『破戒』といえば、近代文学史上に残る島崎藤村の長編小説。『まんがで読破』シリーズとしてバラエティ・アートワークスが漫画化

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破戒』といえば、近代文学史上に残る島崎藤村の長編小説。『まんがで読破』シリーズとしてバラエティ・アートワークスが漫画化

『破戒』といえば、近代文学史上に残る島崎藤村の長編小説。『まんがで読破』シリーズとしてバラエティ・アートワークスが漫画化しました。明治維新後も残った身分差別について、そこに苦しみ、やがて自身による主体的な解決を見出していく話です。

まんがで読破シリーズの『破戒』です。

島崎藤村/原作、バラエティ・アートワークス/漫画、Teamバンミカスから上梓されています。

この記事は、Kindle版からご紹介しています。

2022年11月27日現在、AmazonUnlimitedの読み放題リストに含まれています。

「穢多」と呼ばれる被差別部落に生まれた主人公・瀬川丑松が、亡き父から「出自を生涯明かさないように」との戒めを受け、苦悩しながらも、結局父の戒めを破りその素性を打ち明けてしまう話です。

作品は1906年3月、緑陰叢書の第1編として自費出版されましたが、島崎藤村が小説に転向した最初の作品といわれています。

本作に感銘を受けた元大映女優の藤村志保さんが、島崎藤村の「藤村」と、登場人物の「志保」から芸名をとったことは有名な話です。


まんがで読破シリーズとは、文学、哲学、政治、経済、宗教……などの名著を漫画化したものです。

公式サイトによると、既刊139点。

国内販売数は392万部といいます。

いきなり純文学は荷が重い、という人でも、読みやすい漫画でその世界を堪能できるのです。

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父親から「隠し通せ」と言われる

主人公・瀬川丑松は、明治後期に、信州小諸城下の被差別部落に生まれました。

父は、小諸の被差別部落のお頭でしたが、丑松の出世のために身分を知られていない根津村に引っ越し、自身は牧場で牛追いとして生計を立てることに。

丑松は父から、「隠せ」と教わりました。

その生い立ちと身分を隠して生きよ、これが我々にとって唯一の立身出世の方法なんだ、いったん自分の出自を告白したら、そのときこそ社会から捨てられたものと思え、と父より戒めを受けて育ちました。

たとへいかなる目を見ようと、いかなる人に邂逅はうと決して其とは自白うちあけるな、一旦の憤怒悲哀に是この戒めを忘れたら、其時こそ社会から捨てられたものと思へ。」と原作には書かれています。

丑松は、長野の師範校(教員を養成する学校)に入り、22歳の時に、飯山の小学校教師になりました。

職場でも下宿でも、その戒めは頑なに守っていましたが、家の本棚には、同じく被差別部落に生まれた解放運動家、猪子蓮太郎の本がズラッと並んでいました。

猪子連太郎は、自分の身分を隠さず、その差別撤廃のための言論活動を行っていたのです。

丑松が勤務する小学校には、親しい同僚として、師範学校時代からの親友・土屋銀之助や、初老の風間敬之進がいました。

瀬川丑松と土屋銀之助は、教え子から人気があり、瀬川丑松は教師の頭首である首座教員でした。

地域の名士ということになっている同校の校長は、軍隊風に生徒を規律正しく教育するのではなく、新しい教育観を持つ丑松や銀之助を煙たがる一面を持っていました。

そして、やはり同僚教師の勝野文平は、彼らを失脚させて自分が首座教員になりたいと思っていました。

2人は、瀬川丑松を更迭するという共通の目標を持っていました。

漫画では、勝野文平は蝶ネクタイをしており、坊っちゃんでいうと「赤シャツ」のようなタイプですが、設定としては野太鼓にも近いと思いました。

風間敬之進は、もとは飯山藩の藩士でしたが、2人目の妻と多くの子供を抱え、貧乏な生活を余儀なくされていました。

その上、酒で体調を崩してしまい、退職金をもらえる半年前に退職をせざるを得ないような状況に陥っていました。

丑松が下宿している蓮華寺には、その風間敬之進の娘の志保という女性が養女に入っていましたが、勝野文平はお志保をひと目見て気に入ってしまい、志保と仲良くしている丑松に対しては、その意味でも敵対心を抱いています。

