
「嘘をついている人は時系列を逆で話すことが難しい」(ナゾロジー)という内容の記事の記事が話題になっています。一見するとテクニック本のようにも見えますが、実際には心理学の実験研究に基づいた話です。
本記事では、そのポイントをできるだけわかりやすく整理してみます。
なぜ「逆順」で話すと嘘がバレやすいのか
今日の情報源です。
嘘をついている人は時系列を逆で話すことが難しい【嘘を見抜くテクニック】 https://t.co/tGG28NRxwu
— 赤べコム (@akabecom) February 24, 2026
人は本当の体験を話すとき、記憶をたどりながら自然に思い出します。多少あいまいでも、「その場の情景」や「感情」と結びついたエピソードとして再生されます。
一方で、嘘は「作り話」です。あらかじめ筋道を組み立てておき、それを崩さないように注意深く話します。そのため、
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設定に矛盾が出ないようにする
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余計なことを言わないようにする
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相手の反応を気にしながら調整する
といった“追加の負荷”がかかります。
ここでポイントになるのが「認知負荷(cognitive load)」です。人間の脳が同時に処理できる情報量には限界があります。嘘をつくときは、この負荷がすでに高い状態になっています。
そこに「では、今の話を最後から順番に話してください」と求めるとどうなるでしょうか。
研究の内容
この手法を実験的に検証したのが、心理学者のAldert Vrijらの研究です。論文は学術誌Law and Human Behaviorに掲載されました。
実験では、参加者の一部に「本当の出来事」を語ってもらい、別の一部には「嘘の出来事」を語ってもらいました。そして、通常の順番(最初から最後)で話してもらう場合と、逆順で話してもらう場合を比較しました。
結果は次の通りです。
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逆順で話すと、嘘をついている人のほうが明らかに困難を示した
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話の矛盾や言い直し、沈黙が増えた
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観察者の嘘の見抜き精度が向上した
つまり、「逆順で語らせる」ことによって、嘘をつく人の認知的負荷がさらに高まり、ほころびが出やすくなることが確認されたのです。
ただし万能ではない
ここで大切なのは、「逆順=確実に嘘がバレる」という意味ではない、という点です。
この研究は主に実験室環境で行われています。現実の場面では、
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本当の記憶でも緊張すればうまく話せない
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もともと記憶力に差がある
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トラウマやストレスが影響する
といった要因も絡みます。
また、訓練された詐欺師や熟練の嘘つきであれば、逆順への対策を取る可能性もあります。
したがって、この方法は「確実な嘘発見装置」ではなく、「判別の精度を少し高める補助手段」と理解するのが妥当です。
なぜこの研究が面白いのか
この研究の面白さは、「嘘のしぐさ」や「目線」などの曖昧なサインではなく、脳の情報処理の仕組みそのものに着目している点にあります。
従来よく言われる「目をそらすと嘘」「まばたきが増えると嘘」といった俗説は、科学的には支持が弱いとされています。それに対して、逆順想起は「認知負荷」という理論に基づいています。
つまり、
嘘は“悪い性格”の問題ではなく、“脳の処理能力”の問題として考える
という視点転換があるのです。
日常でどう使うべきか
とはいえ、日常生活で誰かを試すように「じゃあ逆から言ってみて」と迫るのは、人間関係を壊しかねません。
この知見はむしろ、
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自分が嘘をつくとどれほど負荷がかかるかを理解する
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証言の信頼性を冷静に評価する視点を持つ
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刑事司法や調査面接の技術を知る
といった文脈で役立つものです。
まとめ
この記事の内容は、実在する心理学研究に基づいたものです。逆順で話すことが難しいというのは、単なる経験則ではなく、「認知負荷の増大」という理論的背景があります。
ただし、精度は限定的であり、万能の嘘発見法ではありません。あくまで「一つの有効な方法」として理解するのが適切です。
科学ニュースは刺激的な見出しになりがちですが、その背後にある研究の枠組みや限界まで知ると、より落ち着いた目で読むことができます。今回の記事も、そのような視点で読むと、十分に参考になる内容だと言えるでしょう。


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