『平成の芸能裁判大全』(鹿砦社)は芸能人の裁判記録だけでなく和解や判決まで追跡し出版関係者のインタビューも掲載

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『平成の芸能裁判大全』(鹿砦社)は芸能人の裁判記録だけでなく和解や判決まで追跡し出版関係者のインタビューも掲載

『平成の芸能裁判大全』(鹿砦社)は市井文化社(編プロ、東京)が版元の依頼を受けてまとめた著書です。芸能人の裁判記録ですが、提訴したことだけでなく可能な限り和解や判決に至るまでを追跡して解説。出版関係者のロングインタビューも掲載しています。

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『平成の芸能裁判大全』とはなんだ

市井文化社(編プロ、東京)は、2003年春頃まではパソコン関連の書籍・ムック・雑誌を中心に制作してきましたが、それ以降は他分野の編集制作を請け負う機会が増えてきました。

そのきっかけとなったのが、『平成の芸能裁判大全』(鹿砦社)です。

出版社の宣伝コピーを引用します。

平成の芸能裁判大全
『平成の芸能裁判大全』
芸能裁判研究班[編著]
A5判/200頁/並製
定価1575円
鹿砦社刊
なぜか軽んじられる芸能裁判??本書は平成に入ってからの主な芸能裁判と採り上げ、詳細に解説を加えた初の試み。A級の史料的価値!! 岡留安則『噂の真相』編集長、文藝春秋法務部、日弁連「人権と報道に関する調査研究委員会」へのインタビュー収録。大衆ジャーナリズムの反映としての芸能裁判の持つ意味を究明!!

具体的に目次もご紹介しましょう。

目次

【本書の内容】
■第一章
人権(名誉棄損、肖像権など)
ジャニーズ事務所/デヴィ夫人/稲垣吾郎/花田勝/川崎麻世/大原麗子/藤田憲子/尾崎豊夫人/芳村真理/野村沙知代/和泉元彌/貴乃花親方

■第二章
金銭トラブル
ライジングプロダクション/野村沙知代/織田無道/佐久間良子/石川さゆり/島田楊子/泉ピン子/美川憲一/大西結花/松方弘樹/坂田利夫

■第三章
薬物事件
江木俊夫/槇原敬之/いしだ壱成/中島らも  ほか

■第四章
再犯・再々犯
克美しげる/豊川誕/田代まさし/翔(元横浜銀蝿)/西川隆宏(元ドリームス・カム・トルゥー)/藤井モウ(元大川興業)/岡崎聡子

■第五章
その他
梅宮辰夫/加勢大周/沢田亜矢子・松野行秀/鈴木亜美/千堂あきほ/萩原聖人/横山ノック/飯島直子/久保純子/清水国明/清水ひとみ/鈴木保奈美/せんだ光雄/そのまんま東/名高達男/原仁美/坂東玉三郎/堀ちえみ/松田聖子/奈美悦子

■第六章
表現の自由と人権について インタビュー
眞田範行(日弁連「人権と報道に関する調査研究委員会」委員)
岡留安則(『噂の真相』編集長)
文藝春秋社長室 法務・広報部

本書は当然、裁判所で裁判記録を閲覧してまとめています。

裁判の記録というのは、事件の経緯と言い分が書かれています。

文芸書ではありませんから、出来事の経緯が淡々と書かれているだけですが、やりとりは細かい台詞まで書かれていて読んでいると面白い。週刊誌の記事なんか読む気しなくなります。

ただし、こうした書籍を上梓するのは、2020年現在ではもう難しいのではないかと思います。

『平成の芸能裁判大全』を執筆していた当時は、裁判所で裁判記録を閲覧して転記することが比較的簡単だったのですが、この直後からそれがしにくくなってしまったのです。

やはり、個人情報を守るためでしょう。

たとえ、事実として存在するトラブルも、年数が経ってから暴くと「名誉毀損」に問われるケースもあります。

ただ、たとえば克美しげるのような重罪の場合、それに触れないことのほうが不自然ですし、Wikipediaには事細かに過去の行状や言動の事実が書かれますから、いつまでならどこまで書いていいかは明確な線引はむずかしいでしょう。