あるとき、丑松は阿爺っさん(父親)が亡くなったことを電報で知ります。

急遽郷里に向かいますが、汽車の中で、偶然地元の高柳利三郎議員が乗り合わせ、降りる駅まで同じでした。

一応、目をそらした瀬川丑松ですが、高柳利三郎はしっかり彼を目撃していました。

阿爺っさん(父親)は種牛に突き殺されたのですが、イマワノキワでも、丑松に「(戒を)忘れるなと……」伝えるよう言い残します。

種牛はさっそく屠殺され、供養の費用にされました。

帰りの駅舎で、瀬川丑松は、憧れの猪子連太郎に遭遇します。

ファンレターを出していた瀬川丑松は、猪子連太郎に自己紹介すると、猪子連太郎はちゃんと丑松の名前を覚えていました。

どれだけ手紙書いたんだよ、という感じです。

丑松は、猪子連太郎夫妻とうどんを食べながら雑談する機会を得ますが、その時、目の前には父親の像が出てきたのです。そしたこう言います。

「(戒を)忘れるな……」

父親の呪縛で、丑松は自分のことは話せずごまかします。

一方、猪子蓮太郎は自分のことを話してくれました。

そういうときって、なんか後ろめたいような気持ちになっちゃうんですよね。自分だけが隠して。

猪子連太郎は言います。

「実はわたしは、師範学校時代まで素性を隠して暮らしていたんだよ」と。

ところが、いったん素性が知られると、信頼していた親友も、上司も、同僚も離れていった。

そして学校を追放された猪子蓮太郎は、言論で社会と戦うことを決意し、人の差別の心や社会の構造が酷いものであり、自分が戦わなくてはならないと決意したことを述べました。

さらに猪子蓮太郎は、高柳利三郎議員が、新平民(穢多の新しい族称)である草履職人の「お頭」の六左衛門の娘と、財産目当てに秘密裏に結婚したことも教えてくれました。

それで、丑松とは行きの汽車が一緒だったわけです。

『実に驚くぢやないか。』と猪子蓮太郎は嘆息した、と原作にはあります。

もちろん、「秘密裏」といっても、結婚時代が「秘密」なのではなく、結婚相手が「新平民」の娘であることを秘密にしたわけです。

下宿に帰った瀬川丑松のところに、さっそく高柳利三郎議員が訪ねてきます。

「先日、船の中であなたをお見かけしたときに、声をかけそびれたので……」

帰り道は汽車ではなく船にしたのに、それまで見られてしまったのです。

またしても、父親が丑松の脳内に出てきて「隠し通せ」と言います。

瀬川丑松はシラを切りますが、「実は、私の妻が、あなたのことを知っているというのですよ」と高柳は言います。

「このことがしれたら、高柳は金のためなら何でもヤる男と思われてしまう。そうなったら私の政治家生命は終わってしまう。家内のこと(身分)を黙っていてくださったら、私もあなたのことは口外しません」

そう言われても、丑松は「人違いですよ」ととぼけて、高柳との取引にはノリませんでした。

のったら、自分がそうであることを認めたことになるからかもしれませんが、木で鼻をくくったような返事をしたら、高柳は先手を打って、丑松のことをバラすことは明らかです。

私が丑松だったら、もっと上手に言っていたと思いますが。

たとえば、「人違いですから、あなたの奥さんのことも知らないということです。ここからが大事ですが、知らない以上、なにか口外するはずがありません」とか、「なんのことを仰っているのかわかりませんが、せっかくいらしたんですし、一杯やりませんか」とか言って、自分がカミングアウトした事実を遺さず、事実上諒解した旨の告白を工夫しても良かったのではないかと思います。

いずれにしても、交渉決裂したことで、高柳利三郎議員は先手を打ってしまいました。

そして……

まあ、有名な文学作品なのでね、いわゆるネタバレはされていますが、せっかくですのでまだ読まれたことのない方は、ここから先は本書をぜひお読みいただきたいと思います。

原作は、青空文庫に公開されています。

このブログでは、過去に青空文庫にある文学即品から、『人間失格』と『こころ』をご紹介したことがあります。

『人間失格』(太宰治/作、比古地朔弥/構成・作画、学研パブリッシング/秋水社)は、人間関係に迷う生き様を描いた小説の漫画版
『人間失格』(太宰治/作、比古地朔弥/構成・作画、学研パブリッシング/秋水社)は、人間関係に迷う生き様を描いた小説の漫画版です。他人の前では道化に徹し、本当の自分を誰にもさらけ出せない男の、幼少から青年期までを男の視点で描いています。

『人間失格』(太宰治/作、比古地朔弥/構成・作画、学研パブリッシング/秋水社)は、人間関係に迷う生き様を描いた小説の漫画版です。

『こころ』(夏目漱石/作、高橋ユキ/構成・作画、学研パブリッシング/秋水社)は、エゴと倫理観の葛藤を描いた小説の漫画化
『こころ』(夏目漱石/作、高橋ユキ/構成・作画、学研パブリッシング/秋水社)は、エゴと倫理観の葛藤を描いた小説の漫画化です。恋愛と友情の間に悩みながらも、友人よりも恋人を選択。自分自身をも信用できなくなった自己嫌悪の心理が描かれています。

