最近、「左向きで寝るだけで体の不調が改善される」という話題が注目を集めています。医学用語で「左側臥位(さそくがい・ひだりそくがい)」と呼ばれるこの寝姿勢について、本当に健康効果があるのでしょうか。
また、「右が下でないと胃から逆流しているような不快感がある」という声もありますが、実際のところはどうなのでしょうか。医師の見解を基に、睡眠姿勢と健康の関係について詳しく解説いたします。
左側臥位が注目される理由
近年の医学研究により、睡眠時の体位が健康に与える影響が明らかになってきました。特に左半身を下にして寝る「左側臥位」には、複数の健康効果が期待されています。
胃酸逆流の軽減効果
最も注目されているのが、逆流性食道炎の症状軽減効果です。東長崎駅前内科クリニックの研究によると、左側臥位では人体の構造上、胃と食道の境目が相対的に高い位置にくるため、胃の内容物が食道に逆流しにくくなります。
バンコク病院の医学的データでは、左側の姿勢では胃より食道の位置が高いため、逆流した酸が早く排除されることが示されています。逆流の回数に大きな差はありませんが、仰向けや右側での睡眠時間を減らすことで夜間の逆流症状を減らし、睡眠の質を改善できることが確認されています。
心臓機能と血流への好影響
国際ハートスリープクリニックの研究では、左側臥位が血流改善に効果的であることが報告されています。体の右側にある大静脈は、全身から集まってくる血液を心臓に送る重要な役割を担っており、左半身を下にして寝ると大静脈が心臓より上にある状態になるため、血液を効率的に心臓まで送り届けられるようになります。
東北大学の研究でも、他の体位に比べて左側臥位で心拍数が減少することが確認されており、これは心臓に負荷をかけにくい体勢であることを示しています。
リンパ系の活性化とデトックス効果
左側臥位は、体内の免疫機能の維持や老廃物の排出に欠かせないリンパ液の分泌を促進するとされています。リンパ液の流れがよくなることで脳内にたまる老廃物も排出されやすくなり、アルツハイマー型認知症の予防に効果があるとする研究も発表されています。
妊娠後期の女性への特別な効果
妊娠後期の女性には特におすすめです。子宮が広がることで腹圧が上がり胃酸が逆流しやすくなりますが、左半身を下にして寝ると症状の緩和が期待できます。また、仰向けで寝ると膨らんだ子宮が大静脈を圧迫してしまうため、横向きの睡眠が推奨されています。
右向き寝にもメリットがある
一方で、右側臥位(右向き寝)にも独自のメリットがあることを理解しておくことが重要です。
消化促進効果
胃の形状は体の右側に向かってカーブしているため、右を下にすると胃の出口が下側にくることで、胃の内容物が腸にスムーズに流れるようになります。まさに、効率的な消化が行える体勢といえるでしょう。消化が促進されると、便秘の改善効果が期待できます。
食後の体位として適している
南東北病院の研究では、胃で消化されたものを十二指腸に送り出すのに最適な姿勢は、体の右側を下にして横向に寝ることだとされています。胃がもたれたときは5分以上、体の右側を下にして寝ると改善されることが報告されています。
左側臥位のデメリットと注意点
左側臥位には多くのメリットがありますが、注意すべき点もあります。
体の歪みと筋肉への負担
横向き寝のデメリットとして、体の片側を下に向けることで片側に負担が集中し、圧迫された状態になることが挙げられます。体の片側が圧迫されると、血行不良や筋肉の緊張、体の歪みが生じる可能性があります。
心臓への圧迫
医学研究によると、左側臥位になると左の体幹が圧迫されると同時に心臓も圧迫される可能性があります。これによって心臓の十分な拡張が阻害され、送血量が減少する場合があることが報告されています。
肺機能への影響
側臥位の影響として、重力の影響で片方の肺が圧迫され、もう片方の肺がより広がりやすくなります。圧迫された側の肺は肺胞が縮小し換気が制限される可能性があります。
個人差を考慮した最適な寝姿勢の選び方
睡眠姿勢の選択は、個人の体質や抱えている症状によって異なります。
左側臥位が適している人
- 逆流性食道炎の症状がある方
- 胸やけに悩んでいる方
- 妊娠後期の女性
- いびきや睡眠時無呼吸症候群がある方
- デトックス効果を期待したい方
右側臥位が適している人
- 便秘に悩んでいる方
- 消化不良を感じやすい方
- 食後すぐに横になる必要がある方
- 左向きで不快感を感じる方
快適な横向き寝のためのポイント
横向きで寝る際の注意点として、以下のポイントを押さえておきましょう。
適切な枕の選択
背骨をまっすぐにして体への負荷が少ない姿勢で寝ることが重要です。横向きで寝るために作られた、高さがある枕をおすすめします。一般的な枕では、横になると肩が頭より下の位置にきてしまうため、背骨が曲がりやすくなってしまいます。
マットレスの見直し
横向きで寝る場合は片方の腕に負荷がかかります。特に硬めの布団で寝ると朝に腕のしびれや全身の痛みが出ることがあるため、体がほどよく沈む低反発素材などを検討してみてください。
寝返りの重要性
どちらかだけの姿勢に偏ると、特定の部位に負荷がかかって痛みが出たり、血液循環が悪くなることがあります。寝ている間に寝返りをうつことは、横向きで寝ることと同じくらい大切です。
習慣化のコツ
これまで仰向けで寝ていた人が急に横向きで寝るのは難しい場合があります。横向きになった状態で背中にタオルを重ねたり、タオルを詰め込んだ大きめのリュックを背負って眠るなど、横向きの姿勢を癖にすることを1か月くらい継続すると、自然と横向きで寝られるようになります。
まとめ:個人の体質に合わせた睡眠姿勢を
左側臥位には確かに多くの健康効果があることが医学的に証明されています。特に逆流性食道炎の症状軽減、心臓機能の改善、リンパ系の活性化などの効果は注目に値します。
しかし、「右が下でないと胃から逆流しているような不快感がある」という声も決して間違いではありません。右側臥位には消化促進効果があり、個人の体質や症状によってはより適している場合もあります。
最も重要なのは、自分の体の声に耳を傾けることです。左向きで不快感を感じる場合は無理をせず、右向きや適度な寝返りを取り入れながら、自分にとって最も快適で健康的な睡眠姿勢を見つけることが大切です。
睡眠の質を高めるためには、寝姿勢だけでなく、適切な寝具選び、規則正しい生活リズム、そして個人の体質を理解することが重要です。症状が続く場合は、専門医に相談することをおすすめします。
参考文献:女性セブンプラス、バンコク病院、東北大学研究、Medical Tribune
女性セブン 2025年 9月25日・10月2日合併号 [雑誌] 週刊女性セブン – 女性セブン編集部
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