かつて「邪魔者扱い」されていた路面電車が、なぜ今、注目を浴びているのでしょうか。2023年に宇都宮市で開業した芳賀・宇都宮LRT「ライトライン」をはじめ、全国各地でLRT(次世代型路面電車)の導入構想が浮上しています。
今回は、路面電車がなぜ一度廃れ、そして今なぜ復活しているのか、そのメリット・デメリット、そして今後の歩行者中心の街づくりについて詳しく解説します。
なぜ路面電車は一度廃れたのか?~首都圏の事例から読み解く
路面電車が復権 「時代遅れ」が街づくりの要に、各地でLRT導入構想https://t.co/TOVE0QDXkf
— 日本経済新聞 電子版(日経電子版) (@nikkei) September 20, 2025
路面電車の最盛期は戦前の1932年で、当時は全国67都市で83事業者が運行していました。東京では都営の路面電車「都電」が網の目のように走り、横浜市でも1904年から1972年まで約70年間、市電が市民の足として愛され続けていました。
しかし、戦後の高度経済成長期に状況は一変します。マイカーの普及と道路優先の都市政策により、路面電車は「交通渋滞の元凶」として邪魔者扱いされるようになったのです。東京都電は1972年までに荒川線を除いて全廃され、横浜市電も同年に完全廃止となりました。
廃止の主な理由は以下の通りです:
- 自動車交通の増加による慢性的な交通渋滞
- より輸送能力の高い地下鉄への置き換え
- レールや車両の維持費用の増大
- 郊外への人口分散による利用者減少
路面電車復活の世界的潮流
1990年代の欧州で路面電車の見直し機運が高まったのには、いくつかの社会的背景がありました。排気ガス問題による環境意識の高まり、高齢化社会に対応したバリアフリー交通の必要性、そして中心街の賑わい復活を目指した都市再生政策です。
フランスでは1930年代にほぼ消えていた路面電車が、2006年にパリで69年ぶりに復活しました。ドイツ、イギリスなどでも新規開業が相次ぎ、現在では「車優先社会から人中心の社会へ」を掲げる都市が増えています。
国際公共交通連合の2021年の資料によると、世界では総延長1万5824キロのLRTネットワークが稼働しており、2015年以降、年平均1%ずつ増加し続けています。
路面電車・LRTのメリットとデメリット
主なメリット
1. 環境への優しさ LRTは乗客一人を1キロメートル運ぶ際に排出するCO₂が自家用車の約半分で、窒素酸化物の排出量も約3分の1に削減されます。
2. バリアフリー性能 低床車両の採用により、車いすやベビーカーでの乗降がスムーズで、高齢化社会に対応した移動手段として機能します。
3. 建設コストの優位性 地下鉄と比べて建設コストが格段に安く、開業も極めて早く実現できます。
4. 街づくりへの貢献 専用軌道の設置により、歩行者空間の創出や中心市街地の活性化に寄与します。
主なデメリット
1. 交通渋滞への影響 車線を減らして軌道敷を設置する場合、自動車交通に影響を及ぼす可能性があります。
2. 維持費用の負担 レールや架線の維持、車両更新には継続的な費用がかかります。
3. 騒音・振動問題 走行時の金属摩擦音や振動が、周辺住民に不快感を与える場合があります。
歩行者中心の街づくりへの転換
ヨーロッパの主要都市にはあって便利です。
日本も西日本には多いですが東北、関東はほぼゼロだったような。
東京には都電がありますね。路線が少ないけど。仙台市なんかは、運転手不足と赤字でバス路線減らしているので復活させてもいいのでは。 https://t.co/I4iAPJn8d1
— 有馬哲夫 (@TetsuoArima) September 20, 2025
現在、世界的に「ウォーカブルシティ」という概念が注目されています。これは自動車中心から歩行者中心の都市空間への転換を目指すもので、日本でも2020年度に国土交通省が「まちなかウォーカブル推進事業」を創設し、2022年6月現在で全国328都市が参加しています。
LRTが支える人中心の街づくり
宇都宮市では、LRT導入と併せて「公共交通や人が中心となる魅力ある空間の創出」を目標に掲げています。これは単なる交通手段の変更ではなく、都市空間そのものの再構築を意味します。
歩行者中心の街づくりにおけるLRTの役割は以下の通りです:
- 駅前や商店街など、人が集まるエリアの回遊性向上
- 自動車専用だった道路空間の歩行者・公共交通への再配分
- 低炭素で持続可能な都市交通システムの構築
- 高齢者や障がい者も含めた全ての人が移動しやすい環境整備
今後の展望と課題
日本では現在、浜松市、和歌山市、沖縄県那覇市などでLRTの新規開業計画が進んでいます。しかし、東京の池袋─東池袋間のように事実上とん挫した構想も少なくありません。
成功の鍵は「まちづくりと一体化した計画」にあります。単なる交通手段としてではなく、都市再生や地域活性化の中核として位置づけ、住民・行政・事業者が連携して取り組むことが重要です。
また、従来の路面電車のイメージを脱却し、現代のニーズに合わせた快適性と利便性を追求することも必要でしょう。低床車両や専用軌道の整備により、渋滞に巻き込まれない定時性の確保も重要な要素です。
まとめ
路面電車の復権は、単なる懐古趣味ではありません。環境問題、高齢化社会への対応、都市の持続可能性など、現代社会が抱える課題に対する解決策の一つとして再評価されているのです。
かつて「時代遅れ」とされた路面電車が、今度は「未来の街づくり」の要として注目されています。車中心から人中心の社会への転換が求められる中、LRTは単なる移動手段を超えて、より良い都市空間を創造するためのインフラとしての役割を担っているのです。
今後各地で進むLRT導入計画が成功するかどうかは、いかに地域の実情に合わせた計画を立て、住民の理解と協力を得られるかにかかっています。路面電車の復権は、私たちの街づくりに対する意識変革の象徴でもあるのです。
参考資料:
- JBPress「宇都宮ライトレール」がすごい!戦前の遺物「路面電車」が世界で大復活している理由
- HOMES「LRTとは何か。路面電車との違いや役割、都市にもたらす効果とは」
- Zatties「路面電車のメリットとデメリット|都市交通における7つのポイント」
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