
超高齢社会を迎える日本において、認知症は私たちにとって身近な課題となっています。しかし、認知症は決して避けられないものではありません。
認知症の前段階、もしくはそれ以前からでも日々の生活習慣を見直すことで、そのリスクを低減し、健康な脳を維持することが可能です。
1. よく噛んで食べる:脳を活性化する咀嚼の力
「よく噛んで食べる」という行為は、単に消化を助けるだけでなく、脳の健康に深く関わっています。食べ物を咀嚼することで、脳の血流が増加し、特に記憶や学習に関わる海馬や前頭前野が活性化されることが研究で示されています[1, 2]。
咀嚼が脳に与える影響
•脳血流の増加: 咀嚼運動は、脳への血流を促進します。これにより、脳細胞に必要な酸素や栄養が供給されやすくなり、脳機能の維持・向上に繋がります[3]。
•脳の活性化: 噛むことで歯根膜(歯と骨の間にある組織)が刺激され、その刺激が脳に伝わります。特に、記憶を司る海馬や思考・判断を司る前頭前野が活性化されることが分かっています[4]。
•認知症リスクの低減: 歯を失い、十分に噛めない人は、そうでない人に比べて認知症の発症リスクが高まるという報告もあります[5]。これは、咀嚼による脳への刺激が減少することが一因と考えられます。
日常で実践できること
•一口30回を目標に: 意識的に一口あたりの咀嚼回数を増やしましょう。時間をかけてゆっくり食べることで、満腹感も得られやすくなります。
•歯の健康を保つ: 定期的な歯科検診と適切な口腔ケアで、歯を健康に保つことが重要です。義歯やインプラントの活用も検討しましょう。
•噛み応えのある食材を取り入れる: ごぼうやレンコンなどの根菜類、きのこ類、こんにゃく、ナッツ類など、自然と咀嚼回数が増える食材を積極的に食事に取り入れましょう。
[1] 東京都健康長寿医療センター研究所. (2019). プレスリリース>「咀嚼にともなう脳血流増加の神経メカニズムを解明」. https://www.tmghig.jp/research/release/2019/1225.html [2] 医療法人 恵優会. (2022). 咬む力は認知症のクスリ. https://keiyoukai.jp/blogs/article.php?id=6371 [3] 大阪府医師会. (2020). 噛めば噛むほどに…認知症予防. https://www.osaka.med.or.jp/doctor/doctor-news-detail?no=20200701-2933-8&dir=2020 [4] あゆみ歯科クリニック. (2025). 噛めないと脳が衰える?認知症リスクを高める“噛む力”の低下に注意!. https://ayumikyobashi.com/blog/knowledge/post-17359/ [5] 医療法人 恵優会. (2022). 咬む力は認知症のクスリ. https://keiyoukai.jp/blogs/article.php?id=6371
2. 趣味を5つ持つ:脳を刺激し、生活を豊かにする多角的な活動
趣味を持つことは、認知症予防において非常に効果的な手段です。特に、複数の趣味を持つ「多趣味」な人は、認知症のリスクが低いという研究結果も出ています[6]。趣味は脳に多様な刺激を与え、認知機能の維持・向上に貢献します。
趣味が脳に与える影響
•脳の活性化: 趣味活動は、思考、記憶、創造性、運動など、様々な脳の領域を同時に使うため、脳全体を活性化させます。新しい趣味に挑戦することは、特に脳に良い刺激となります[7]。
•ストレス軽減とQOL向上: 趣味はストレス解消に繋がり、生活の質(QOL)を高めます。精神的な健康は、認知症予防にも重要な要素です[8]。
•社会との繋がり: グループで行う趣味や、発表の場がある趣味は、他者との交流を生み出し、社会的な繋がりを強化します。社会的孤立は認知症のリスクを高めるため、人との交流は非常に重要です[9]。
日常で実践できること
•多様なジャンルの趣味を持つ: 運動系(ウォーキング、ヨガ)、知的系(読書、語学学習)、創作系(絵画、手芸)、交流系(ボランティア、地域活動)など、異なるジャンルの趣味を組み合わせることで、脳に多角的な刺激を与えることができます。
•新しいことに挑戦する: 慣れた趣味だけでなく、これまで経験したことのない新しい趣味に挑戦してみましょう。新しい学びは脳を活性化させます。
•継続できる趣味を見つける: 趣味は継続することが大切です。無理なく楽しめるもの、興味を持てるものを見つけることが長続きの秘訣です。友人や家族と一緒に始めるのも良いでしょう。
[6] e-nursingcare. (2022). 多趣味な人は認知症リスクが33%減少!?生きがいが高齢者の健康を左右する. https://e-nursingcare.com/guide/news/news-13898/ [7] 国立長寿医療研究センター. (n.d.). “趣味活”でイキイキした毎日を!【認知症予防】. https://www.ncgg.go.jp/ri/advice/16.html [8] ルネクリニック. (2024). 認知症の予防に役立つ趣味と、毎日の過ごし方を紹介. https://renee-clinic.jp/report/529/ [9] LIFULL 介護. (2024). 趣味はグループで行うと認知症予防に効果的. https://kaigo.homes.co.jp/tayorini/news_column/45/
