
こんにちは。皆さん、最近「抹茶」を口にしましたか?
カフェで抹茶ラテを楽しむ、スイーツコーナーで抹茶味のお菓子を手に取る――そんな光景は、今や日本だけでなく世界中で当たり前になりつつあります。
しかし、その世界的なブームが、日本の伝統的な「お茶」の世界に、ある種のジレンマをもたらしているのをご存知でしょうか。
最近、ニュースで「日本茶の品薄や価格上昇」という話題を目にされた方も多いと思います。一見すると矛盾するこの現象、その背景には、実は「抹茶」を中心とした世界的な需要の急増があるのです。今日は、このニュースをきっかけに、改めて抹茶の魅力と、私たちの身近な日本茶との関わり方について考えてみたいと思います。
世界を席巻する「抹茶ブーム」の実態
日本の伝統的な飲み物「お茶」が品薄や価格上昇 背景には…世界的な抹茶ブーム|日テレNEWS NNN https://t.co/tSBGQ7eBYa
— 福島中央テレビ報道部【公式】 (@fctnews1) November 5, 2025
抹茶は今、まさにグローバルなスーパーフードとして注目を集めています。北米やヨーロッパを中心に、その需要は年々右肩上がりで増加しています。コーヒーチェーン各社が抹茶メニューを強化していることも、ブームを後押ししています。
なぜ、ここまで抹茶は世界で愛されるのでしょうか?その理由は、以下のような点に集約されます。
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独特の風味: 深いうま味(グルタミン酸)と、ほろ苦さ、そして甘みの絶妙なバランスが、様々な食材や飲料と調和します。
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インスタグラム映え: 鮮やかな緑色が視覚的に魅力的で、SNS時代の「映える」商品として最適です。
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健康効果への期待: まさにこれが最大の要因と言えるでしょう。
抹茶は「飲む栄養食」!その驚くべき健康効果
抹茶は、茶葉自体を丸ごと摂取するため、緑茶(煎茶)よりもはるかに多くの栄養成分を体内に取り入れることができます。主な栄養成分とその効果を見てみましょう。
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カテキン: 強力な抗酸化作用により、老化の原因となる活性酸素を除去します。免疫力向上や、生活習慣病の予防が期待されています。
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テアニン: お茶のうま味成分です。リラックス効果をもたらし、集中力を高める働きがあります。カフェインとの相乗効果で、穏やかながら持続する覚醒作用が生まれます。
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カフェイン: 覚醒作用や疲労回復効果があります。テアニンと共存することで、コーヒーのような急激な興奮ではなく、落ち着いた集中状態を作り出します。
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食物繊維: 茶葉を丸ごと摂るため、水溶性・不溶性の両方の食物繊維を豊富に含み、整腸作用が期待できます。
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ビタミン類: ビタミンC、E、β-カロテンなど、美容と健康に欠かせないビタミンが豊富です。
つまり、抹茶はリラックスしながら集中力を高め、抗酸化作用で体を内側からケアしてくれる、まさに「機能性飲料」の理想形なのです。
知っておきたい!抹茶と煎茶、玉露の違い
「日本茶」と一口に言っても、その種類は多岐にわたります。特に混同されがちな抹茶、煎茶、玉露の違いを整理しておきましょう。
| 特徴 | 抹茶 | 煎茶 | 玉露 |
|---|---|---|---|
| 栽培方法 | 収穫前約20日間、覆いをして日光を遮断 | 日光を浴びて育てる | 収穫前約20日間、覆いをして日光を遮断 |
| 製法 | 蒸した茶葉を揉まずに乾燥させ、石臼で挽く | 蒸した茶葉を揉みながら乾燥させる | 煎茶と同様に揉みながら乾燥させる |
| 飲み方 | 茶葉を湯に溶かして飲む(全体を摂取) | 湯で成分を抽出して飲む(茶葉は捨てる) | 煎茶と同様に抽出して飲む |
| 味わい | 濃厚なうま味、コク、ほどよい渋み | さわやかな香り、程よい渋みと爽やかなうま味 | 遮光によりテアニンが増加。強いうま味、まろやかで渋みが少ない |
抹茶と玉露は、ともに「覆い下栽培」という共通点があります。これによって、うま味成分であるテアニンが渋味成分(カテキン)に変わるのを防ぎ、格段にうま味が強くなります。しかし、抹茶は茶葉を丸ごと飲み、玉露は抽出して飲むという根本的な違いがあります。
シーンで使い分けたい!日本茶の楽しみ方
それぞれの特性を理解すれば、日々の生活に合わせた楽しみ方が広がります。
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抹茶: 集中したい仕事や勉強の前、あるいはリラックスタイムに。栄養補給としての側面も強いので、健康意識が高い時に。また、スイーツや料理に使うのもおすすめです。
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煎茶: 日常的に、さっぱりと楽しみたい時に。食後や、ほっと一息つきたい時にも最適です。気軽に楽しめるのが魅力です。
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玉露: 特別な日や、ゆったりと時間をかけてお茶の深い味わいを楽しみたい時に。少量を低温でじっくり抽出し、その豊かな香りと甘みを堪能しましょう。
品薄・価格上昇の背景と、私たちにできること
中国 日本の技術導入で抹茶の量産化進む 世界的ブーム受けhttps://t.co/khpogekWs8 #nhk_news
— NHKニュース (@nhk_news) October 25, 2025
さて、本題のニュースに戻りましょう。なぜ抹茶ブームが、日本茶全体の品薄や価格上昇につながっているのでしょうか。
その理由は、原料の取り合いにあります。
抹茶の需要が急激に増えると、原料となるてん茶(抹茶の原料となる碾茶)の需要も当然ながら増加します。しかし、このてん茶を生産するには、覆い下栽培という手間とコストのかかる方法が必要で、生産量をすぐに増やすことが難しいのです。その結果、限られたてん茶をめぐって価格競争が起こり、原料の高騰を招いています。
さらに、この影響は抹茶だけでなく、同じ覆い下栽培で作られる玉露にも波及しています。原料の確保が難しくなり、価格に反映され始めているのです。また、農家さんによっては、通常の煎茶用の茶畑を、収益性の高い抹茶原料用に転換する動きも出ており、それが結果的に煎茶の供給量にも影響を与える可能性があります。
では、私たち消費者にできることは何でしょうか?
まずは、この状況を「知る」ことです。そして、「抹茶だけ」ではなく、煎茶や玉露、番茶、ほうじ茶など、多様な日本茶の魅力を改めて見直してみることが大切ではないでしょうか。それぞれに個性と良さがあります。世界が認めた抹茶の素晴らしさは誇るべきですが、同時に、私たちの身近にある、実に多様な日本茶の世界を、これからも大切に育て、楽しみ続けていきたいものです。
世界の注目を浴びる抹茶。その人気は、日本の食文化が再評価されている証でもあります。このブームを一過性のものに終わらせず、日本の茶業界全体が持続可能な形で成長していくことを願わずにはいられません。次に抹茶や日本茶を手に取る時、その一杯の向こうにある、広い世界に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

Nutrient Library-8 緑茶の健康力 – インタビュー:静岡県立大学名誉教授・農学博士 小國 伊太郎, インタビュー:静岡県立大学名誉教授・茶学術研究会会長・農学博士 横越 英彦


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