「留学生は宝」か、それとも「日本人学生の不利益」か? 留学生をめぐる多様な意見から受入れのメリットと課題を整理する

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「留学生は宝」か、それとも「日本人学生の不利益」か? 留学生をめぐる多様な意見から受入れのメリットと課題を整理する

近年、日本の大学における留学生の存在をめぐって、さまざまな意見が交わされています。「国費留学生は日本人学生より優遇されすぎている」「留学生が日本人学生の奨学金を奪っている」といった批判がある一方で、「留学生は日本にとって貴重な財産だ」という肯定的な見方もあります。岸田元総理大臣が「留学生は宝だ」と発言したことも話題になりました。

この問題は単純に「良い」「悪い」で割り切れるものではありません。留学生受入れには確かにメリットもあれば、デメリットや課題も存在します。本記事では、留学生をめぐる多様な意見を整理し、バランスの取れた視点でこの問題を考えていきます。

批判的な意見:日本人学生への不利益を指摘する声

国費留学生の優遇問題

「日本人学生より国費留学生のほうが金銭的に優遇される」という指摘は、一部の事実に基づいています。文部科学省の「国費外国人留学生制度」では、選考に合格した留学生に月額117,000~148,000円の奨学金が支給され、往路の航空券も支給されます。これに対し、日本人学生向けの給付型奨学金は競争率が高く、全員が受け取れるわけではありません。

「同じ大学で学ぶ学生なのに、国籍によって支援に差があるのは不公平だ」という意見は理解できます。特に経済的に苦しい日本人学生から見れば、留学生が手厚い支援を受けているように映ることもあるでしょう。

教育資源の配分に関する懸念

「留学生の増加により、日本人学生への教育資源が不足している」という声もあります。日本語のサポートや生活指導に教職員の時間が割かれることで、日本人学生への指導が手薄になる可能性が指摘されています。

また、留学生向けに英語で開講される授業が増える一方で、日本語で行われる専門授業が減少しているという指摘もあり、これが日本人学生の学習機会を狭めているという批判もあります。

肯定的な意見:留学生がもたらす多様なメリット

経済的貢献:私費留学生の存在

「大多数は私費留学生であり、日本人学生から奨学金や補助金を奪っているのではなく、むしろお金を日本に落としている」という意見は重要な視点です。実際、日本学生支援機構(JASSO)の調査によると、留学生の約76%は私費留学生で、学費や生活費を自己負担しています。

これらの留学生は家賃、食費、娯楽費などで地域経済に貢献しています。特に地方大学にとって、留学生は貴重な収入源となっているケースも少なくありません。

教育的・文化的価値

留学生は教室に多様性をもたらし、日本人学生に「外国についての知識を与え、日本を外国から見る機会を与え、教室での議論を活発化させる」という点は大きなメリットです。グローバル化が進む現代、異なる文化的背景を持つ人々と協働する能力はますます重要になっています。

留学生との交流を通じて、日本人学生は自国の文化を相対化して見る機会を得られます。これは教科書だけでは得難い貴重な学びです。また、留学生の存在そのものが日本人学生の国際意識を高め、語学学習の動機付けとなることもあります。

長期的な国際関係への貢献

「留学生は宝だ」という岸田氏の発言は、留学生が将来の日本と母国との架け橋となる可能性を指摘したものと考えられます。日本で学んだ留学生は、帰国後も日本に対して友好的な感情を持ち続ける傾向があり、これは長期的に見て日本のソフトパワーとなります。

経済面でも、日本企業の海外進出時に現地人材として活躍するケースや、母国と日本のビジネスを仲介する役割を果たすケースが見られます。留学生への教育投資は、将来の国際関係における日本のポジションを強化するという側面もあるのです。

データから見る留学生の現状

留学生数の推移と構成

日本学生支援機構の調査によると、2022年5月時点の日本における留学生数は約23万人です。この数は2008年に約14万人だったのが、2020年には約28万人まで増加した後、コロナ禍で減少し、現在回復傾向にあります。

留学生の内訳を見ると、中国が約43%と最も多く、次いでベトナムが約24%、ネパールが約7%となっています。アジア諸国からの留学生が全体の90%以上を占めています。