3. 朝散歩:心身を整え、脳を活性化する習慣
朝の散歩は、認知症予防に非常に効果的な習慣です。太陽の光を浴びながら体を動かすことで、心身のリズムが整い、脳機能の向上に繋がります。
朝散歩が脳に与える影響
•セロトニンの分泌促進: 朝日を浴びることで、脳内で「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンの分泌が促進されます。セロトニンは精神の安定や意欲向上に関わり、うつ病の予防にも繋がります。うつ病は認知症のリスクを高める要因の一つとされています[10]。
•体内時計のリセット: 朝日を浴びることで体内時計がリセットされ、規則正しい睡眠リズムが作られます。質の良い睡眠は、脳の老廃物除去や記憶の定着に不可欠であり、認知症予防に重要です[11]。
•脳血流の増加と活性化: ウォーキングなどの有酸素運動は、脳の血流を増加させ、脳細胞の活性化を促します。特に、海馬や前頭前野といった認知機能に関わる領域が刺激されることが分かっています[12]。
•認知症リスクの低減: 毎日1時間のウォーキングが脳の老化を遅らせるという研究結果や、ウォーキングによって認知症の発症率が減少するという報告もあります[13, 14]。
日常で実践できること
•毎日続ける: 毎日決まった時間に散歩する習慣をつけましょう。無理のない範囲で、15分から30分程度の散歩から始めてみてください。
•太陽の光を浴びる: 曇りの日でも、屋外に出ることで十分な光を浴びることができます。窓越しではなく、直接太陽の光を浴びるようにしましょう。
•少し速足で: ただ歩くだけでなく、少し息が弾む程度の速足で歩くことで、より効果的に脳を刺激できます。腕を大きく振るなど、全身を使うことを意識しましょう。
•景色を楽しむ: 散歩中に周囲の景色を観察したり、季節の移ろいを感じたりすることで、五感を刺激し、脳の活性化に繋がります。
[10] ダイヤモンド・オンライン. (2024). 【整体プロが指南】認知症になりやすい人の「朝の習慣」ワースト3. https://diamond.jp/articles/-/340652 [11] 認知症ねっと. (n.d.). 認知症予防に効果的な睡眠とは?. https://info.ninchisho.net/archives/10001 [12] 東京都健康長寿医療センター研究所. (2014). 歩行は、なぜ認知症予防につながるのか?. https://www.tmghig.jp/research/topics/201412-3404/ [13] 特定健診・保健指導情報. (2019). 毎日1時間のウォーキングが認知症の予防にも効果的 軽い運動でも脳の老化を遅らせる. https://tokuteikenshin-hokensidou.jp/news/2019/008191.php [14] PHPオンライン 衆知. (2025). 認知症リスクを下げる鍵は「歩く」こと? 脳が活性化する驚きの効果. https://shuchi.php.co.jp/article/12253
4. 会話と交流:社会との繋がりが脳を活性化する
人との会話や交流は、認知症予防において非常に重要な要素です。社会的孤立は認知症のリスクを高めることが指摘されており、積極的に社会と関わることで脳を活性化し、精神的な健康を保つことができます。
会話と交流が脳に与える影響
•脳の多角的活性化: 会話は、言語野、記憶、思考、感情など、脳の様々な領域を同時に使います。相手の言葉を理解し、自分の考えを整理して伝えるというプロセスは、脳にとって高度なトレーニングとなります[15]。
•ストレス軽減と精神の安定: 人との良好なコミュニケーションは、ストレスの軽減や抑うつ傾向の改善に繋がります。精神的な安定は、認知症予防に不可欠です[16]。
•認知機能の維持: 社会参加や人との交流は、認知機能の低下を抑制する効果があることが研究で示されています。特に、約束や会話といった高度な認知機能を使う活動は、脳を刺激し続けます[17]。
•海馬の萎縮抑制: 社会的孤立、特に他者との日常的な交流が少ない人は、記憶に関連する海馬の容積の減少が大きいという研究結果もあります。これは、日常的な脳への刺激が不足するためと考えられます[18]。
日常で実践できること
•積極的に話す機会を作る: 家族や友人との会話はもちろん、近所の人との挨拶、お店での店員さんとの短い会話など、日常のあらゆる場面で積極的に話す機会を作りましょう。
•地域活動やボランティアに参加する: 地域のお祭りやイベント、ボランティア活動などに参加することで、新たな人との出会いや交流が生まれます。共通の目的を持つ仲間との活動は、脳に良い刺激を与えます。
•趣味のグループに参加する: 趣味を通じて人との交流を深めることも有効です。共通の話題があるため、会話が弾みやすく、楽しみながら社会との繋がりを保つことができます。
