「MMTでは財政破綻食い止められない」という松山幸弘さんの寄稿が話題。だがMMTはそもそも財政破綻しないという前提ですが……

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「MMTでは財政破綻食い止められない」という松山幸弘さんの寄稿が話題。だがMMTはそもそも財政破綻しないという前提ですが……

「MMTでは財政破綻食い止められない」という松山幸弘キヤノングローバル戦略研究所研究主幹の『MediaNote』における寄稿が話題です。しかし、そもそもMMTは財政破綻しないという前提ですから、食い止められないもヘッタクレもないので、それはたんなるストローマン論法ではないでしょうか。

赤字国債依存は財政破綻しMMTはそれを止められないという話

『MediaNote』というサイトによると、キヤノングローバル戦略研究所研究主幹、豪州マッコーリー大学オーストラリア医療イノベーション研究所名誉教授の松山幸弘さんは、コロナの医療や社会保障などは「赤字国債」に依存しているからこのままではいずれ財政破綻する。

しかし、MMTにはそれを救えない、という話をしています。

ただまあ、ひとつひとつは、以下書きますが、私ですら聞いたことのある、手垢にまみれた、かなり初歩的な「藁人形」のように思いました。

これがまとめサイトです。


別に経済学の専門家でなくても、「この人はなにかにとりつかれたような主張だ」と思えてしまうでしょう。

つまり、「プライマリーバランス」と「財政破綻」が、頭からこびりついて離れないのです。

全体を通して、財政破綻したらこうなるという主観を述べているだけで、その主観の中身以前に、財政破綻しないというMMTに対する反証とは無縁の話であるということです。

にもかかわらず、MMTはダメだと言っているのです。

MMT批判のつもりがそうなっていない

いくつか気になったところを枚挙します。

>社会保障制度の根幹である「給付と負担のバランス」は国民の選択であり、これがベストという理論上の最適解は存在しません。

「給付と負担のバランス」としていますが、MMTは「スペンディングファースト」といって、税収を財源として社会保障を行うという立場をとっていません。

何度も書いてきましたが、徴税の役割はおおまかなところで、以下のようなことが考えられます。

  1. インフレ抑制
  2. ……MMTによる国債発行のコントロールはインフレ率による

  3. 格差の是正
  4. ……累進課税によって富裕層と中流層・貧困層との格差を広げないようにする。そもそも富裕層にとっての税は、同額であっても中流層・貧困層よりも犠牲が少ない

  5. 円の通貨としての価値を担保する
  6. ……納税義務を貨幣(円)で果たすことで、その貨幣に価値(需要)が生まれる

  7. 社会秩序を守るために利用する
  8. ……お酒やタバコに税金をかけることで、需要をコントロールすることができる

広島修道大学商学部のNguyen Duc Lap(グエン)教授は、こうまとめています。

政府の支出と収入(税収)は同じでないといけないということではなく、『完全雇用に寄与しているか』、『インフレを招いてはいないか』といった実際に財政がマクロ経済おける果たしている役割を行うべきである。つまり、何よりも、財政政策によって潜在成長率を高めるような『有効な支出』ができるかどうかが重要であり、政府の財政赤字は民間部門の黒字であるため、経済の活性化につながる( https://www.hiroshima.doyu.jp/news/16076/)