ただ、いずれにしても、裁判記録ををまるごと転記できるような時代ではなくなってしまったということです。

その場合、関係者に取材をかけることもなくはないのですが、その経緯はニュースや新聞、週刊誌の記事から知るため、結局孫引き記事になってしまいます。

文章の孫引きは「劣化コピー」にならざるを得ないのです。

ですから、読み物としての完成度と資料的価値を兼ね備えた書籍を作り上げることは難しいでしょう。

読み応えあるロングインタビュー

本書は、個々の事件事件の解説とともに、第六章のロングインタビューは読み応えがあると思います。

文藝春秋社の法務部の方を、初めて表舞台に引っ張り出してきて、ジャニー喜多川のホモセクハラ裁判や、その他のタブーを破った記事づくりと名誉毀損裁判に対する考えを話していただきました。

日弁連「人権と報道に関する調査研究委員会」委員の眞田範行弁護士にもお話を伺っています。

そして、スキャンダリズム雑誌として一斉を風靡した『噂の真相』の岡留安則発行人兼編集人もまた、他社の媒体としては異例のロングインタビューです。

週刊文春とジャニーズ裁判について

本書のクライマックスは、文藝春秋社法務部・藤原一志さんと、弊社みおなおみによるインタビュー記事です。

週刊文春、文春砲の法的責任者を引っ張り出したわけです。

ジャニーズ事務所ジャニー喜多川ホモセクハラ裁判についての経緯を一部引用します。

裁判は、ジャニー喜多川さんのホモセクハラを記事にした文藝春秋社が勝訴したのですが、一審では負けたり、勝訴してもジャニーズ事務所に忖度して敗訴のように書いた他社の話が出ています。

ージャニーズ裁判について伺いたいのですが、ジャニーズスキャンダルはどこもタブーなのに、あえてキャンペーンを張ったのはなぜでしょう。

「やはり少年たちの人権の問題だからです。それも一二~三歳から一四~五歳くらいですからね、ジャニーズジュニアというのは。これがみんな等しく同じ悲鳴を上げているわけで、それを取材の途中で聞き込んだ。相手が誰であろうとも、おかしいことに関しては、白日の下にして世間に問わなくてはいかんだろうと。それは雑誌ジャーナリズムの常じゃないでしょうか。そういったところからスターしています。それでさらに取材してみたら、なんだキミもか、キミもか、ということになって、これは一回だけの記事じゃすまないぞ、キャンペーン張らなくちゃいかんと。
 うちはよく『タブーに挑戦』シリーズをやるんですよ。たとえば昭和五十年代だと、大手芸能プロにはナベプロ(渡辺プロダクション)がありました。日本で最大の、今でいうジャニーズ事務所みたいなところですよ。あそこの問題もやりました。あとは電通。日本最大の広告会社のタブーに踏み込んだ。
創価学会に対するタブーもやりましたし、当時の最高権力者・田中角栄の人脈と金脈にもメスを入れた。これは週刊誌でなくて月刊誌でしたが、それで田中政権は失脚したわけです。私どもはそういういろいろなタブーに挑戦してきたという歴史があるんですね。そういう意識を指して、世間の方々からは『文春ジャーナリズム』とおっしゃっていただいている」

ーそういう流れでジャニーズのキャンペーンも行ったと。

「まあ意図的というよりは、社内にいると、だんだんそういう『文春イズム』みたいなものがいつとはなしに培われていくんでしょう」

ージャニーズキャンペーンの記事については、編集部で事前に弁護士にゲラを見せるなど、最初から裁判を想定していたときいていますが、実際にそうなんでしょうか。

「週刊文春編集サイドの具体的な状況を把握しているわけではありませんが、間違いなくそれくらい慎重な手順は踏んでいます」

ー証人として出廷を要請されると思われる少年たちの抱き込みといいますか、ジャニーズ事務所側からの口封じがあったという報道もありますが、本当でしょうか。

「それは検証しょうがないですなあ。取材した少年は全部で一二人いるわけですか、お願いして証言台に立ってくれた二人のほかにも声は掛けています。ただ、このうちの数名は、編集部員によれば、圧力が掛かっているようだったとは聞いています。ただ、実際にどんな圧力が掛かったのかまでは私どもではわかりませんね」

ー裁判では証人が二人立ちましたが、その証言内容の真実性に疑わしい点があるということで八八〇万円の判決が出たわけですよね。それがひっくり返ったということは、控訴審では別に新しい証人を立てたんですか?

