おっ”とびっくりする表現ですが……

もし、「あなた」が「夫」となっていたら、このひとくだりはあきらかに暗い色に染まってしまう。「私の夢のサスペンス 夫は何度も死んでいる」、これは暗いし、やや本気めいてくる。「あなた」を用いたところから、夫への距離の近かさが伝わってくるのであって、「夫」でなく「あなた」としたゆえの大賞受賞ということになる。
 さてしかし、この作品のどこにク愛″があるのだろう……そのような疑問のアングルはもっともだ。その疑問に対してはこうお答えしておこう。すなわち、殺すのは夢の中ばかりで、現実に殺そうと考えているわけではないからです……と。

ということです。

大賞になるだけあって、なるほど切れ味のある作品ですね。

ただ、私としては、あくまで文学作品だから許せるのであって、実際に配偶者を想定したものというのなら、こんなこと、冗談であっても、思うのも思われるのも嫌だなあと思いましたけどね。

夫婦だからなんでも悪口を言えるんじゃないかという意見もありますが、レンジでチンするほど心が冷えているだの、何度も殺したいだのなんて、決して穏やかな表現ではありません。

こちらが軽い気持ちでも少なくとも聞く方はどう受け止めるのかな、なんて思います。

夫婦なんて所詮他人なんだし。

心の中まではわかりません。

そんな表現をしたくなるほど追いつめられる前に、不満があったら直球勝負でその都度話し合えよ、なんて思いますけど。

いずれにしても、やっぱりこれは文学賞なんですね。

うまい、まとまっている、だけではだめで、「毒」や「謎」がなければならないということです。

日常と非日常の紙一重の部分を表現するのが文学作品なんでしょうね。

こういう村松友視さんの評価を見ると、私は作家にはなれないなと思います。

どこかで人間の良識とか常識をはずした視点や表現方法を持たないと、突き抜けた作品はうまれませんからね。

相当高度で勇気のある「遊び」

以下、大賞作です。

第1回、2回に比べると「毒」が足りないかな、という気がしますが、どちらかというとこのくらいのほうが私向きです(笑)

(第3回)
寝言では
かなりの亭主関白らしい

(第4回)
無駄だとは
言わぬ美容師
言う鏡

(第5回)
あなたって
便座みたいにあったかい

(第6回)
ついに
鏡うつりが悪いと
言い出した

(第7回)
帰国して
「変わりはないか」
と猫に聞く

(第8回)
なぜ海へ行くかって
そこに女房がいないからさ

本書のコピーは、「女は度胸、男は愛嬌。悪口こそ、愛の証し。腹蔵なき悪口で、鬱の時代に風穴をあけろ!ユーモアと諧謔とエスプリ、恥じらいとはにかみと自分遊び」と書かれています。

が、対配偶者だからこそ言葉選びが難しいのです。

相当高度で勇気のある「遊び」と私は思いました。

以上、『悪口のすゝめ』(村松友視著、日本経済新聞出版社)は、配偶者に向けたウィットに富む腹蔵なき「悪口」で愛の証しを表現、でした。

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