SNS上で「99%の医者は自分に抗がん剤を使わない」という投稿が拡散され、多くの医師や医療関係者から強い反論が寄せられました。このような発言は、抗がん剤治療に対する根拠のない不安や誤解を助長し、がん患者やその家族に不必要な恐怖を与える危険性があります。
私のXのアカウントに、このような「通知」が有りました。
ある医師が、「99%の医者は自分に抗がん剤を使わない」というポストを行い、それに対して多くの医師が反論のポストを行い、元記事は削除されたが、いまだにリポストが続いている、というお知らせです。
わたしがそれに何らかのリポストをしたので、それが今も相次いでいるよ、ということを知らせてくれたのです。
「2015年」とあるので、元ポストはもうだいぶ前のことですが、まだ論争は続いているようです。
#抗癌剤の真実
ある本「99%の医者は自分に抗がん剤を使わない」→「そんなわけない」と医師ら反発https://t.co/j37obP5PCf pic.twitter.com/O2Fg6pl7h4— ?????????????? ??(前村純一) (@ponsukez) November 8, 2024
要するに、医師という肩書で、現代医学を否定するようなポストをするなということですね。
みなさんも、しばしば、「がんよりも、抗がん剤で命を落とす(から抗がん剤をやめよう)」という説を聞いたことありませんか。
「99%の医者は抗がん剤を使わない」は本当か?
結論から書くと、この主張の根拠は極めて曖昧です。
実際、医師の間で「自分ががんになったら抗がん剤を使うか?」という調査が公式に行われたことはなく、99%という数字も科学的な裏付けがありません。
だからこそ、元のポストは消されてしまったのでしょうね。
実際の医療現場では、がんの種類や進行度、患者の年齢や体力、生活環境などを総合的に判断し、最適な治療法が選択されます。
つまり、何が何でも抗がん剤をする、というのではなく、抗がん剤治療はその選択肢の一つであり、多くの医師自身も、必要と判断すれば抗がん剤治療を受けることを選ぶでしょう。
抗がん剤治療の現実
副作用は確かにあるが、効果も大きい
抗がん剤には副作用があることは事実です。吐き気や脱毛、白血球減少など、患者にとって負担となる症状が現れることがあります。しかし、現代の医療では副作用を予防・軽減する支持療法(サポーティブケア)が進歩し、かつてほど苦しい治療ではなくなっています。
がんの種類によって有効性が異なる
抗がん剤はすべてのがんに万能ではありません。一部のがんでは手術や放射線治療が主役となりますが、抗がん剤が最も効果を発揮するがんも多く存在します。たとえば、血液がん(白血病や悪性リンパ腫)や一部の固形がん(精巣腫瘍、小児がんなど)では、抗がん剤治療が治癒をもたらすことが証明されています。
医師も「自分に必要なら使う」
医師は抗がん剤の副作用や限界をよく理解していますが、それと同時に治療効果も熟知しています。だからこそ、自分や家族が治療を受ける立場になったとき、科学的根拠に基づき最善の治療を選択します。実際、がん専門医が自ら治療を受ける際に抗がん剤を選択する例は少なくありません。
抗がん剤がきくといわれているがんの部位
抗がん剤が効果を示す可能性のあるがんの部位は多岐にわたります。具体的には、以下の部位のがんに対して抗がん剤治療が用いられることがあります。
血液がん
白血病、リンパ腫、多発性骨髄腫など、血液細胞のがんに対しては、抗がん剤が主要な治療法となります。
固形がん
肺がん、乳がん、大腸がん、胃がん、膵臓がん、卵巣がん、前立腺がんなど、様々な固形がんに対して、手術や放射線療法と組み合わせて抗がん剤が用いられることがあります。
脳腫瘍
グリオーム、髄芽腫など、脳腫瘍の種類によっては抗がん剤治療が選択肢となります。
小児がん
骨肉腫、神経芽細胞腫、白血病など、小児のがん治療において抗がん剤は重要な役割を果たします。
いうまでもないことですが、抗がん剤の効果は、がんの種類、進行度、患者さんの状態などによって異なります。
なぜ「抗がん剤は怖い」というイメージが広がるのか
副作用の強調と情報の偏り
抗がん剤治療の副作用がメディアで強調される一方、治療によって救われている患者の存在や、支持療法の進歩についてはあまり報道されません。また、一部の医師や著者が「抗がん剤否定論」を唱えることで、誤解が拡大しています。
ネット上の誤情報の拡散
SNSやインターネット上では、科学的根拠の乏しい情報や極端な意見が拡散しやすい傾向があります。今回のような「99%の医者は使わない」という主張も、その一例です。
抗がん剤治療の進歩と今後
新しい薬剤の登場
近年は、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤など、副作用が比較的少なく、がん細胞を狙い撃ちする新しい薬剤も登場しています。これにより、患者の生活の質(QOL)を保ちながら治療できる選択肢が増えています。
患者中心の医療へ
現代のがん治療は「治す」だけでなく、「生活の質」を重視する方向に進化しています。患者一人ひとりの価値観や希望を尊重し、納得できる治療を選択できるよう、医療者と患者の対話が重視されています。
結論
「99%の医者は自分に抗がん剤を使わない」という主張は、根拠のない極端な意見であり、がん治療の現実を正しく反映していません。抗がん剤治療には副作用があるものの、多くの患者の命を救い、生活の質を保つために重要な役割を果たしてきました。医師自身も、必要と判断すれば抗がん剤治療を選択します。
誤った情報に惑わされず、信頼できる医療情報に基づいて治療を選択することが、患者と家族にとって最も大切です。医療は日々進歩しています。正しい知識と冷静な判断で、最善の選択をしていきましょう。
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