「いえ、同じです。少年たちの証言内容は、証人尋問の調書に全部書かれているわけですが、高裁ではその真実性を重視してくれました。私どもは、自分たちがこんなに一生懸命証言したのになんでわかってくれないんだという二人の少年からの陳述書を、補足的に高裁に提出しました。あとは、私どもが負けたという報道でいろいろな電話がありまして、その中には 『実は私も昔ジャニーズジュニアにいて、こういうことをされた』という内容のものもありました。そのテープの反訳も裁判所に出しています」

ー今、情報源の秘匿が許されなくなって、どこの誰が話したのかを明らかにしないと発言の真実性が証明できないと間きましたが。

「原則として証人は知っていることを正直に話さなければならないわけで、取材記者が誓するときも、取材源を明かせと言われます。ですが、われわれ、ジャーナリズムのルールとしてそれはできません。こっちは証言を拒否するわけです。取材源の秘匿だとして。そうすると裁判所は当然快く思わないですね」

ーそうしますと、この証人は出せませんとなると、この部分の記述は真実性がないと見られてしまう。

「それはしょうがない」

ーキャンペーンの記事の中にもそういう部分があったわけですよね。

「ただ、本来原則的には匿名コメントは信用できないと片付けられても仕方がないんですが、このジャニーズ告発キャンペーンの中のたくさんの匿名コメントはその内容がほぼ一致していた、よって信ずるに足る、というのが裁判所の判断なんですよ」

ーたくさんの匿名コメントの内容が似通っていて、そのうちの二人に実際に話を問いたらそうだったと。

「ええ。ですから、匿名コメントであっても真実相当性があると。名誉毀損の阻却事由というのがあるんですよ。地位・名誉を低下させてはいるけれど、ある前提があれば不法行為とはならないという。まず大前提となるのは公共性、公益性。この二つが充足されていて、あとは真実証明。ここにもうひとつ、真実相当性が加わる」

ー真実相当性ですか。

「真実と信じたのには、それなりの相当なる理由がある。あの人もこう言っている、この人も言っている。だから編集部がそうと信じたのは当然だということです。
 そういうときには、この記述は名誉毀損にあたるけれど、不法行為にはあたらないよと。どの名誉毀損訴訟であってもこの方程式はかならず使われる。一二人のうちの一〇人以上が同じょうな証言をしているんだから、『週刊文春』がこういうふうに書いてもしょうがないよね、と。そのうち二人はちゃんと証人尋問に出てきて、証言しているから真実と信ずるに足る、ということです」

ーでは一審と二審の判決が違うのはなぜでしょうか。←一審は文春が敗訴したが、二審では逆転勝訴した。

「なんで敗訴したかというと、これが馬鹿な話でしてね。事件は、少年たちにとっては一〇年以上前の話で、それも日常的にしょっちゅうホモセクシャル行為を受けていたわけですが、それを何月何日の何時頃とかね、言いなさいと。そういうのを相手方の反対尋問で問われても憶えているわけがないじやないですか。二一~三歳の少年ですよ。それがアークヒルズだったか、隣の全日空ホテルだったか言えと言われてもね。あの二棟は裏表に建ってますからね、どっちの建物の部屋かわからないじゃないですか。地方から出てきているような子供が初めて車で連れて行かれて、いつの間にかそうした行為をされているわけですから。
 裁判官は、彼らが明確に証言できないと、『場所が特定されない、暖味である、日時も不確かだ。よってこの証言は信用するに足らない』と言う。現実的に考えて無茶ですよ。たとえば、平成〇年の〇月〇日にアークヒルズの何階でこうされた、二度目はここで、三度目は……なんて憶えていると思いますか。記憶しておきたくないおぞましいことなんだから。
誰にも語れず、悶々としていたわけですよ、少年たちは。もちろん、親にも語っていない。傷を早く忘れたいんですよ。それを、傷跡をひっかくようにして反対尋問される。それでちゃんと答えられたらむしろ偽証ですよ。話をあらかじめ作っているとしか思えないということになってしまう。
 裁判官が常識から東経していると思うのは、現実に被害を受けたのだからその日時も場所も覚えているはずだ、言えるはずだとする発想。全く馬鹿げている」

