「天才」たちの活躍は「この能力は生まれつきか、それとも努力や環境によって身につけたものなのか」という疑問に直面します。

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「天才」たちの活躍は「この能力は生まれつきか、それとも努力や環境によって身につけたものなのか」という疑問に直面します。

将棋界で史上最年少の21歳で全タイトルを独占した藤井聡太八冠、大リーグで二刀流としてMVPと本塁打王を獲得した大谷翔平選手。昨今はこうした「天才」たちの活躍が注目されています。

彼らの驚異的な才能を見る時、私たちは必然的に「この能力は生まれつきのものなのか、それとも努力や環境によって身につけたものなのか」という古来からの疑問に直面します。

双子研究が明かす遺伝と環境の真実


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慶應義塾大学の安藤寿康名誉教授は、30年以上にわたって1万組を超える双子を調査し、人間の行動における遺伝の影響を研究してきました。行動遺伝学という分野では、一卵性双生児と二卵性双生児を比較することで、遺伝と環境のどちらがより大きな影響を与えるかを科学的に解明しています。

一卵性双生児は遺伝子の一致度が100%である一方、二卵性双生児はそうではありません。しかし、どちらも同じ家庭で育ち、中学校ぐらいまでは同じ学校に通うことが多いため、環境的な要因はほぼ同じです。この条件を利用して、様々な能力や特性について大規模調査を行うことで、遺伝の影響度を数値化できるのです。

例えば、身長や体重については一卵性双生児の一致度が非常に高く、二卵性双生児では数値のバラツキが大きくなります。同じ家庭で同じような食事を摂っているにもかかわらずこの違いが生じるということは、身長・体重は環境よりも遺伝によって決まる要素が大きいことを示しています。一方、飲酒や喫煙の習慣については、一卵性と二卵性の差がそれほどなく、これは遺伝よりも酒やたばこが身近にあるかどうかという環境的要素の影響が大きいことを表しています 朝日新聞

遺伝レベルでの向き不向きを知る方法

多くの人が知りたいのは「自分の遺伝的な向き不向きをどうやって知ることができるのか」ということでしょう。現在のところ、一般的に利用できる遺伝子検査では、個人の複雑な能力や性格を正確に予測することは困難です。

しかし、自分の得意・不得意を知るヒントは日常生活の中にあります。何かを学ぶ時の理解の速さ、興味を持続できる分野、自然に身につく技能などは、遺伝的な素質を反映している可能性があります。重要なのは、遺伝的な素質があるからといって努力が不要ということではなく、むしろその素質を最大限に活かすために適切な環境と継続的な努力が必要だということです。

配偶者選択と子どもの能力への影響

「配偶者に高学歴などの条件を求めるのは正しいのか」という問いに対して、行動遺伝学の知見は興味深い示唆を与えています。確かに学力や知能には遺伝的な要素が関与していることが研究で示されていますが、これだけで配偶者選択を決めることには問題があります。

第一に、遺伝は複雑な相互作用によって表現されるため、両親の能力が単純に子どもに受け継がれるわけではありません。第二に、高学歴が必ずしも遺伝的な能力の高さを意味するとは限らず、教育環境や社会的背景の影響も大きく関わっています。第三に、人間の価値や魅力は学力だけで決まるものではなく、創造性、共感性、リーダーシップ、芸術的センスなど、多様な能力や特性があります。

より重要なのは、子どもが生まれた後にどのような環境を提供できるかということです。愛情深く、知的好奇心を刺激し、多様な経験を積める環境を作ることが、遺伝的素質を最大限に活かすために不可欠なのです。

遺伝と環境の相互作用の重要性

現代の行動遺伝学が明らかにしているのは、遺伝と環境が独立して働くのではなく、複雑に相互作用しているということです。遺伝的な素質があっても、それを発揮できる環境がなければ才能は開花しません。逆に、どんなに恵まれた環境があっても、本人の努力や適性がなければ大きな成果は期待できません。

例えば、音楽的な才能について考えてみましょう。遺伝的に音感が優れていても、楽器に触れる機会がなければその才能は発見されません。また、楽器を習い始めても、継続的な練習や適切な指導がなければ、才能を十分に伸ばすことはできないでしょう。

現代社会における才能の多様性

藤井聡太八冠や大谷翔平選手のような突出した才能を見ると、「自分には特別な才能がない」と感じる方も多いかもしれません。しかし、才能は決して限られた分野にだけ存在するものではありません。

人とのコミュニケーション能力、問題解決能力、創造性、持続力、協調性など、現代社会で求められる能力は多岐にわたります。また、テクノロジーの発達によって新しい分野が次々と生まれており、これまで評価されなかった能力が重要になることもあります。

まとめ:才能を最大化するための心構え

双子研究から得られる最も重要な教訓は、才能が「生まれか育ちか」という二択の問題ではないということです。遺伝的な素質は確実に存在しますが、それを活かすも殺すも環境と努力次第なのです。

私たち一人ひとりにできることは、自分の特性を理解し、それを活かせる環境を見つけ、継続的に努力することです。子どもを持つ親としては、多様な経験を提供し、子どもの興味や適性を見つけるサポートをすることが重要です。

そして配偶者選択においては、学歴や表面的な条件よりも、共に良い家庭環境を築き、子どもの成長を支えあえるパートナーかどうかを重視すべきでしょう。

才能は天から与えられた固定的なものではなく、遺伝的素質と環境、そして個人の努力が織りなす複雑で動的なものです。この理解を深めることで、私たちはより豊かで充実した人生を送ることができるのではないでしょうか。

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