留学生の経済的状況

「留学生は優遇されている」というイメージとは裏腹に、実際には多くの留学生が経済的困難に直面しています。ある調査では、留学生の約60%が「経済的に苦しい」と回答しています。アルバイトに多くの時間を割かざるを得ず、学業に専念できない留学生も少なくありません。

特に私費留学生の場合、学費と生活費を自分で賄わなければならず、母国との為替レートの変動が大きな負担になることもあります。国費留学生は確かに手厚い支援を受けていますが、全体から見ればごく一部に過ぎません。

留学生政策の国際比較

諸外国の留学生受け入れ状況

留学生をめぐる議論をより深く理解するためには、国際比較の視点が役立ちます。アメリカやイギリス、オーストラリアなどの英語圏諸国は、留学生から高額の学費を徴収し、教育産業として成立させています。これらの国では、留学生が大学の重要な収入源となっています。

一方、ドイツやフランスなどの欧州諸国は、留学生に対しても自国民と同様の低学費を適用している場合が多く、より開かれた政策を採用しています。各国の政策は、その国の高等教育の目的や国際戦略を反映したものと言えます。

日本の政策の特徴

日本の留学生政策は、これらの国々の中間的な位置にあると言えるでしょう。国費留学生制度は手厚い一方、私費留学生への支援は限定的です。また、卒業後の就職支援や移民政策との連携が不十分で、せっかく日本で学んだ人材を活かしきれていないという指摘もあります。

「留学生30万人計画」といった数値目標を掲げる一方で、質の高い教育環境を維持するための具体的な施策が追いついていない面もあるようです。

バランスの取れた留学生政策に向けて

日本人学生との公平性をどう確保するか

留学生と日本人学生の間の公平性を確保するためには、現行制度の見直しが必要かもしれません。例えば、国費留学生の選考基準をより透明化し、その優秀さを明確に示すことで、日本人学生の理解を得やすくなる可能性があります。

また、日本人学生向けの奨学金制度を拡充し、経済的支援の格差を縮小することも重要です。留学生と日本人学生が互いに尊重し合える環境を作るためには、双方のニーズにバランスよく応える政策が求められます。

教育の質を維持しながら多様性を促進する

留学生の増加に伴い、教育の質をどう維持するかも重要な課題です。日本語能力が不十分な学生へのサポートを強化するとともに、日本人学生が不利益を被らないようなカリキュラム設計が必要です。

例えば、留学生向けの日本語補習授業と日本人学生向けの専門授業を分離し、それぞれの学習ニーズに応える工夫が考えられます。また、異文化間の摩擦を減らすためのオリエンテーションや交流プログラムの充実も効果的でしょう。

卒業後の人材活用に向けた取り組み

留学生への投資を真の「宝」とするためには、卒業後の活躍の場を確保することが不可欠です。現在、日本で就職する留学生は全体の約30%程度と言われています。日本語能力や就職活動の仕組みなど、留学生が日本で働き続ける上での障壁を取り除く必要があります。

特に優秀な人材が日本に残留し、日本の産業や学術に貢献できるよう、在留資格の柔軟化や就職支援の強化が求められます。留学生の能力を最大限に活かすことが、結果的に日本の国際競争力を高めることにつながるでしょう。

おわりに:多様性を受け入れる成熟した社会へ

留学生をめぐる問題は、単なる教育政策の議論にとどまりません。これは、日本がどのような社会を目指すのかという根本的な問いかけでもあります。多文化共生を推進するのか、それともより閉鎖的な方向に向かうのか、私たち一人一人が考えるべき課題です。

確かに現行制度には改善の余地があり、日本人学生の不満が全くの的外れとは言えません。しかし同時に、留学生がもたらす恩恵もまた事実です。重要なのは、双方の立場を理解し、より公平で持続可能な制度を構築することでしょう。

「留学生は宝」という言葉が真実となるためには、単に留学生を受け入れるだけでなく、彼らが真に活躍できる環境を整え、日本人学生とのWin-Winの関係を築くことが不可欠です。多様性を受け入れ、それを力に変えていくことが、成熟した社会の証と言えるのではないでしょうか。

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