
Instagramでは最近「食の知恵」と称したシリーズ動画が流れてきます。たとえば「日本の納豆はもう食べないでくれ」というセンセーショナルな動画は、「市販の納豆は危険だから食べるな」としていますが、現在の科学的知見からは疑問符がつきます。
納豆といえば、食卓では、最も身近で安価な健康食品です。
動画では、その納豆について、市販のタレに含まれるたんぱく加水分解物、外国産大豆の農薬や発酵方法などについて危険性が強調されています。
「たんぱく加水分解物は危険、発がん」説
「タレの原材料を見てみろ。たんぱく加水分解物、薬品で無理やり作ったやばい調味料。作る過程で発がん性物質が出るんだよ。」と動画では述べています。
「たんぱく加水分解物」は、大豆やトウモロコシなどのたんぱく質を分解して作るうま味調味料です。
確かに昔から、「酸で分解する製法」「高温処理」によって、ごく微量の望ましくない物質(3-MCPDなど)が生成することが問題になったことがあります。
しかし現在は、「製造基準」「品質管理」「規制」があり、日本で流通している食品について「発がんリスクが高いから避けるべき」というレベルではありません。
そもそも、たんぱく加水分解物は、食品全体の「数%以下」のごくわずかな量しか使われていません。
ですから、1日の摂取量に対する国内外の機関による法的な制限(許容量)すらありません。
たとえば、農水省は、3-MCPD脂肪酸エステル類について、食品安全委員会の考え方を次のように紹介しています。
「日本における国民平均の摂取量は、JECFAが設定した耐容一日摂取量を大きく下回っており、健康への懸念はないと考えられる。」
ここでいう「耐容一日摂取量(TDI)」とは、「毎日一生摂取しても健康影響が出ないと考えられる量」です。
WHO・FAO合同専門家会議(JECFA)という国際機関でも、「一般的な摂取量なら許容範囲」といいます。
納豆のタレ自体が、ごく僅かな量です。
その程度のリスクなのです。
「化学調味料で味覚が狂う」説
動画では、「(タレの)化学調味料、毎日摂り続けると味覚が狂うんだよ。」と警鐘を乱打しています。
これは、カップ麺で「中華料理症候群(チャイニーズ・レストラン・シンドローム)」と叩かれた、グルタミン酸ナトリウム(MSG)などのうま味調味料のことを指しています。「味の素」のことですね。
MSGについては世界中で研究されており、リスクを支持する確かな証拠はありません。
カップ麺の現実的な問題は、塩分とか、脂質とか、別のことです。
「外国産大豆は収穫前に農薬を大量散布している」説
「外国の大豆、収穫前に農薬剤ドバドバかけて枯らしてから収穫してるんだよ。だから農薬がめちゃくちゃ残ってる。この農薬が腸の中のいい菌を殺してしまう。(中略)本当に体おかしくなるぞ。」と動画では口角泡を飛ばして力説しています。
収穫前に除草剤(グリホサートなど)を使用することはたしかに以前から言われていましたが、日本には残留農薬基準があります。
また、「腸内細菌が殺される」についても、人間が食品から摂取するレベルでそのような影響が確認されているわけではありません。そのような報告はありません。
「国産大豆納豆のほうが良い」説
「国産大豆でちゃんと発酵させた納豆は腸の善玉菌を増やして免疫力を高めてくれる。」と動画ではうんちくを垂れています。
が、「発酵温度」「発酵時間」について、大手メーカーは情報を公開しています。
外国産だから「ちゃんと発酵させない」なんていうことはなく、これは国産も外国産も同じです。
また、国産材料だから栄養価が優れているということもありません。
各国の大豆の比較研究によれば、品種による違いはあるが、「産地間で意味のある差は見られなかった」と報告されています。
※「Comparison of nutritional components in soybean varieties with different geographical origins」(2011年、)
https://link.springer.com/article/10.3839/jksabc.2011.040?utm_source=chatgpt.com
※「Evaluation of seed chemical quality traits and sensory properties of natto soybean」(2013年)
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0308814613018827?utm_source=chatgpt.com
不安を煽り導線とする
では、動画はなぜそんなセンセーショナルなことを叫ぶのでしょうか。
この動画の最後には、「市場の納豆は絶望的だが、納豆とコメントしてくれたらDMで本物の納豆を教える」という「お誘い」があります。
これはSNSでよく見られるマーケティング手法です。
健康不安をあおり、市販品を否定し、「これが本物だ」「これを買えば解決する」などと言って商品やサービスを売りつける商法は、一般的に「不安商法」と呼ばれます。
もちろん、「国産を応援したい」「農薬使用方針が気になる」「生産履歴の見える商品を選びたい」という理由で、国産大豆納豆を選ぶ選択に合理性はあります。
ただ、納豆の健康効果(タンパク質、ビタミンK、ナットウキナーゼ、イソフラボンなど)は、外国産大豆を原料とした一般的な市販納豆でも、十分期待できると考えるのが現在の科学的な理解です。
※「ナットウの科学的特徴と機能性」(2022年)
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9616652/?utm_source=chatgpt.com
結論を述べると、この動画の警告は、私は気にしなくてもいいと思いました。
みなさんは、納豆のお好きなブランドはありますか。
私は、オーケーストアのショップ・ブランド「水戸納豆」が安い(タレ無しで50g×4パック本体価格89円)のでお気に入りです。



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