2023年春以来再び訪れた「エッグショック」~「物価の優等生」と呼ばれた卵が卵高騰の原因と健康効果、そして対策を知る~

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2023年春以来再び訪れた「エッグショック」~「物価の優等生」と呼ばれた卵が卵高騰の原因と健康効果、そして対策を知る~

2025年9月、農林水産省の調査によれば、卵1パック(10個入り)の全国平均価格は303円となっています。これは平年より約3割も高く、2023年春に「エッグショック」と呼ばれた価格高騰に迫る水準です。

かつて「物価の優等生」と呼ばれた卵が、なぜこれほどまでに値上がりしているのでしょうか。そして、私たちの健康にとって卵はどれほど重要な食材なのでしょうか。今回は、卵高騰の原因から栄養価値、そして家計を守るための対策まで、幅広くご紹介します。

卵高騰の3つの主な原因

鳥インフルエンザの長期的影響

卵価格高騰の最大の原因は、高病原性鳥インフルエンザの流行です。昨年秋から今年にかけて、全体の6%以上にあたる約840万羽もの鶏が殺処分されました。

さらに深刻なのは、供給回復までの時間です。雛鶏が卵を産み始めるまでには約半年かかるため、一度減少した供給は簡単には元に戻りません。この「時間の壁」が、長期的な価格高騰の大きな要因となっています。

記録的猛暑によるニワトリの夏バテ

2025年の夏、記録的な猛暑が養鶏場にも大きな影響を与えました。高温環境下では、ニワトリが体温調節を優先するため、血液中のカルシウムが不足します。その結果、卵殻が薄くなり、輸送中に割れやすくなってしまうのです。

茨城県の養鶏場では、通常の卵と比べて明らかに小さい卵が確認されました。また、福井県では指で押すとへこむ「ブヨブヨ卵(軟卵)」も見つかっています。猛暑は卵の供給を量だけでなく、品質面からも揺るがしているのです。

季節需要の集中

9月は外食産業が「月見バーガー」や「月見スイーツ」を展開する月見商戦の時期です。その後、冬にかけてはクリスマスケーキやおせち料理、鍋料理など、卵需要が一段と高まる時期が続きます。供給が減っているタイミングで需要が集中することが、価格高騰をさらに加速させています。

飼料価格の上昇

日本ではニワトリの飼料の多くを海外からの輸入に頼っています。円安やウクライナ情勢の影響などで輸入飼料の価格が上昇しており、これも卵価格に反映されています。

卵の驚くべき栄養価値と健康効果

価格が高騰している今だからこそ、改めて卵の栄養価値を見直してみましょう。

完全栄養食品としての卵

卵は「完全栄養食品」とも呼ばれるほど、栄養バランスに優れた食品です。良質なたんぱく質はもちろん、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンB2、ビタミンB12、葉酸、カルシウム、鉄、カリウムなど、私たちの体に必要な栄養素が豊富に含まれています。

卵に含まれる必須アミノ酸のバランスは理想的で、体内での利用効率が非常に高いことが特徴です。また、卵黄に含まれるレシチンは脳の機能維持にも重要な役割を果たします。

コレステロール問題の真実

長年、「卵は1日1個まで」という説が信じられてきましたが、これは100年以上前のロシアでの実験(草食動物のうさぎに高コレステロール食を与えた実験)に基づく誤解でした。

日本人を対象とした最新の疫学研究では、健康的な食生活を営んでいる健常成人では、1日1個程度の卵の摂取が血清コレステロール濃度を上昇させたり、循環器疾患のリスクを高めることはないと判断されています。

実際、全体の約3分の2の人は卵の摂取に対して血清コレステロール濃度が応答しない「非応答者」であることがわかっています。ただし、残りの3分の1の「高応答者」や高コレステロール血症の方は注意が必要です。

健康効果を示す疫学調査

中国での約46万人を対象とした大規模研究では、卵を週に7個食べる人は、ほとんど食べない人に比べて循環器疾患を発症するリスクが11%低いという結果が報告されています。また、40万人を対象としたアメリカの研究では、卵を1日1個食べる人は脳卒中のリスクが12%減少したという報告もあります。

日本人にとって、卵は健康な食生活の構築に欠かせない食品であり、健康寿命に貢献する重要な食材と言えるでしょう。

価格高騰への実践的な対策

購入時の工夫

  1. まとめ買いを避ける:殻の薄い卵は保存中に割れやすいため、必要な分だけ購入しましょう。

  2. 直売所の活用:地域の養鶏場の直売所では、スーパーよりも安価に購入できることがあります。

  3. 広告の品を狙う:特売日を把握して、計画的に購入することで節約できます。

代替食材の活用

卵の栄養価を完全に代替することは難しいですが、料理の目的に応じて工夫できます。

  • たんぱく質源として:絹ごし豆腐、鶏ひき肉、うずら卵
  • つなぎとして:山芋、豆腐、マヨネーズ(少量)
  • お菓子作りで:バナナピューレ、ヨーグルト、長いも

調理の工夫

外食産業でも工夫が見られます。東京・吉祥寺のTKG専門店では、「わんこTKG」としてうずら卵を使うことで原価を安定化させています。家庭でも卵1個で作れる玉子焼き器を使うなど、使用量を減らす工夫が有効です。

価格安定の見通し

専門家によれば、2025年1月以降に導入された雛鶏が本格的に産卵するのは約半年後の2025年夏ごろです。供給回復が進めば2026年夏には価格が落ち着く可能性があります。

ただし、これには二つの条件があります。一つは鳥インフルエンザが再び流行しないこと、もう一つは猛暑による「夏バテ卵」の被害が拡大しないことです。リスク要因次第では、高値が長期化する可能性も否定できません。

まとめ

卵は私たちの食生活のインフラとも言える存在です。価格の乱高下は、農業、感染症、気候、外食産業といった社会全体の縮図を映しています。

「エッグショック」は家計の問題であると同時に、私たちがどのように食と向き合うかを問いかける現象でもあります。価格の動向を冷静に見極めながら、代替食材の活用や購入方法の工夫など、柔軟な対応を心がけることが大切です。

栄養価値の高い卵を上手に取り入れながら、健康的な食生活を維持していきましょう。

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