ー高裁ではそのへんはどうだったのですか。

「高裁判事は十分に理解を示しました。記憶が曖昧でも仕方ないだろうと。
 それから、ジャニー喜多川のやってることは刑法の一七六条の強制猥褒罪、一七八条の準強制猥惑罪などにモロにあたる行為なんです。犯罪なんですよ。ホモセクハラっていうけれど、ハラスメントつていやがらせでしょ、でもこれはいやがらせどころじゃないですよ。ハラスメントなんてものじゃない。性器を口で弄ばれたり、性交を強要されたりするわけですから。
 ジャニーズ側の言い分は、親にも言ってない、誰にも言ってない、告訴もしていない、しかし本当にやられたなら告訴するだろうと。告訴しないのはおかしいじゃないかとも言ってきているわけです。一二~三歳から一四~五歳ぐらいの少年が、親にも語れないものを告訴できますか。親告罪ですから、強姦と同じで自分でやられたと訴えなければ、時効で消えてしまうんですよ」

ー控訴審判決は実質勝訴だと思いますが、実際には一二〇万円ほど支払っていますね。一般の人からみると、何だやっぱり払ったんじゃないかと。結局は払ったから裁判は敗訴なんじゃないかと思うムキもあるかと思うのですが、このあたりいかがですか。

「あれは一つの事件ですが、二つに分けて考えて頂くといいと思うんですね。

一つはジャニー喜多川のホモセク行為があったかどうかという裁判。もう一つはこれまでと同じような名誉毀損裁判。少年たちに合宿所で飲酒、喫煙させていた件や、ジュニアの万引き事件を封印した件などです。後者については、こちらの主張が全面的には認められず、一二〇万円を支払えとなった。まあその点では、記事を書く上での反省点もあると真撃に受け止めなければならないとは思っています。で、ホモセク行為があったかどうかについては~まあこちらも名誉毀損なんですが~、完全に勝訴した。結果、トータルすると八八〇万円と言われたのが一二〇万円になったわけですから、差引で七六〇万少なくなった。これはどう考えても勝ったことになるわけですよ」

ーたしかにそうなんですが、一般の人は、お金払っているよね、と思いがちですよね。

「一般の人はたしかにそうです。それについては、祝はと言った他のメディアの書き方がちょっとアンフェアではないかという気がします。中身をきちんと分析して伝えない」

ーええ。雑誌はいつも訴えられているし、いつも負けてるし、という漠然としたイメージだけが残るかもしれません。

「ジャニーズ告発キャンペーンのメインテーマは何かというと、代々にわたってずーっと少年たちがああいう性的虐待を受けてきたということなんです。
 北公次という男がいましたね、彼が本を出して、自分はこんなことをやられました、ひどいめにあったと書いている。豊川誕っていますよね。彼も本を出している。みんな、ジャニー喜多川に少年時代にホモセクシャル行為を受けたと言いつのっているわけです。ところがどこも報じない。テレビもやらないし新聞もやらない。もちろん芸能誌を持っている雑誌社もやらない。マスコミ最大のタブーになってるわけですね。
 そのタブーに対して『週刊文春』の記事は、少年たちにとって生涯消えることのない傷を残したというのに、おかしいじやないか、あなたは少年たちに何をやったんだと問いかけるものだったんです。ですから今回、その記事のメインの部分について、正々堂々と闘い勝ち取ったというわけです」

ーメインは「ホモセクシャル行為」であって、そこを見て欲しいと。
 
「最高裁の判例には、主要を部分についての真実性を証明すればそれで事足りると書いてあります。;の訴訟があったとして、その主要な部分、今回でいえば少年たちへのホモセクシャル行為、これを立証したわけですから本来は一〇〇%勝ったといってもいい」

ー完全勝訴。

「ほぼ完全勝訴。今回の控訴審判決では、訴訟費用を九〇で割り、その妄控訴側、つまり私どもで、残り八九をジヤニーズ側が払えということになったんですよ。
今まではね、痛み分けだとね、五〇、五〇ですよ。これまでの壷の費用、二審の費用等、裁判費用を五分五分に分けて半分を被控訴側、半分を控訴側で払えというのが訴訟費用の分け方。それでこっちが完全に勝てばすべて被控訴人が支払えという命令が出る。
今回はそれが這ったわけです。九〇分の這私どもに非があったと裁判所が認聖九〇分の八九は向こうが悪いと認
めた証左なんですよ」

内容は、ぜひ本書を手にとってご確認ください。

以上、『平成の芸能裁判大全』(鹿砦社)は芸能人の裁判記録だけでなく和解や判決まで追跡し出版関係者のインタビューも掲載、でした。

平成の芸能裁判大全 - 芸能裁判研究班
平成の芸能裁判大全 – 芸能裁判研究班

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