笠原良三さんの生まれた日に社長シリーズ、クレージー映画シリーズ、若大将シリーズ、父ちゃんのポーが聞こえる等を振り返る

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笠原良三さんの生まれた日に社長シリーズ、クレージー映画シリーズ、若大将シリーズ、父ちゃんのポーが聞こえる等を振り返る

笠原良三さん(1912年1月19日~2002年6月22日)の生まれた日です。脚本家として多くの作品を世に送り出していますが、1955年に東宝と契約してから手掛けた森繁久彌社長シリーズ、植木等の日本一シリーズ、加山雄三の若大将シリーズなどが有名です。

笠原良三とは誰だ

笠原良三さんは、日本大学芸術学部を中退⇒日活多摩川撮影所脚本部⇒新興シネマ脚本部⇒大映東京撮影所、そして1955年に東宝撮影所と契約しました。

1960年代の東宝の屋台骨を支えたと言われるシリーズ物を手掛けました。

森繁久彌の社長シリーズは、全33作をすべて書ききりました。

植木等主演、もしくはクレージーキャッツが全員出演する東宝クレージー映画(全30作)では、日本一シリーズが10作中4作。クレージー作戦シリーズが14作中4作。時代劇が4作中1作手掛けています。

加山雄三の代名詞とも言える若大将シリーズは、シリーズの基本部分となる4作目までを執筆しています。

東映の『仁義なき戦い』を執筆した笠原和夫さんや、東宝の若大将シリーズやクレージー映画を手掛けた田波靖男さんらは弟子だそうです。

1960年代は、社長シリーズとクレージー映画、若大将シリーズなど、東宝だけで65本を執筆されています。

『続・社長紳士録』(1964年、東宝)


社長シリーズは、全33作と書きましたが、実はこの21作目の『続・社長紳士録』(1964年、東宝)で終了する予定でした。

後に映画館主やファンの意向からシリーズは続行されることになりましたが、スタッフ、俳優とも最後のつもりで作り上げたので、脚本には、監督の松林宗恵さんや脚本の笠原良三さんご自身などが森繁久彌と握手する華やかな大団円フィナーレシーンで締めくくっています。

社長は森繁久彌、小林桂樹秘書、加東大介営業部長、三木のり平総務部長(別名宴会部長)、取引相手がフランキー堺。

社長が浮気をしたいのに、いつもできずに終わるマダムズが新珠三千代と草笛光子です。

ストーリーは毎回、プロジェクトを達成するハッピーエンドです。

最終回と思ったからか、新珠三千代が、普段は顔が大きく見えるからとつけない高島田かつらをつけているのが特徴です。

『続・社長紳士録』より

『続・社長紳士録』より

『クレージー黄金作戦』(1967年、東宝)


『クレージー黄金作戦』(1967年、東宝)は、東宝35周年記念映画として制作され、のべ293万人を全国で動員したヒット作です。

クレージー作戦シリーズというのは、クレージーキャッツ全員が出演するシリーズですが、第一作目の『クレージー作戦、先手必勝』は全員で何かをするというストーリーでしたが、シリーズが進むに連れ、植木等とハナ肇と谷啓の3人、もしくは植木等とハナ肇、植木等と谷啓、谷啓単独など、主演者は限られていきました。

本作も、植木等、ハナ肇、谷啓の3人を中心にストーリーが進んでいき、日本からハワイ、そしてロサンゼルスに舞台が動きますが、アメリカのラスベガスでは、全員が揃います。

ラスベガスの大通りをぶっつけ本番で止めて、クレージーキャッツの7人がラスベガスの大通りで歌い踊るのです。

『クレージー黄金作戦』より

『クレージー黄金作戦』より

この後は3人がホテルのショーを見るという設定で、ザ・ピーナッツ、ジャキー吉川とブルー・コメッツ、ジャニーズの歌と、ハナ肇とクレージーキャッツのコントが入ります。

ストーリーの中に、歌うシーンが入るのはこのシリーズのお約束です。

東宝クレージー映画の楽しさは十分に伝わる作品です。

『大学の若大将』(1961年、東宝)


『大学の若大将』(1961年、東宝)は、喜劇とうたっているわけではなく、あくまでも青春映画です。

ただし、根性や道徳などを掲げるものではなく、加山雄三演じる、よくも悪くも悪気のないすき焼き屋の坊っちゃんと、それを取り巻く人々の、ユーモラスなドラマツルギーが繰り広げられる点がコメディー調なのです。

本当は、『大学の若大将』『銀座の若大将』『日本一の若大将』の3作で、ストーリー的にはほぼ完結したのですが、人気作品となったため、基本的な設定と主要な登場人物はそのままに、しかし毎回のストーリーは『男はつらいよ』のようにつながっているわけではない、一話完結のパラレルものがその後も14作作られました。