•オンラインでの交流も活用する: 遠方に住む家族や友人とオンラインで会話したり、オンラインコミュニティに参加したりすることも、手軽に交流を深める方法です。
[15] サライ.jp. (2021). 会話が認知症予防に良いとされる3つの理由. https://serai.jp/living/1025621 [16] 第一三共エスファ. (n.d.). 人・社会とのつながりをもつ | 認知症の予防. https://patients.daiichisankyo-ep.co.jp/dementia/prevention/prevention03/ [17] ライフリー. (n.d.). 自分が楽しめる、人に喜ばれる交流を長く続ける. https://jp.lifree.com/ja/dementia-prevention/alternating-current-01.html [18] 東京都健康長寿医療センター研究所. (2024). <プレスリリース>”希薄な社会的つながり”と”独居”は海馬の萎縮に関連. https://www.tmghig.jp/research/release/2024/1023.html
5. アウトプット:脳を鍛える「出す」習慣
「アウトプット」とは、インプットした知識や経験を、話す、書く、行動するなどして外に出すことです。このアウトプットの習慣は、脳を活性化し、認知症予防に非常に効果的です。
アウトプットが脳に与える影響
•記憶の定着と整理: インプットした情報をアウトプットしようとすることで、脳は情報を整理し、記憶として定着させようとします。これにより、記憶力の向上に繋がります[19]。
•思考力・判断力の向上: 自分の考えを言葉にしたり、文章にまとめたりする過程で、論理的な思考力や判断力が鍛えられます。これは、認知機能の重要な要素です[20]。
•前頭葉の活性化: アウトプットは、思考や行動を司る前頭葉を特に活性化させます。前頭葉は、認知症になると機能が低下しやすい部位の一つであり、ここを鍛えることは予防に繋がります[21]。
•脳の回転を速める: 高速でインプットとアウトプットを繰り返すことで、脳の処理速度が向上し、物忘れや「ボケ」の防止に役立つとされています[22]。
日常で実践できること
•日記やブログを書く: その日の出来事や感じたこと、学んだことなどを文章にしてみましょう。手書きで書くことは、脳にさらなる刺激を与えます[23]。
•人に話す: 読んだ本の内容やニュース、自分の意見などを家族や友人に話してみましょう。人に分かりやすく伝えるためには、情報を整理し、言葉を選ぶ必要があります。
•学んだことを教える: 新しく学んだことを誰かに教えることは、最も効果的なアウトプットの一つです。教えることで、自分の理解が深まり、記憶が強化されます。
•目標を設定し、行動する: 小さな目標でも良いので、設定してそれに向かって行動することもアウトプットです。例えば、「新しいレシピに挑戦する」「行ったことのない場所へ出かける」など、具体的な行動を起こしてみましょう。
[19] プレジデントオンライン. (2025). 70代以降はメモ魔になりなさい…和田秀樹が「ボケる前に絶対身に付けておきたい」と勧める黄金ルーティン「書く」アウトプット自体がよい脳トレになる. https://president.jp/articles/-/66850?page=1 [20] ダイヤモンド・オンライン. (2022). 最善の認知症予防は高速インプットとアウトプットの繰り返し. https://diamond.jp/articles/-/296767 [21] プレジデントオンライン. (2024). 「高齢者の一人暮らし」は認知症予防の最高の方法…高齢者専門医が断言する理由. https://president.jp/articles/-/78923?page=3 [22] ORICON NEWS. (2022). 最善の認知症予防は高速インプットとアウトプットの繰り返し. https://www.oricon.co.jp/article/1783668/ [23] Yahoo!ニュース. (2025). 脳の名医が考えた“行動を振り返って書く”脳活で認知症を予防、継続できる「書くだけ脳活手帳」とは. https://news.yahoo.co.jp/articles/362dcffcfb83a9ad3a74d6f5fc0ed8af63ffdb00
まとめ
認知症予防は、特別なことではなく、日々の生活習慣の中にそのヒントが隠されています。「よく噛んで食べる」「趣味を5つ持つ」「朝散歩」「会話と交流」「アウトプット」という5つの視点は、どれも今日から実践できる身近なものです。
これらの習慣を意識的に取り入れることで、脳を活性化し、認知症のリスクを低減することができます。
健康な脳は、豊かな人生を送るための基盤です。今日からできる小さな一歩を積み重ね、いつまでも自分らしく、充実した毎日を送りましょう。

老年医療の専門医が教える 誰よりも早く準備する健康長生き法 – 大津 秀一


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