『こころ』(夏目漱石/作、高橋ユキ/構成・作画、学研パブリッシング/秋水社)は、エゴと倫理観の葛藤を描いた小説の漫画化です。

破戒の意味

本書のクライマックスは、「破戒」というぐらいですから、丑松は最後に父親が因果を含めた「戒」を破ってしまうシーンにあるわけですが、それは、たんなるカミングアウトではなくて、父親の呪縛に対する「破戒」でもあったと私は解しました。

はっきりいえば、丑松の父親は毒親だろう、と私は思いました。

だって、丑松はいつも父親の「隠せ」という呪縛に苦しめられたじゃないですか。

要所要所に、自分の脳内に出てきて自分の判断の邪魔をする。

本当は、猪子連太郎のように堂々と生きたかったのに……。

周囲の反応は変わっても、自分自身に対して恥じない生き方が出来たのに。

子供を苦しめる親は毒親です。

これはね、丑松の父親は、もちろん差別を受ける側だったわけですが、一方でその差別の最下層とはいえない「お頭」の立場であったことも大きいと思います。

下層の中の「上」の人生を担保しながら、かつ普通の人の生活も遅れるように黙ってろ、ということですからね。

失うものがある人だったんでしょう。

失うものがなければ、怖いものなしです。

ありていにいえば、もし差別そのものを根本から否定するようなら、現在の瀬川家の「お頭」のポジションも否定することになりますからね。

そういう見方、おかしいと思いますか。

もし、父親が差別に矛盾を感じ、それをなくしたいと思っていたら、「どんなに不遇になっても自分を曲げるな、身分なんて社会が決めたことで、我々は何もやましくない。正直に生きろ。教師をクビになったら、実家で食わせてやるから心配するな」と言えるわけです。

それが、真の親としての立場ではないでしょうか。

そういえずに「黙ってろ」というのは、「今の社会が差別社会でおかしい」という声自体を上げるな、ということにほかなりません。

ですから、丑松が父親の遺言を破って自分の身分を明らかにしたのは、父親からの解放でもあったのです。

戸籍に族称が記載されていたことも

穢多、いわゆる新平民はどうしてできた「身分」なのか。

日本神道における「穢れ」観念からきた、「穢れが多い仕事」や「穢れ多い者(罪人)が行なう生業」の呼称、非人身分の俗称といわれますが、他方、それより古く、古代の被征服民族にして賤業を課せられた奴隷を起源と見る立場もあります。

穢多差別は平安時代までには始まったとされ、江戸時代に確立され、呼称は明治時代に廃止されたといいます。

が、それはあくまで「呼称」が廃止されたもので、明治19年以前の「壬申戸籍」と呼ばれる戸籍には、「新平民」とか「士族」とか「平民」とか、族称が記載されていました。

それ以降は差別的族称は記載されなくなったといいますが、少なくとも「士族」は昭和20年までは、就職や縁談に有利に働いたといいます。

まあ、こういう身分制度は、立派な差別ですよね。

ところが、右派的な人々は、昔の日本を美化する立場から、「日本ぐらいいい国はない。なぜなら奴隷差別がなかったから」なんて言う人がいます。

しかし、鎌倉時代までには、奈良と京都に「穢多」差別があったことが明らかになっています。

明治4年には、解散令によって、穢多・非人という身分の区別も廃止されましたが、それは行政上そうなったというだけで、人の心の差別は残っていました。

島崎藤村は、それを書いたわけです。。

ところで、穢多が差別されているのなら、高柳利三郎議員のような名誉ある仕事についている人が、どうして結婚するんだ、と疑問に思われるかもしれません。

実は歴史では習いませんが、士農工商穢多非人の中でも、穢多には金持ちがいたという指摘もあります。

それは、穢多とされる人々は、家畜の屠殺など人のしたがらない仕事をするので、プルーオーシャン市場で仕事とお金には困らないから、ということのようです。

「名誉」を得るにはカネがかかるのです。

その金を出すのは、名誉とは逆に差別されている人々なのです。

「穢多」と呼ばれる人々あってこその「名誉」なのです。

世の中、そんなものです。

人に格差をつけることのくだらなさがわかりますね。

もっとも、裕福な穢多は仕事を差配する「お頭」など一握りで、多くの人は、差別され、仕事を奪われ、僻地に追いやられた下層の人々ではあったのですが……。

漫画では描かれていませんが、実は瀬川丑松の家も穢多の「お頭」だったので、丑松を師範学校まで行かせることが出来たのです。

差別も闇が深いですね。

今年は、島崎藤村の名作小説『破戒』が60年ぶりに映画化と報じられ、話題になりました。


これを機会に、本書をご覧になってみませんか。

以上、『破戒』といえば、近代文学史上に残る島崎藤村の長編小説。『まんがで読破』シリーズとしてバラエティ・アートワークスが漫画化、でした。

破戒 (まんがで読破) - 島崎 藤村, バラエティ・アートワークス
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