加山雄三演じる田沼雄一は通称“若大将”。

すき焼き店「田能久(たのきゅう)」の長男であり、祖母・飯田蝶子、父・有島一郎、妹・中真千子の家族がいます。

後に、若大将の所属する部のマネージャー(江原達怡)が妹と結婚することになります。

若大将は、母親のいない父子家庭ですが、経済的にはとくに不自由はなく、性格もひねくれていない。

それどころか、頼まれると嫌とはいえない人のいいボンボンで、喧嘩も強く楽器もできるのだけれど、父親に迷惑ばかりかけて勘当も年中行事。

1日5食で授業中に早弁をするおおらかさです。

若大将を勝手にライバルと思い込んでいる、青大将こと石山新次郎(田中邦衛)が毎回登場します。

ヒロインは前半が星由里子のすみちゃん。後半は酒井和歌子のせっちゃんです。

毎回、ヒロイン以外の女性が出てきて、青大将の横恋慕などもあり、ヒロインがヤキモチを焼いたり誤解したりするが、最終的には関係は正常化します。

中でもシリーズ化を決定づけたのは、やはりこの『大学の若大将』と思いますが、圧巻は部活の合宿で、マネージャー(江原達治)が、田能久から肉を差し入れられたものの、霜降りの鉄板焼きに使う鉄板がないため、何とトイレの浄化槽のフタを使ってしまうシーンです。

『大学の若大将』より

『大学の若大将』より

食べているときマネージャーはとぼけていたものの、フタのない浄化槽に足を突っ込んだ管理人(沢村いき雄)が、においをつけたまま部室にやってきて、フタを見つけたことで部員にバレてしまうのは、もう60年前の映画で、ストーリーもわかっているのに笑えてしまいます。

『父ちゃんのポーが聞える』(1971年、東宝)


『父ちゃんのポーが聞える』(1971年、東宝)は、上掲のシリーズとは全く別の作品です。

ハンチントン舞踏病という難病で、体が少しづつ動かなくなり、やがて死を迎える少女(吉沢京子)が、片思いの男性(佐々木勝彦)への恋心に生きる張り合いを求め、C58の機関士である父親(小林桂樹)が、療養所の近くを通るたびに汽笛をポーっと鳴らして知らせる話です。

映画では、体が動かなくなり、ナースコールを押したいのに押せずに亡くなる最期になっていますが、実際には呼吸筋も動かなくなるため、窒息あるいは肺炎で亡くなることも少なくないそうです。

原作は、『父ちゃんのポーが聞こえる <則子・その愛と死>』(立風書房)です。

「笑い」を描く喜劇作品を書いている作家が、「涙」を流す闘病の作品も手がけるというのは、一見正反対の作品を書いているように見えます。

しかし、実はそれらは軌を一にしているテーマではないか、ということを最近考え始めました。

とくに喜劇(笑い)と言うと、巷間どこか見下した評価があります。

もちろん、その質はピンからキリまでありますが、風刺であったり、人間の弱さや醜さの描写であったりする喜劇も、闘病とは別の意味で、「人間の極限」について考えさせるモチーフではないかと云う気がします。

また、闘病記というと、「どうせ死ぬんだろ。暗い話は苦手だ」という人もおられますが、「どうせ死ぬ」までのプロセスは、100人いれば100通りあり、それぞれに価値があると私はおもいます。

西欧合理主義とヒューマニズムに根ざした喜劇

笠原良三さんは、ご自身の作品についてこう書かれています。

主に大衆娯楽を目的としたもので、いわゆる芸術作品ではありませんが、私自身、大衆の一人として、映画は、二三の特殊な例を除いて、それが本当の道だと思っております。しかし、娯楽のためとはいえ、親に反対され恋人と別れるとか、社長の対する忠誠から非人間的なことをあえてするかという、封建的人間像は書きたくありません。
やはり、西欧に発達した合理主義やヒューマニズムが、人間として生きるには大切なことだと思っているからです。したがって、私のサラリーマンものの場合、社長といえども、普通の人間の一人であり、平社員といえども、人間としてのプライドを持っているように書くことにしています。
謹厳にしてかつ人格高潔たらんとする社長も、人間なればこそ美女を見ればよろめきたくなり、奥さんもこわいという、喜劇のシチュエーションが生まれます。またともすれば、長いものにまかれたくなる平社員も、どたんばになれば、やはり、人間としての自覚に目覚め、生殺与奪の権をにぎる上役に反抗する勇気をふるいたたせるのです。

何が書かれているかというと、要するに、旧弊な封建的人間像を否定して、自由とヒューマニズムを両立させる人間像を描きたい、ということが書かれています。

もちろん、上掲以外にもたくさんの作品を書かれましたが、とくに社長シリーズ、日本一シリーズ、若大将シリーズ、改めてご鑑賞をおススメします。

以上、笠原良三さんの生まれた日に社長シリーズ、クレージー映画シリーズ、若大将シリーズ、父ちゃんのポーが聞こえる等を振り返る、でした。

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