
武蔵野大学データサイエンス学部の学生が取り組んだ「AIによる緑内障診断の精度向上」に関する研究論文が、学術誌『IEEE Access』に掲載されました。今回の研究のテーマは、「AI(人工知能)を使って、目の難病である『緑内障』を正しく診断できるようにする」というものです 。
緑内障は、40歳以上の日本人における有病率が約5%(20人に1人)に達する非常に身近な目の疾患です。
日本の失明原因の第1位でありながら、初期には自覚症状がほとんどないため、定期的な眼科検診による早期発見が重要です。
そこで期待されているのが、医療AIです。
患者の目の画像(眼底画像など)をAIに読み込ませ、医師の診断をサポートするシステムの開発が世界中で進んでいます。
しかし、これまでの医療AI開発には、いくつかの「課題」や「思い込み(常識)」がありました。
今回の研究は、まさにその「常識」が本当に正しいのかを徹底的に検証した研究なのです。
研究の概要
~医療AI開発の”常識”を検証する~
データサイエンス学部生の成果?????AIによる緑内障診断の精度向上に関する研究論文が、情報分野の国際学術誌「IEEE Access」に掲載されました。
医療AIの現場活用には、大規模データによる検証や多様な環境下での安定性の検証などが重要であることを示しました。… pic.twitter.com/X7hXzfWmNW— 武蔵野大学【公式】│Musashino University (@musashino_univ) June 4, 2026
緑内障は、眼底写真(目の奥の写真)からある程度判定できます。
AI研究者たちはこれまで、「眼底写真だけ見せるより、まず視神経の位置や輪郭をAIに教えてから診断させた方が精度が上がるはずだ」
と考えてきました。
これは人間の眼科医も視神経乳頭という部分を重視するので、直感的にはもっともらしい考えです。
ところが武蔵野大学の当該研究は、
世界各地の19種類のデータセット
1万2000枚以上の眼底画像
を集めて検証しました。
その結果、
・視神経の輪郭をAIに抽出させること自体はうまくできた
・しかし、その情報を追加しても診断精度は思ったほど向上しなかった
・ある病院のデータでは良くなっても、別の病院の画像では効果が薄いことがあった
という結果になりました。
つまり、
「解剖学的な情報を追加すれば必ずAIが賢くなる」
という医療AI界の半ば常識だった考えに、
「本当にそうですか?」
と疑問を投げかけた研究です。
AI研究は、派手な新技術ばかりが注目されがちですが、実際の医療現場で役立つ技術を見極めるには、「本当に効果があるのか」を地道に確かめる研究が欠かせません。
今回の成果は、その重要性を示した好例といえるでしょう。
背景には明示的学年制採用も?
武蔵野大学は日本で唯一、明示的学年制を採用している大学です。
日本の大学は、通常単位制で、「卒業までに124単位取得する」ことになっており、たとえばある学年で一部の科目の単位を落としても進級でき、翌年取り直せば事なきを得られます。
一方、武蔵野大学は、その学年で履修した成績をGPAで評価し、3年次までは1.5、3年から4年にあがるには2.0を必要としており、そこに満たないと「留年」となり、翌年まだ同じ学年で全科目を履修し直します。
GPAは、以前もご紹介しましたが、90点以上がS(4点)、80点以上がA(3点)、70点以上がB(2点)、60点以上がC(1点)、それ以下は不可(単位履修を認めず0点)とした、履修全科目の点数の平均をいいます。
つまり、ひとつも単位を落とさなくても、全科目合格ギリギリのCだと、GPAは1.0にしかならないので留年になります。
要するに、その学年で履修することは、合格点を超える一定レベルで理解していないと、次の学年に進めないようになっています。
これは、各学年の目標・進級要件を明確にし、段階的に高度なスキルを身につける仕組みを身に着けさせるために採用されています。
データサイエンスやAIの領域は、基礎(数学、統計、プログラミング)をすっ飛ばして、応用(医療AIの開発)をに入ろうとしても上手くいかないからです。
もちろん、今回の成果が、明示的学年制だけによるものとは言えません。
しかし、基礎科目の理解を厳格に求める教育制度が、こうした高度な研究を支える土台になっている可能性は十分に考えられます。
大学も「学修の質」が問われる時代に
通常、世界中の研究者が読む査読誌(特に『IEEE Access』のような難関誌)に論文が載るのは、大学院生(修士・博士)や、プロの研究者が何年もかけるケースが大半です。
それを、学部生の段階で成し遂げられたのは、「早くから社会で通用するレベルまで引き上げる」という明示的学年制が正しかった証左であると私は思います。
武蔵野大学は、かつては文学部だけの小さな女子大でしたが、21世紀に入ってもっとも化けた大学といわれています。
その背景は、こうした「学修の質」が、企業や受験生に評価されたのだと思います。
結論ですが、大学を、知名度や予備校が発表する偏差値で格付けするクセはもうやめましょう、ということです。
こうした「学修の質」で評価する文化になれば、有望な生徒が「質」の高い大学を選択し、卒業後は学術界や産業界に輩出され、かつての技術大国日本のようなイノベーションを生み出してくれると思います。
緑内障治療がAIを使って向上するだけでなく、他の病気の診断や治療にもAIがよい影響を与えてくれることを期待しましょう。
大学を、過去の知名度や難易度だけで格付けしていませんか?

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