ここは、MMTとそうでない主張とのもっとも根幹部分です。

つまり松山幸弘さんは、「存在しません」と断言することで、もうそれ(バランス)以外の論点の論考を拒絶していることです。

でも、それでMMT云々というのは、おかしな話です。

「論破」や「論駁」というものは、対象の論理や価値観の土俵に入って反証しなければなりません

それなしに、「私はこう思う」といっても、相手も「いや、自分はこう考える」という、平行線が永遠に続くだけです。

つまり、噛み合わないのです。

松山幸弘さんが、「給付と負担のバランス」と断言するのは自由ですが、それをもって、MMTに反証したことには当然ですがなりません。

松山幸弘さんの主観が、MMTの財政規律の立場にはない、というだけのことです。

>現代貨幣理論(Modern Money Theory:略称MMT)”では財政破綻の兆候が見えたときに税率を引き上げればよいということになっているため

ですから、こんな頓珍漢な方向に話を持っていくのです。

「財政破綻の兆候が見えた」とありますが、「国家財政は破綻しない」というのがMMTの大前提ですから、「破綻の兆候」もヘッタクレもないのです。

こういうのを、ストローマン論法(藁人形論法)というのです。

MMTは、通貨発行権のある政府は財政的予算制約には直面しないから、いわゆる「財政再建」ではなく経済安定を目指すべきと提唱しています。

松山幸弘さんの言う「財政破綻の兆候」とはたぶん、よく言われるインレ率2%までが通過供給のめやすとう話だと思いますが、この数字はそもそも日銀が「年2%のインフレ率を目指している」わけですから、「財政破綻の兆候」ではないはずです。

それとも、日銀は「財政破綻の兆候」を目指しているのでしょうか。

>財政破綻を食い止めるためには消費税率を30~40%引き上げる必要があるでしょう

「財政破綻」がストローマン論法(藁人形論法)である上に、間接税というのも多くのMMT支持者は悪税としています。

逆に、インフレを抑えるためには需要を喚起することが必要だから、消費税を下げる(なくす)という選択肢を提唱しているほどです。

ですから、「現在の政治家にそんな決断をできるとは思えません」と心配していますが、どのみちMMT評価とは関係ない話です。

>日本政府は日銀に国債を買わせた資金で米国債を無制限に買い、財政破綻した際の対策財源を米国に肩代わりさせることが可能ということになります。

これも「財政破綻」を前提とした仮定の話ですし、どうして米国債を無限に買うのかわかりません。

もちろん、MMTでそうするという提唱しているわけでもありません。

>国債はいくらでも発行できる

これも、手垢にまみれた「藁人形」です。

そして、きわめつけはこれです。

>戦後に実施された預金封鎖を振り返れば分かるように、財政破綻が起これば1900兆円に積み上がった家計金融資産(現金、預金、保険、年金、株式など)を政府が召し上げます。

まさか、こんな「反証」をする人がいまどきいるとは思いませんでした。

終戦直後は、多額の敗戦国戦時賠償の懸念、民間の急激な復興の需要、一方でズタボロになってしまった供給力という特殊な事態から政府はハイパーインフレを心配。

1945年(昭和20年)12月に預金封鎖と新円切替など立法化した経緯があります。

現在、そのどれにも当てはまっていません。

それどころか、緊縮財政によってどうにもならないデフレ状態ではないですか。

日米英、すべてで国の「借金」総額は増え続けているけれど、なんの問題もない、というツイートを藤井聡さんが、数字で示されたことはすでにご紹介しました。


「増え続け」た時期は、破綻するどころか高度経済成長で増収していたのではないでしょうか。

負債があって預金(財源)があるというのがMMTの立場

松山幸弘さんがMMTを否定したいのなら、MMTの主張する点について反証しなければなりません。

繰り返しますが、松山幸弘さんの話は、たんなる財政破綻の個人的な妄想で、MMTを否定したことにはなっていないのです。

私は、MMTは専門家でもありませんが、そんな私でも、反MMTの主張というのは、どうもパターン化しているように思います。

とくに、この2つは必発ですね。

  • 財政破綻とプライマリーバランスありき
  • MMTは「赤字国債」を際限なく増やし続けていいというデマゴギー

鶏が先か卵が先か、なんてよく言いますが、貨幣についてはどちらが先かははっきりしています。

MMTの場合、万年筆マネーなんて言われますが、負債(銀行貸出)がまずあり、後からそれと見合いの金額(預金)が生まれるのです。

現在の主流となっている経済学は、まず財源があってそれをなにかに使う(預金なら又貸しする)という考えであり、預金(財源)と負債の因果関係が逆というわけですね。

逆であると何がまずいのか、その点を述べないとMMT批判にはならないのだと思いますが、いかがでしょうか。

以上、「MMTでは財政破綻食い止められない」という松山幸弘さんの寄稿が話題。だがMMTはそもそも財政破綻しないという前提ですが……、でした。

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